第33話 ミンミンの悲劇
ネットの中は大混乱に陥っていた。
>>オイオイ、これはヤバいぞ!
>>誰か警察に電話しろっ!
>>警察には何て言えばいいんだよ?
>>動画を見せればいいだろ!
>>直接行かなきゃ無理だよ!
>>何でもいいから連絡してくれよっ!
>>そう言うお前が連絡しろよ!
その間も生配信は続いている。
「ギギーッ! ギヒーッ! ギギャッ!」
背後から聞こえる不気味な声に、カメラを構えたマネージャーが恐る恐る振り向くと、そこには3匹のゴブリンが凶悪顔で笑っていた。
そして次の瞬間、ゴブリンの鋭い爪がマネージャーを引き裂いた。
シュパァァァァァァーッ!
「うぎゃあああああああー!」
マネージャーは喉を引き裂かれ即死だった。しかし、彼の手から転げ落ちたカメラが、偶然にも画面の隅に、残された彼女の姿を捉えていた。
喉から血を噴き出し無惨な姿になったマネージャーを見て、ミンミンが悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁぁぁー! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!!」
マネージャーを殺した3匹のゴブリンは凶悪な笑みを浮かべながら、ゆっくりと彼女に近づいていく。
「いゃあああー、来ないでぇぇぇーっ!」
恐怖におののくミンミン。
そんな彼女を取り囲む下卑た笑みのゴブリン達。そして、その中の一匹が鋭い爪で彼女の衣服を切り裂いていった。
ビリビリビリィィィーー!!
それから次々と…………。
「やめてぇぇぇー、いゃぁぁぁーっ!!」
1匹目、2匹目、3匹目が……。
「 やっ、やめっ、ひっ、ひぃぃっ、あああああーっ!」
その後はゴブリンに抱えられ、小屋の中に姿を消してしまった。
ネットの視聴者は、凄惨な光景を目の当たりにして絶句する。
>>…………………………
>>…………………………
>>ゴ、ゴブリンの声、初めて聞いた。
>>ゴブリンの顔、マジ怖い!
>>感想はいい、警察に電話だ!
>>俺、マジ電話する。
>>俺も!
>>俺も!
>>急げ! 急げ! 急げえええーっ!!!
あまりにも衝撃的な出来事に、ようやく我に返った視聴者達が警察へ一斉に電話をかけた。
トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル……!!
深夜の東京、警察所の電話が鳴り響く。また、警察へ直接出向き動画を見せる者も数多くいた。異常な通報の多さに事態を重く受け止めた警察は直ぐに動いた。
「緊急指令! 多摩湖にゴブリン発生。周辺のパトカーは現地へ急行せよっ!!」
それから30分後、深夜の多摩湖に数十台のパトカーが集まり、およそ100人の警察官が小屋を包囲した。そして、集まった警察官には突入の指示が出されておらず、別の部隊の到着を待っている様であった。
・・・・・
同時刻、防衛大臣から真壁室長の元に連絡が入る。
「真壁君、多摩湖にゴブリンが出た。早速だがGATを出動させてくれ給え!」
「承知しました。至急出動させます!」
香織パパは一息つくと、息子の陸に電話を掛けた。
「父さん、こんな夜中にどうしました?」
「陸、多摩湖にゴブリンが出た。小屋に人質4人と立て籠もっている。それを警官隊100名が包囲している様だ。至急GATを派遣してくれ!」
「了解しました!」
陸は直ぐさま近藤を叩き起こし出動命令を出す。
Uuuー、Uuuー、Uuuー、Uuuー、Uuuー、Uuuー!!!
GATの宿舎にサイレンが鳴り響き、飛び起きた隊員達は新たな戦闘服に身を包み、30分後には格納庫の前に全員が整列していた。
その中心には、背中にGATの文字が刺繍された黒い戦闘服の真壁陸佐がいる。
「真壁陸佐、GAT小隊9名全員が揃いました!」
近藤からの報告を受け、陸は皆に作戦を告げる。
「諸君、結成初日だが多摩湖にゴブリンが現れた。数は十数匹。人質4人と小屋に潜んでおり、その周りを警官隊100名が包囲している。朝霞から多摩湖までは30分。被害が出る前に急ぐぞ。全員乗車っ!」
高速機動1号車には真壁陸佐と近藤、2号車には土方が指揮する形で乗り込むと、陸が大きな声で号令をかけた。
「GAT隊出動!!」
結成間もないGAT隊を乗せた2台の高速機動車は、多摩湖へ向けて発進していった。
・・・・・
ちょうどその頃、警官隊が包囲している小屋の中から1匹のゴブリンが外に出てきた。そして、不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと警官隊に近づいてくる。
「と、止まれえええーっ!」
パンッ!
ゴブリンの正面にいた警官が動揺して発砲した。すると、銃弾はゴブリンに当たる寸前で止まり、ぽとりと地面に落ちた。
「ギヒッ!」
ゴブリンはニヤリと笑い、どんどんと距離を詰めてくる。
「こ、こっちに来るぞっ、撃て、撃て、撃てぇぇぇーっ!」
パンッ! パンッ! パパパーンッ!
危険を感じた他の警官も一斉に発砲するが、全て何かに遮られゴブリンに当たる事は無かった。そして次の瞬間、ゴブリンが一気に迫り鋭い爪で警官を引き裂いた。
シュパァァァァァァァーッ!
「ぐぎゃあああああああー!!」
警官は顔面を切り裂かれ即死であった。
警官を葬ったゴブリンは、次の標的を定める様に、包囲している警官隊を獣の目で睨みつける。
「グルルルルルッ!」
「あ、あああー、俺はまだ死にたくなーい!」
恐怖に耐え切れず、1人の警官が逃げ出した。続いて周りの警官も1人また1人と逃げ始め、包囲網はあっという間に崩れていった。
「に、逃げろおおおーっ!!」
「くるな、くるなあー、ぐわああーっ!!」
「どけぇー、やめろぉー、ぐわあーっ!!」
班長らしき男が必死に声を張り上げる。
「待てぇー、持ち場を離れるなぁぁーっ!」
混乱する警官隊の滑稽な様を眺めたゴブリンは、勝ち誇った顔で小屋の仲間を呼び寄せる。
「ギギィー、ギギギー!」
すると、小屋の中から15匹のゴブリンが姿を現し、一斉に警官隊を襲い始めた。
「ギャッ! ギャッ! ギギャッ!!」
「ぐうわぁぁぁぁーっ!」
「ギャッ! ギャッ! ギギャッ!!」
「ぎゃあああああーっ!」
「ギャッ! ギャッ! ギギャッ!!」
「ぐぎゃあああああああああーっ!!」
ゴブリンの標的にされた悲運な警官達が次々と殺されていく。
後方にいる警官隊の隊長は、あまりの想定外に何の指示も出せずプルプルと固まっている。
補佐役の警察官が狂った様に本部へ救援を求め続ける。
「本部、本部! ゴブリンに歯が立ちませんッ! 早く、早く救援をををっ…………」
それから5分後、GAT隊にオペレーターから無線が入る。
「GAT隊、急いで下さい! 警官隊がゴブリンの襲撃を受けて壊滅寸前です!」
「了解。あと5分で到着する。それまで耐えてくれ!」
陸は前方に見える多摩湖の森を見つめながらGAT隊に指示を出した。
「GATの諸君、警官隊が襲われている。到着次第、戦闘開始だっ!」
「ハッ!!」
やがて、1号車の前方には大混乱に陥いる警官隊の姿が見えてきた。
【第33話 ミンミンの悲劇 完】




