第62話 いざ鹿児島へ
金曜日の放課後、オレは隠れ家で東雲さんと秘密の取引をしていた。
「ロングソード10本、確かに受取りました。これで合計45本、目標の50本まであと5本だけど大丈夫かな?」
「はい、だけど、週末は用事があるので週明けになっちゃいますが構いませんか?」
「ふぅーん、ほどほどにねっ!♡」
ほどほどって、この人何か勘違いしてるんだが……。
まぁいいさ、オレはこの後忙しい。誤解を解くのは今度にしよう。
「ハハハ……」
頭をかいて照れ笑いをすると、東雲さんから別の質問が飛んできた。
「ところで、旅行の人選は決まったのかしら?」
「はい、香織と慎吾を誘いました」
「了解。それじゃ、こちらで旅行の段取りを進めておくわね。但し、この旅行は真壁閣下もご承知だから、くれぐれも間違いの無いようにね! でも、若いから間違いがあっても仕方がないわねぇー!」
何を面白がってるんだ、この人はぁー?
「も、もちろんです!」
オレはきっぱりと答え隠れ家をあとにした。
家に帰ると、さっそく鹿児島までの交通手段をスマホで調べる。
「えーと、検索欄に東大和市から鹿児島を選んで検索っと……」
実は、お昼休みに慎吾と一緒に島根旅行のルートを調べていたので、交通手段と宿探しの方法は何となく理解していた。
しばらく待つとスマホの画面に色んなルートが表示され、スマホ初心者のオレはバカ正直に1つ1つをじっくりと読んでいく。
「どれどれ……電車だと12時間もかかるのかぁ。おまけに乗り継ぎも5つ以上、うーんダメだこりゃ」
次は飛行機、どのくらいで着くのだろう?
「ややっ、飛行機は羽田から鹿児島まで約2時間。決まりだな!」
次は羽田空港の中だが……おっ、搭乗アドバイスがあるぞ。
「なになに、搭乗1時間前にチェックインを済ませなきゃいけないのかぁ。早めに出ないといけないなぁー」
自慢じゃないが、飛行機に乗るのは始めてだ。
何をどうして良いのか全く分からないが、全く分からない異世界でも何とかやってこれた経験から、オレには何とかなるさという根拠のない自信があった。
「えーと、東大和市から羽田までが1時間。鹿児島便が1時間毎に出ている訳だから、ここを朝7時に出れば8時には羽田空港に到着。チェックインに1時間かかるとして、9時台の飛行機に乗れそうだ。そうなると11時に鹿児島空港に到着。リムジンバスで鹿児島駅には12時過ぎ。13時までホテルにチェックインしたとして、下見開始は14時頃になりそうだな」
自分の部屋で、ブツブツ言いながら調べたルートを手帳に書き写していると、台所からオレを呼ぶ母の声が聞こえてきた。
「創真、ご飯よー」
「ええっ、もうこんな時間?」
いつの間にか午後の8時、大和家の夕食の時間になっていた。初心者のスマホ操作は何かと時間がかかるのだ。
オレは夕飯を食べながら週末の予定を母に話す。
「母さん、明日は朝早くに鹿児島へ行ってくるよ」
「もしかしてレールガンと関係があるの?」
母が心配したので、オレは小さなウソをついた。
「ああ、ちょっと見学して来るだけ。危ない事はしないよ」
「そうなの、気を付けて行って来るのよ」
「うん」
母も心配していたが、それほど動じてはいない様だ。たぶん、異世界に比べれば国内はマシなのだろう。
夕食後はお風呂に入り、装備を整えて午後9時に異世界転移をするのが最近の日課だ。今日も転移をしようとしてオレは大事な事に気付いた。
「マズい、宿を取っていないぞ」
しょうがないので、異世界転移を遅らせて、もう一度桜島周辺のマップを見る。
「レールガンがあるのは垂水市だから、垂水市のホテルを予約すれば良いのかな……」
検索画面に『垂水市のホテル』を入力すると、ホテル一覧が表示されたのだが、垂水市のホテルは全て予約不可となっていた。そして、隣接都市のホテルも同様に不可、不可、不可。
その理由は、ネットの情報で直ぐに分かった。というのは、現在、垂水市を中心に避難指示が出されており、ほとんどの住民は他都市へ避難しているとの事だった。
そうなると、次に近い都市は鹿屋市か霧島市になるのだが、海を挟んで最も近いのが鹿児島市だ。そう言えば、海の防御が心配だと香織パパが言ってたっけ。
それに、鹿児島の街から桜島まで、どれくらいの距離なのかを実際に見ておく必要もある。ここは、鹿児島市内で宿を取るのがベストだろう。
オレは鹿児島中央駅近くのホテルを予約した。
時計を見ると既に午前1時。4時間もスマホを触っていた様だ。
オレは急いで勉強と旅行の準備を済ませると、異世界勉強1泊2日の旅に出かけた。
ちなみに、和倉屋の部屋に転移したオレは直ぐに寝てしまい、夜に目覚めて大慌てをしたのは言うまでもない。
変な時差ボケを抱えながらも、何とかテスト勉強をやりきったオレは、残りの鋼の剣5本を持って自宅へ帰還した。
ガタンッ。
日本での時刻は土曜日の朝6時。いよいよ、鹿児島へ向けての国内一人旅が始まる。
今回の装備は異世界の装備とほぼ同じだが、風の剣は中学時代に使っていた肩に担げる黒革の竹刀入れ。バッグラーはリュックの中。見た目は剣道大会に参加する高校生だ。
オレは意気揚々と家を出て、まずは東大和駅から羽田空港へ向かう。1時間電車に揺られて羽田空港に到着すると、初めて見る世界がそこにあった。
「キップはどこで買えばいいんだよおー?」
オレは、空港の係の人に手取り足取り教えてもらい、9時発鹿児島便のチケットを何とか買う事ができた。
しかし、保安検査を通過する際に重大な事件が起きてしまった。
【第62話 いざ鹿児島へ 完】




