パンはウマい
パンは、うまい。
ただの粉を焼いただけなのに、うまい。
何かを練り込んであれば、さらにうまい。
砂糖がまぶしてあれば、だいたいうまい。
中に具が入っていたら、そうとううまい。
パンは…とにかく、ウマイのだ。
粉を練って食べやすい形に成形して焼き固め、もぐっと口に入れる。
口の中でとろけるパン生地が、咀嚼という至福の時間を与えてくれる。
パンそのものの味もウマイが、パン以外の部分もウマイ。
パンと具材が織りなす神秘の融合が、神をも唸らせるウマさを生み出す。
粉を練り、パンという形態になる事で…感動をもたらす物体へと変容する。
粉があったからこそ、パンという物体は生まれ…満足という至福を味わえるようになったのだ。
減った腹を満たすのは、練られた粉たちの…豪快かつ繊細な合体活劇の賜物。
練られて焼かれるだけで満足していた時代を経て、発酵と共に歩む道を選び。
焼かれて食べられるだけで満足していた時代を乗り越え、添えられる具材を抱く運命を受け入れ。
パンは、『パン』として存在しているからこそ…そのウマさは格別なのだ。
パン粉はパンではない。
パンがゆはパンではない。
パンとしてこの世に存在しているものは、すべて…ウマい。
パンとしてこの世界で食されているものは、すべて…貴い。
パン、ああ…パン。
パン…、ああ、パン。
腹が減ったら、まずパン。
手軽に食べるなら、やっぱりパン。
トーストに、まるパン、フランスパン。
メロンパンに、アンパン、サンドイッチ。
チョコパンに、ジャムパン、クリームパン。
カレーパンに、フランクツイスト、ベーコンエピ。
ピザパンに、マヨポテトパン、明太フランス。
コッペパンに、バターロール、ハンバーガー。
ホットドッグに、蒸しパンに、チーズボール。
食べれば食べるほどに広がってゆく、パンの可能性。
パン…、パンは、本当に…ウマい。
……この仕事が終わったら、絶対にパン、食べるんだ。
決意を胸に、仕事に取り組む私であったが。
買い置きの食パンは、すっからかん。
ジャムも、はちみつも、バターもすっからかん。
近所のコンビニのパンの棚も、すっからかん。
すっからかんの胃袋を抱えたまま、三個入りのお稲荷さんとカップ麺、肉まんにうまい棒、ソフトクリームとスムージーを買い込み…とりあえずの腹を満たしたのだった。