第61話 ミンミンの異変
同じ頃、自衛隊中央病院のICUでは、山南軍医立会いの元、ミンミンの墮胎手術が行われていた。
「ふぅー、本当に危ない所でした」
担当医が子宮から取り出したのは、ピンポン玉くらいに育ったゴブリンの幼体だった。
「先生、お疲れ様でした。あと1日遅ければ帝王切開になる所でしたわ」
「はい、予想を超える速さで、正直焦りました」
ミンミンが運び込まれてから今日で7日目。その間、薬で墮胎を試みていたのだが全く効果が無く、今日の手術に至ったのだった。
手術を終えたミンミンは手術台で眠っており、その横で担当医と山南が話をしている。
「山南先生、1つ気懸かりな事があります。この幼体を見て下さい」
「先生、これが何か?」
「はい、これだけ強い生命力を持ちながら、へその緒を切ったとたんに息絶えたんです。まあ、人間の未熟児と変わらないのですが、どうも引っかかるんです」
山南はトレイに横たわる息絶えたゴブリンの幼体を見て首をかしげた。
「先生は何か考えがお有りなのですね?」
「はい、あくまでも私の推論なのですが、彼女のベッドのパイプが握り潰されていたんです」
「えっ?」
「笑わないで聞いて欲しいんですが、流産の薬のせいで、ゴブリンの力が彼女の中に流れ込んだのではないかと……」
力の強い大男でも握り潰す事など出来ない病院のパイプベッド。ゴブリンであれば握り潰す事は可能だが、それをミンミンがやったなんて!
真面目に語る担当医の目に嘘偽りはなく、ミンミンに起きた変化を事実と受け止めた山南は、核心に迫る質問をした。
「つまり先生は、ゴブリンの力が彼女に宿っているとおっしゃりたいのですか?」
「……はい」
・・・・・
同時刻、朝霞駐屯地にある開発本部の実験場で、藤田開発部長と真壁親子が破壊試験の様子を見守っていた。
「真壁室長、我々が調べた魔石の特性をお見せします」
破壊試験。掘削機を思わせる縦長の破壊検査を目的に作られた工作機械。魔石が台座に固定され、上から長くて重い鉄の棒がギロチンの様に落ちてくる。
ガキンッ!
藤田が工作機の窓を開け、エアーで破片を取り除き中の魔石を確認する。
「真壁室長、これが警察官が持つ拳銃と同じ35キロの衝撃ですが、キズ1つ付いておりません」
藤田は再び台座に魔石をセットして次の段階を説明する。
「次は我々自衛隊装備のライフル300キロの衝撃です」
ガキィーンッ!
魔石にはキズ1つなかった。
「次は現代最強、コブラの機関砲10トンの衝撃です」
ドゴォォーンッ!
これでも、キズが付かなかった。
「これからが本番です。今度は20トン。鹿児島に配備されたレールガンです」
藤田は真壁親子に向き直り、サーカスのフィナーレを思わせる手振りで起動スイッチを押した。すると、激しい射出音と共に凄まじい衝突音が室内の実験場に鳴り響いた。
ドガガガガガガァァァァァァーンッ!!!
窓を開けると、台座に固定されていた魔石が粉々に砕け散っていた。
「こ、これはっ?」
真壁の驚いた顔を見て、藤田が得意げに話す。
「そうです。現代兵器でも、20トンの力を加えると、ゴブリンの見えない壁を貫く事が可能なのですよ!」
「藤田君、君は何が言いたいのかね?」
真壁が藤田を睨みつけた。しかし、藤田は悪びれる様子もなく説明を続ける。
「おっと、これは失礼。誤解を与えてしまいましたね。私が言いたいのは、これだけの威力を出さなければゴブリンを倒せない。つまり、非効率だと言っているんです」
「そ、そういう事か……、ふぅー」
真壁親子は彼の言動が裏切りではなく、単なる天然だと知って安堵の溜め息を漏らした。
とかく、研究肌の藤田は気を配らない。
「次は魔剣の話をしましょう。こちらへどうぞ」
藤田に連れられて2人は隣の研究室に入った。すると、その中はX線装置を始め色々な研究機器が並び、コンピュータで解析できる様になっていた。
そして、中央のテーブルの上には、1本のロングソードと数個の魔石、その横には3本の日本刀が置かれている。
「どうぞ、お座り下さい」
真壁親子が席に座ると、さっそく藤田の講釈が始まった。
「さて、私はこの6日間、真壁室長から頂いたロングソードとゴブリンの魔石16個を元に、あらゆる実験を行ってきました。そして、遂に魔石の力を刀に伝える事に成功したのです!」
「そ、それは、本当かねっ?」
真壁室長が勢いよく身を乗り出した時、研究員がコーヒーを運んできた。
「藤田部長、コーヒーをお持ちしました」
「ご苦労、では話をする前に我が研究室自慢のコーヒーでも召し上がって下さい」
真壁親子はイライラしながら熱いコーヒーを飲んでいるのをよそに、藤田がコーヒーカップを口に近づけて匂いを嗅ぐ。
「うーん、良い香りだぁー」
イライラッ。
とかく、研究肌の藤田は気を配らない。
しばらくして、ようやくコーヒーを飲み終えた真壁室長が、業を煮やして藤田を問い詰める。
「それでっ、ロングソードを自前で作る事が出来たのかね?」
「ええ、出来たと言えば出来たのですが、ちょっと問題がごさいまして……。まずは、これを見て下さい」
藤田が非破壊検査装置にロングソードを入れると、パソコンの画面に剣が映し出され、その周りをオレンジ色の光が覆っていた。
「これは?」
「はい、このオレンジの光が魔石の力が及ぶ範囲を表しています。私達はこれを魔力伝導域と呼んでおり、魔力が刀身に伝わる割合を魔力伝導率と名付けました。仮に、このロングソードを魔力伝導率100%とします」
藤田は説明しながらロングソードと試作日本刀を入れ替えた。
「次は我々の試作日本刀です。先程粉砕した魔石を刀身に混ぜ込みました」
すると、画面に日本刀が現れ、その周りをオレンジ色の光が覆っているのだが、所々に色が付いていない。
真壁は訝しげな顔で質問を返す。
「色が付いていない部分があるのだが?」
「はい、これが問題なのです」
藤田は冷めたコーヒーを一口飲んで、屈辱めいた顔で結論を話した。
「この色の無い部分がゴブリンに当たると……折れるんです」
「えっ、それはどういう事かね?」
「つまりですね、この試作日本刀の魔力伝導率は80%、使えるには使えるのですが、不安定でして……使ってみますか?」
真壁室長が息子を見つめると、険しい顔の陸が答えた。
「父さん、部下にその様な武器は持たせられません」
「そうだな、残念だが研究は……」
気を配れない藤田が、ようやく状況を把握した。
「ちょ、ちょっと待って下さい。研究はまだ始まったばかりです。1週間後、いや2週間後には問題を解決してみせますので、もう少しだけ時間を下さい!」
「……分かった。でも時間が無い。急いでくれ給え」
真壁親子は複雑な表情を浮かべて研究本部を後にしたのだった。
【第61話 ミンミンの異変 完】
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