第59話 回復スキルを持つ者
木曜日出発、異世界討伐2泊3日の旅1日目。
ここは転移の丘。
オレとヤタは地面に座って言い争いをしており、その周りで鴉部隊20羽が事の成り行きを見守っている。
「だからぁー、マモシの方が楽だってばあ!」
「イヤだッ! せっかくレベルが上がったのに、なんで弱っちいマモシなんか狩らにゃならんのだ。アァーン?」
「じゃあ何を狩るってのさーっ?」
「そりゃ決まってるぜ、Lv16の魔鳶よっ!」
「おいおい、せっかくバフスキルのお陰で鴉のレベルが16へ上がったのに、同格の相手だと意味がないじゃないかあー!」
「フンッ!」
ヤタは話も聞かずにそっぽを向いた。
魔鳶。
鴉と同じ雑食でエサの競合相手だ。体格が鴉より一回り大きいため、たびたびエサを横取りされ、鴉達はいつも苦汁を飲まされているとの事だ。
仕返ししたい気持ちは分からなくもないが、レベルが同じでも体格はあちらが上。オレとしては確実路線でいって欲しいのだが……。
「タケじい、笑ってないで何とか言ってくれよー」
「カッカッカッ! まぁ良いではないか。一度やらせてみてはどうじゃ?」
タケじいが言うのならと渋々うなずき、上空を我が物顔で滑空している魔鳶を眺める。
ヤタも上空の魔鳶に狙いを定め、いざ先陣を切って飛び立とうとした時、タケじいが呼び止めた。
「ヤタよ、魔鳶は多彩なスキルを持っておるゆえ気をつけるんじゃぞ。特にクチバシインパクトには要注意じゃ!」
「主様、お気遣い感謝します。期待して待ってて下さい!」
オレもタケじいに倣って、ヤタを後押しする。
「あっ、待って! オレからも報酬を追加するよ。かっぱえびせんの他に、新商品『ヨっちゃん』も付けるから、ガンバってね!」
「ヨっちゃん? まぁ期待しておくよ。じゃあな、創真!」
心なしか、ヤタの口調が変わった様な……。
やがて全ての鴉部隊が上空へ飛び立つと、しばらくして各所で戦闘が始まった。
オレは転移の丘にある小高い岩に腰掛けて、鴉達の戦闘を見守る。
すると、ちょうど前方にいる鴉部隊が3羽1組になり、大空に漂う鳶に襲い掛かった。
カァー、カァー、カァー!
ピーヒョロロー!
3対1とは、ヤタも考えたもんだと思いきや、3羽ともただ突撃するだけ。連携も何もあったもんじゃない。
案の定、全ての攻撃が交わされると、鳶の必殺技クチバシインパクトが炸裂した。そして、必殺技を食らった1羽がキリモミしながら地上へ落ちていく。
戦闘開始から、あっという間に2対1。このままではきっと負ける。他の鴉部隊も苦戦しており、かなり厳しい状況だ。
「これは、かなりマズいぞ!」
オレは急いで鳶と鴉を鑑定した。
魔鴉 Lv 16(補正)
魔法障壁 Lv1
スキル クチバシ突進、闇魔法(黒霧)
魔鳶 Lv 16
魔法障壁 Lv1
スキル クチバシインパクト、シノ爪、番線カッター、ラチェットキック、モンキーパンチ
魔鴉と魔鳶、レベルは同じだがスキルの数で圧倒的に負けている。しかし、バフ補正によって新たに出てきた闇魔法。ここから勝機を見い出せないものか?
オレは黒霧の内容を見る。
『黒霧とは、相手の視界を黒霧で覆い目眩ましをする』
「コレだっ!」
オレはヤタに念話を送った。
「ヤタ、聞こえるか?」
「ああ、創真か。今、苦戦してて長話しは出来ねえぞっ」
「じゃあ手短かに言うぞ。部下に黒霧を使わせてくれ! 続けて3羽同時攻撃だっ!」
「へえー創真、指示を出すなんて将らしくなってきたじゃねーか。分かったぜ!」
そこから、鴉部隊の動きが変わり始める。
まず鴉のリーダーが黒霧を放ち、魔鳶が黒霧に包まれると3羽同時の一斉攻撃。そして、相手が倒れるまで攻撃を繰り返す。やがて魔鳶が力尽き、旋回しながら地面に落ちて鴉部隊が初勝利を収めた。
「よしっ!」
オレがガッツポーズをすると、隣でタケじいが微笑んだ。
「フォッフォッフォッ! 良きかな良きかな。敵を知って己を知る。たしかぁ、解体新書じゃったかのぉー」
「医学かよっ!」
今日の戦果は魔鳶が15羽。金額にすると金貨2枚と銀貨4枚。
そして、鴉達は日頃のうっぷんを晴らせた様で、ヨっちゃんを食べながら盛り上がっている。
「創真、このヨっちゃんは絶品だなぁー。見直したぜ!」
ガクッ。
「采配よりもヨっちゃんかよっ!」
オレは愛想笑いを浮かべながら、次回は人気ナンバーワンのウマい棒で、ヤタにギャフンと言わせてやろうと心に誓った。
・・・・・
木曜日出発、異世界討伐2泊3日の旅2日目。
ここは昨日と同じ転移の丘。
山と積まれた人参を乗せたリアカーの横で、オレとイナちゃんが向い合って賭け事をしている。そして、その周りを兎部隊の赤組50羽と青組50羽が事の成り行きを見守っている。
「だからぁー、今度は青組が勝つってば!」
「チッチッチ、創真のダンナ、まだまだ見る目が甘いでやすよ。イナちゃんは赤組が勝つと思うんだぜぇー!」
オレとイナちゃんが熱い議論を交わしていると、上空で大きな翼の音がした。
バサッ、バサッ、バサーッ!
「それじゃー、俺様も赤組に賭けるとするかぁー!」
突然、ヤタが飛び入り参加した。
「創真、俺様が勝ったらヨっちゃんだあ! リュックの中に、もう1缶有るのを知ってるんだぜっ!」
「それじゃ、あっしはキャロットジュースでおねげーしやすっ!」
どうやら、ヤタとイナちゃんは共同戦線を張った様だ。
ちなみに、オレが勝ったら、ヤタはかっぱえびせんで我慢する。イナちゃんは人参で我慢する。どこまでも子供みたいなヤツらだ。
「いいかい、最初に魔石を100個集めたチームの勝ちだ。いくよっ、ヨーイ、スタートッ!」
今日のターゲットはLV2の異魔護。スライ厶の次に弱い魔物で、主に麦畑に潜んでいるバッタ、いや異魔護だ。
麦畑までの長い距離、持久力のある青組が先頭を走り、瞬発力自慢の赤組が徐々に離されていく。そして、ヤタとイナちゃんの声援が激しくなる。
「レッド、負けたら晩飯抜きだぜえー!」
「レッド、クチバシ突進されたいかあー!」
2人の隊長の必死さを見て、オレは勝利を確信していた。しかし、それが間違いだったと直ぐに気付く事になる。
考えてみればイナちゃんはレッドの親分、ヤタは千里眼を持っている。それに両者共にくわせ者。何かあるとは思っていたが、まさか兎がこんなに凄いスキルを持っていたなんてっ!
突然、レッドが雄叫びを上げた。
「朝ー鮮ー人ー参ー!!」
すると、遅れていた赤組が息を吹き返し、まるで競馬の差し馬の如く一気に青組を追い抜いていく。
ドドドドドドドドドーッ!!
どうやら、これは回復系スキルの様であった。
【第59話 回復スキルを持つ者 完】




