第100話 聖なる光【第1部 最終話】
「ハッピー、ホーリー!!」
山頂にいる男の右腕から、虹色の光が上空へと伸びてゆく。やがて、雲の位置へ達した光の柱は傘の様な円弧を描き、七色に光る粒子となって四方10キロに飛び散った。
シュルシュルシュル……パーンッ!!
パラパラパラパラパラパラパラ……。
パラパラパラパラパラパラパラ……。
パラパラパラパラパラパラパラ……。
まるでダイヤモンドダストの様にキラキラと輝く七色の粒子は、暗い夜空を照らしながら周辺の山々に降り注ぐ。
七色の粒子が降り積もった草木は虹色に輝き、暗い山道を明るく照らす。
夜空を飛び交う羽虫にも七色の粒子が降り掛り、蛍の光となって辺りを照らす。
そして、近藤達の頭上にも七色の粒子が降り注ぎ、同様に死霊達にも降り注がれた。
ピタァァァァァァーーーッ!!??
救助者の上に覆い被さるスケルトンが動きを止める。
藤堂の足に絡みついて離れないゾンビも動きを止める。
そして、原田にも七色の粒子が降り注がれると、彼の顔色が次第に良くなり、やがて意識を取り戻した。
「い、いったい何が起こったんだ……?」
近藤は剣を構えたまま動きを止めた死霊達を見渡し、次いで、空から降り注ぐ七色の粒子の発生源を目で辿る。
すると、先程まで自分達がいた山頂に、上空へ光を放つ男の姿を確認した。
「あ、あいつは誰だぁーっ?」
GAT隊の面々も山頂の男を眺めるが、遠くて顔まで分からない。しかし、服装はジーンズの上下。人間の若者の様だが……。
そして、隊員達が口々に声を上げた。
「あれは……神様なのか?」
「これって……魔法なのか?」
「誰でもいい、彼は命の恩人だ!」
藤堂が嬉しそうに山頂の彼に向かって大きく手を振る。
「そこの君ぃー、あーりーがーとーう!」
すると、山頂から返事が返ってきた。
「早くぅー逃げてー下さぁーい。死霊をー止めておけるのはー1時間だけでーす!」
「なっ、何だってぇー??」
山頂へお礼に向かおうとしていた藤堂の足が止まる。
「それはーどういうー意味なんだぁー?」
しかし、返事は返って来なかった。山頂の男は姿を消してしまったらしい。
近藤達は男の言葉に従って、再び行軍を開始する。
今度は追い付かれる訳にはいかない。
ここにいる誰もがそう思い、おまけに虹色の光のお陰で辺りは明るい。
近藤達は最初とは比べ物にならない速さで、垂水市へ向かって駆け出していった。
・・・・・
一方、車両3台で撤退している陸達も、虹色の光のお陰で九死に一生を得ていた。
レールガン2号機一帯には400人以上の死体が転がっており、それらが起き上がり次々と襲ってくる。
先頭を走る高速機動車は陸が運転し、助手席には1番隊隊長の総子が乗っている。
総子は200匹のゴブリンに先駆けし、ボブゴブリン1匹を滅殺。その後、6匹のボブゴブリンと対峙して負傷していた。
気力も体力も使い果たし、体の至る所に打ち傷を負い、満身創痍の総子は動ける状態ではなかった。
「り、陸さん、ごめんなさい。私が動けていたら……」
いつになく弱気な総子に、陸は肩にそっと手を置いて優しく話す。
「いいえ、総子さんは十分にやって下さいました。だから、今は休んで下さい」
陸達の車の前では、1番隊がゾンビを薙ぎ払い道を作っている。
高速機動車は倒れたゾンビを踏み潰しながら少しだけ前へ進む。
しかし、新たなゾンビが道を塞ぐ。その繰り返し。更に、後続のゾンビが徐々に追い付いてくる。
陸はゾンビの壁が薄くなった所を、アクセルを踏み込んで一気に駆け抜けようと考えていた。
しかし、予想を上回るゾンビの壁に立往生を余儀なくされ、遂にはゾンビの数に耐えきれず、全員が車両の中へ避難していた。
ア、ア、アアアッー!
ウウー! ウウー! ウウウッー!
ゾンビが車両を激しく叩く。
ドンドンドンッ!
ガンガンガンッ!
救助された者達は怯えて耳を塞ぐ。
車両は完全に取り囲まれ、側面の薄い鉄板が破られるのも時間の問題。
陸は助手席の総子を見つめる。
「すまない、民間人の君をこんな目に合わせてしまって……」
「いいのよ、私は陸さんと一緒にいられただけで幸せでした……」
目を潤わせて話す総子を、陸はしっかりと抱きしめた。
「総子さん!」
その時だった。
空から辺り一面に七色の粒子が降り注ぎ、ゾンビの車両を叩く音が突然止まった。奇妙なうめき声も聞こえなくなった。
窓から外を見ると、どのゾンビも地面に倒れて微動だにしない。
今がチャンスだ!
陸は拡声器で皆に告げる。
「千載一遇のチャンスだ。このまま一気に駆け抜ける。ゾンビにタイヤを取られない様アクセルを緩めるな。行くぞおおーっ!!」
先頭の高速機動車が、ゾンビを踏み付けながら前進し後続車がそれに続く。
ガタン、ガタン、ガターンッ!
ゾンビが寝そべるデコボコの道路をひた走り、ようやく平坦な道に出た陸達は、互いの無事を喜び合い、垂水市へ向けて再び車を発進させた。
・・・・・
その頃、山頂から姿を消した彼こと大和創真は、実はその場にしゃがみ込んでいた。
♠♠♠♠♠
「タケじい、やっと動いてくれたよぉー」
「そうじゃな、一人こっちに向かってきそうでドキドキしたわい」
すると、ヤタが空から降りてきた。
「ソーマ、あっちの部隊も無事に逃げおおせたぜ」
「ありがとう、ヤタ」
「だけどソーマ、例のレイスがいるぜ。今は魔法で動けない様だが、早く逃げた方がいいんじゃないか?」
「ひぃぃーっ、ソーマの旦那、早く逃げやしょう」
「そうだね、ここから一番近い結界は?」
「1号機方面じゃな。直ぐに出発じゃ!」
オレとヤタとイナちゃんは、山を駆け下りて牛根大橋へ向かった。
道路には無数の死体が転がっており、オレは踏まない様に気を付けて走る。
やがて橋の手前に着いた時、上空で警戒しているヤタから悪い知らせが届いた。
「ソーマ、遂にレイスが動き出したぞ。急げぇぇぇーっ!」
聖なる魔法『ハッピーホーリー』を発動してから、もうすぐ1時間。こんなに早く動き出すとは、予想よりも少し早い。
橋に横たわる死体を見ると、少しづつ動き始めているが、まだ魔法が効いているらしく立つ事は出来ない様だ。
「イナちゃん、一気に駆け抜けるぞっ!」
「ハイでやす!」
オレ達は牛根大橋を渡り始めた。
寝そべるゾンビが手を伸ばしてオレの足を掬おうとするが、兎の御守を握りしめて華麗なジャンプで次々と交わす。
ようやく橋を渡り終えた所で、再び上空のヤタが叫んだ。
「レイスが来たぞぉぉぉーっ!!」
振り向くと、おどろおどろしい姿のレイスが、橋の向こうからオレを見ている。
そして、震える人外の声を発すると凄い速さで橋を渡り始めた。
「魂、喰ーわーせーろー!」
「うわぁぁぁぁぁーっ!」
ここから霧島方面の結界までは約2キロ。オレとイナちゃんは、泣きそうになりながら全力で走る。
地面をスルスルと滑るレイスの足は思いのほか速く、次第に距離が縮まっていく。
やがて、レイスとの距離が3mに迫り、ヤツの息づかいが聞こえてきた。
「ハァァァァーッ!」
「ひぃぃぃぃーっ!」
そして、レイスとの距離が2m、遂には1mに迫った時、イナちゃんが魔法を放った。
「ヒィィール!!」
いつの間に覚えたのか、イナちゃんの中級魔法がレイスを光で包み込んで動きを止めた。
「ダンナッ、今の内でやすよっ!」
オレとイナちゃんは結界へ向かってひた走る。しかし、停止時間は10秒足らず。レイスは再び動き出した。
せっかく10mも離した距離があっという間に縮まってゆく。結界まであと5m、あと4m、あと3m、あと2m、あと……。
レイスがぐっと手を伸ばす。
「ダメだぁー、追い付かれるぅぅーっ!」
その時だった。
バリバリバリバリバリィーーーッ!!
突然現れた見えない壁に激突したレイスが大きく後ろへ仰け反った。その音に気付いたオレ達は足を止めて振り返る。
すると、レイスはオレの元へ近づこうと、見えない壁に何度も何度も体当たりを繰り返した。
バリバリバリバリーッ!
バリバリバリバリーッ!!
バリバリバリバリーッ!!!
「魂、喰ーわーせーろー、ウリリリリリリリリリリイイイイイイイーーーッ!!!!」
獲物を逃して悔しがり、狂った様に体当たりを繰り返すレイスを見て、タケじいがオレに言った。
「創真よ、これが三社大結界の力じゃ!」
「……ああ」
オレは半年後に崩壊するであろう結界を見つめ、いったい自分に何ができるんだろうと考えながら頷いたのだった。
♣♣♣♣♣
同じ頃、陸と近藤も結界間際で死霊に追われたものの、見えない壁に阻まれる死霊達を見て、三社大結界の存在を認識した。
・・・・・
ここに、レールガン2号機試射会及び総理救出作戦は、多大な犠牲を払って幕を閉じた。
死者、行方不明者は合わせて600名以上。あまりにも甚大な被害を出したこの戦いは、後に第1次桜島戦役と呼ばれる様になり、その後、人類は魔物との全面戦争へ突入していく事になる。
三社大結界が崩壊するまであと半年。鹿児島は、いや日本はどうなってしまうのだろうか……。
【第100話 聖なる光【最終話】 完】
読者の皆様、ここまでの長い道のり、お疲れ様でした。
これにて第1部は終幕となりますが、第2部も着々と進行していますので、ちょっと予告をお伝えします。
【第2部 スタンピート『大結界崩壊』】
【第1章 出雲の神々】
今後の大まかな構想ですが、出雲の神々、アウレの日本刀、大結界崩壊、九州撤退戦、無法地帯九州、国立冒険者ギルド設立、そして、魔王降臨へ!
並行話として、大賢者と魔王の正体、魔法障壁の謎、魔法科学、量子力学とブラックホールなど。
また、真壁家の次男海と三男空が登場し、どんな活躍を見せてくれるのか?
……乞うご期待!
最後に、ここまでお読み下さった皆様へ、評価や感想を頂けると大変嬉しく思います。
どうぞよろしくお願い致します。




