決意
マネージャーさんとはショッピングモールで別れ、私達は別荘に戻った。それにしても、外は本格的に嵐になっていた。日本の台風のようだ。私はリビングの窓から”明日本当に飛行機飛ぶかしら?“と心配しながら外を眺めていると、後ろで笑い声が聞こえてきたので振り向いた。すると階段の中段ぐらいでポーズをとっている息子がいた。私は思わず二度見してしまうぐらい別人のようで、思わず笑ってしまった。そしてチェさんとヒョンさんが下から写真を撮っている。“洋服は素敵なんだけどね〜!”と何とも言えない複雑な気分だった。するとヒョンさんが私に『とも、格好良くなったね!』と笑顔で言ったので私はとりあえず、OKサインをした。その後も二人は順番に一緒に写真を撮っていた。私はまた窓の外を眺めていた。どうしても先程の取材の事が気になってしまっていた。するとヒョンさんが私の後ろにピタッと立って聞いた。『どうしたの?天気がそんなに心配?』と私の肩に手を置いて一緒に外を眺めた。『そうだね。日本の台風みたい。明日飛行機出るかな?』と私は外を見ながら言った。彼は私の隣に来て『本当に明後日日本に帰るの?』と聞いた。そう、私達は本当は明日、日本へ帰る予定だったが済州島に足止めになってしまったので、明日ソウルに戻り明後日に日本へ帰国する予定だった。ただ、その彼の何とも寂しそうな言葉に私の胸がキュッと苦しくなるのを感じた。私はわざと明るく『ヒョンさんもお仕事あるでしょ!あんまりお休みしてるとファンの方が心配しちゃうよ〜!』と笑顔で言った。彼は窓の外を見たまま『このままずっと、嵐が続かないかな…』と呟いた。彼のそんな寂しそうな横顔を見てると帰国する事を迷ってしまいそうになる。私は彼の背中をポンと叩き『こんな天気じゃ釣りにいけないよ!』と私は言ってダイニングに逃げるように向かった。
夕食までは3人でビリヤードをしたりトランプをしたりと楽しんだ。夕食はキムさんが韓国家庭料理を作ってくれるとの事だった。チェさんとともはすっかり仲良くなって連絡先の交換もしていた。親子ぐらいの年齢差だったが、見た目はちょっと歳の離れた兄弟にしか見えない。本当に羨ましい限りだ。
夕食の時間になりさすがにチェさんもあれだけの二日酔いになったので、今日は飲まないかと思っていたらどこからか赤ワインを持ってきて皆のワインを注いだ。私は驚いて『チェさん、大丈夫?』と聞くと『済州島最後の夜に乾杯したくてモールでこれ買ったんだ!このワイン美味しいんだよ!ともは飲めないからジュースね!』とグラスを持ち上げ私達は乾杯をした。『このワイン美味しいね!でも、今日はこの一本で終わりにしよう。』とヒョンさんが言うとチェさんは渋々頷いた。ご飯は海の近くらしくシーフードが多かった。それにしても本当に全て美味しかった。息子や私の為に、たぶん辛さも気遣ってくれたのがわかった。食事の間も翻訳機に助けられ楽しい時間を過ごす事が出来た。食後もモールで買ってきたデザートを皆で食べた。さすがに皆昨日の疲れもまだ残っていたのか、夕食後はそれぞれ休もうと言う事になった。全員で後片付けを分担したのもあり、片付けはあっと言う間に終わった。いつ話していたのかチェさんがともに花札を教えてくれる事になっていたようで、彼等は飲み物をもってさっさと2階に上がって行った。キムさんもお疲れだったのか私とヒョンさんに気を使われたのか、早く休ませて頂きますと戻って行った。残された私達はとりあえずソファに座って外を見ていた。すっかり暗くなっていてガラスには二人で並んで座る私達が映っていた。夕食前からヒョンさんの様子がどこか違っているように感じていた私は日本語で『何かあった?元気ないみたい』と彼の顔を覗き込んだ。彼も日本語で『そう?何もないよ』と笑顔で言った。私はそれ以上何も聞かずにただガラス越しの彼を見ていた。しばらく二人は黙っていたが、彼が前を向いたまま私の手を繋ぎ『ねえ?韓国語と英語どっちが良い?』と聞いてきた。私は言ってる意味が良くわからなくて『携帯あれば韓国語でも大丈夫。』と伝えると彼は『OK』と言ったかと思うと手を繋いだまま立ち上がりそのまま私を下の部屋に連れて行って部屋の窓際の席に座らせた。そして私の携帯を持ってきて隣に座った。私は翻訳アプリを起動させて彼に『どうした?何か怖いな〜』とちょっと冗談めかして言ってみた。彼は真面目な顔を崩す事もなく黙って外を見ていた。私はもしかしてあのストーカーの事で何か悩んでるのかと思ったが、彼が話してくれるまで聞かないでおこうと思った。でも私の頭の中はぐるぐるといろんな事を考えていた。”私の身の安全を心配してるのか?“とか、“実は前の彼女だった”とか。そんな事を考えていると彼が急に私を抱きしめた。『大丈夫?』と彼の背中をポンポンとした。彼は韓国語で『僕達、ずっと一緒にいれるかな?』と言ったので私は『どうした?』と聞いた。彼は私を抱きしめたまま『ずっと一緒にいようって言ってくれないの?』と聞いた。私は一瞬彼の将来を考えて言葉が出なかった。彼は私の考えている事を読み取ったかのように続けた。『僕がみきより10歳も下だから?僕の未来の心配をしてるの?』と聞いてきた。全くその通りで返す言葉がなかった。そこにはずるい私がいるのがわかって、胸が苦しくなった。“彼の未来を邪魔したくないし、これ以上老いていく自分も見せたくない。でも、離れたくないしずっと一緒にいたい”と。私はその場から逃げ出したくて彼の腕をとって立ち上がった。彼はまた私の腕を取って座らせてジッと私の顔を見た。そして真剣に言った。『저랑 결혼해주세요!(僕と結婚して下さい!)』と真っすぐに私を見つめて、ポケットから指輪を出して私の左薬指にはめた。




