別世界!
部屋の中に入ると撮影の為の機材がスタンバイされていた。取材と聞いていたので2,3人のスタッフと思っていたが、かなりの人数のスタッフの方がいた。マネージャーさんにプロデューサーの方を紹介して頂き、私達は彼等の”親しい友人の親子“と言う事になっていた。まあ、誰も疑う余地はないだろう。後から今日の取材を担当するアナウンサーの方とも挨拶をした。さすがにテレビに出ている方なのでお綺麗だった。彼女はヒョンさんとチェさんと挨拶をすると笑顔で話しをしていた。私と息子は邪魔にならない所に椅子を用意してくれたので、そこから見学をする事になった。現場を見ていると、本当にたくさんのスタッフが関わっているのがわかった。打ち合わせをしている間もメイクさんが二人の髪の毛などを直していたり、照明さんが光のあて具合を確認していたり、カメラマンさんが何台かのカメラの調整をしていたりと、本当に賑やかな現場だった。息子も以前にジオンさんの広告の現場をみせてもらったが、また違った感じで興味深く周りをみていた。スイートルームはかなり広かったが、これだけのスタッフや機材があると部屋の中はだいぶ暑かった。すると、ひとりのスタッフさんが私達にペットボトルのお水を持ってきてくれた。息子と私が韓国語でお礼を言うと彼がジッと私達を見て言った。『日本の方ですか?』と。私は『はい。』と答えると彼は笑顔になって『僕も日本人です』と言った。私達が驚いていると『留学していてバイトでADやってます』と付け加えた。『え〜!凄いですね。でも何で韓国に留学なんですか?何かイメージだと英語圏に留学される方が多くないですか?』と私が尋ねると『韓国の音楽やテレビが好きで韓国語も覚えたくて来ました。以前もテレビ局で仕事をしていたのでそのつてで学校行きながらこちらで働かせて頂いています』と笑顔で答えた。”テレビ局で仕事?“と彼の外見があまりにも若く見えたので失礼を承知で聞いてみた。『失礼ですが、お幾つですか?』と尋ねると『29です。』と答えた。私は思わず『え〜!お若く見えますね!羨ましい!』と心の声をそのまま声に出して言ってしまった。息子も横で『え〜!兄ちゃんと同じぐらいかと思った』と呟いた。彼は笑顔で会釈をして戻って行った。“いろんな人がいるんだな〜”などと思っていると取材がスタートした。私は聞き取れるか疑問だったが息子に翻訳機のボリュームを下げさせてスタンバイさせた。
ヒョンさんとチェさんを見ると、特に緊張している様子ではなかった。”凄いな!私ならガチガチに緊張して何を言うかわからなくなりそうだわ!“と尊敬すら感じていた。取材の内容は最初は、これからそれぞれのドラマの事やCM撮影の事など、雑誌などで見た事あるような内容だった。そしてここからが、きっとファンの方々が一番興味あるプライベートの話しになっていった。聞いていると、まあ休日の過ごし方から徐々に彼女がいたら…とかそんな話しの流れだった。するとそこで好きな女性のタイプの質問になった。チェさんは中身が大切だけどやっぱり初めは容姿に目がいってしまうと話していた。私は“だよね~!”と頷きながら聞いていた。その時にチェさんと目が合い彼はクスッと笑った。次はヒョンさんの番だったが、なぜかしばらく黙ったまま私達の方を見てゆっくり話しだした。『僕はタイプは別にないです。一人の人として自分を見てくれて、僕は結構子供っぽい所があるので受け止めてくれる、心の広い女性ですかね!』と笑顔で答えた。更に質問で『そのような女性に今まで巡り会えた事はありますか?』とかなり突っ込んで聞いた。彼は『ありますよ!』と答えて横でチェさんが私にウインクした。私はまさか自分の事とは思っていなくて普通にニコッと笑顔で返した。彼女は二人に大胆な質問をした。『この先もしそのような女性と巡り会えたらご結婚とか考えますか?』と。私は”わ〜!直球ストレートに聞くな!“と、本当にいちファンのように聞いていた。チェさんは『もし逢えたら考えると思います。年齢も年齢なんで』と笑って答えた。続いてヒョンさんが答えた。『考えてますよ。もちろん。ずっと一緒にいたいですもん。でも、それは二人で決める事ですので、どの選択肢が一番二人に良いか考えます』と答えて私を見た。そして”でしょ?“と言うように私に笑顔を投げかけた。私は内心ドキドキしていた。彼が答えた“考えてますよ”が現在進行形だったからだ。インタビューをしていた彼女もその言葉が引っかかったようで、『こんな事聞いて良いかわかりませんが、現在そのような方はいらっしゃるんですか?』と聞いてきた。ヒョンさんは『いますよ』とサラッと答えたものだから周りがざわついた。私はフッと隣にいたマネージャーさんを見ると、別に気にしてませんという感じで笑顔で聞いていた。今までにも女性との噂はあったが、彼も否定する事はあっても肯定する事はなかった。それが“いますよ”と言ったもんだから驚いた。チェさんはそんな彼の発言を聞いていてもずっと笑顔だった。しばらくして取材は終わり写真撮影があるとの事で15分の休憩に入った。二人は私達の所に来て椅子に座った。『兄さん。結構はっきり言ったね〜。しまいにみきさん連れて来るかと思ったよ!』とチェさんが言った。ヒョンさんは『連れてきて、彼女です!って言いたかった』と笑顔で言った。息子は『え?母彼女の設定になってんの?笑える〜!誰も信じないよ!』と一人爆笑していた。私は黙って苦笑いしていると『とも。ママは素敵な人だよ!』とヒョンさんが言ったので更に爆笑していた。私はヒョンさんに”これ以上何も言わないで“と目で訴えたのをチェさんが察知したようで話しを変えてくれた。『ねえ兄さん。この後どうする?どうせ外にいるんだから買い物でも行く?ねえ、ソンさんこの後は無いですよね?』とマネージャーさんに聞いた。『写真撮影の後は何もないです。』と笑顔で言った。『腹減った〜!』と息子が急に元気に言ったので皆は笑った。ヒョンさんが私に聞いた。『さっきスタッフさんと楽しそうに話してたのは、もしかして彼と知り合い?』と言ったので『違うよ!彼ね日本人だって。留学してるみたいよ。29歳だって。』と伝えた。チェさんが『兄さん、妬いてるの?』と笑いながら聞いた。『別に妬いてる訳じゃないけど…楽しそうに見えたから!ただそれだけ!』とやや早口で言った。ヒョンさんもヤキモチとか妬くのね〜!と私は思わずニヤけたまま彼を見た。彼は勢いよくペットボトルの水を飲み干した。ちょうどスタイリストさんが彼等を呼んだので彼等は立ち上がった。私は『화이팅!!(ファイト!)』と笑顔でガッツポーズをして彼等を送り出した。彼等はベットルームに入っていってしばらくすると、スーツ姿で出てきた。私は彼等を見た途端“パーフェクト”と呟いた。彼等は先程とは全く違って仕事モードの顔になっていた。すると息子が『やばくね!二人カッコ良すぎだろ!』と言った。私は大きく頷いて『オーラが違う!』と返した。私達はあまりのカッコ良さに、その後食い入る様に見ていた。ただ、彼等があまりにも別世界の人に見えてしまい考えさせられる自分もいた。それに先程の取材の結婚について”考えてますよ“の一言がどうしても頭から離れないでいた。私はどこか結婚と言う言葉を避けてきていたから心が急に痛くなった。そんな事を考えているといつの間にか撮影は終わっていた。彼等が戻って来た事にも気付かずに、私が真剣な顔で一点を見ていると急に肩を叩かれて我に返った。『ごめん!何?』と振り向くとヒョンさんが心配そうに見ていた。『どうした?大丈夫?』と私を覗き込んだので『大丈夫!大丈夫!あまりのカッコ良さにボーっとしちゃった』と笑顔で立ち上がった。私と息子はプロデューサーの方と皆さんに挨拶をして部屋を出ようとした時に先程の日本人のスタッフの方に呼び止められた。『お会い出来て良かったです。たまに日本に帰るのでもしその時はお食事でも。これ僕の連絡先なんで連絡下さい』と連絡先を渡された。私は『ありがとうございます。頑張って下さいね』と伝えて部屋を出た。ヒョンさんは部屋を出ると私の手を取り黙ってエレベーターに乗り込み、今度は肩をギュッと抱き寄せた。彼を見上げると彼も私を見たので手招きして言った『질투하는거야? 괜찮아.내가 사랑하는건 당신뿐이니까!(妬いてるの?大丈夫、私が愛してるのは貴方だけだから!)』とわざと耳元で囁いた。彼の耳がちょっと赤くなって彼は前を向いたまま笑顔で私の肩を強く抱きしめた。そしてエレベーターが開くと同時に二人は真面目な顔で正面を向き直立不動になった。




