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アワビ、最高!

 別荘から程なくして予約の店に到着した。そこは海沿いのまあまあオシャレな感じのお店だった。

 ジオンさんが先に店に入って行き、私達はひとまずお店の前で待っていた。海はちょうど日が沈みかけていて凄く美しい景色だった。私達は皆その景色を黙って観ていた。するとジオンさんがお店から顔を出して私達を呼んだ。私達はその景色に後ろ髪を引かれつつもお店に入った。店内は満席状態でヒョンさんが店内に入った直後に女性の小さな叫び声と店内が一斉にざわついた。“だよね~!こうなるわな!”と内心思いながら店内奥の個室に案内された。その状況に気付いていた息子が『ヤバいね、ヒョンさん!皆ニヤけながら全集中してたよ!』と私に言った。私は『何その全集中って?マンガじゃあるまいし!』と言うと『アニメね』とツッコんだ。”一緒だわ!“と私は内心思った。

席に座るとオーダーは既に済んでいるようで飲み物を聞かれた。私はビールを息子はコーラを。あとの3人は焼酎を注文した。私はちょっと思った。“あ~!生ビール飲みたい!絶対瓶だろうな〜!日本なら間違えなく生中でしょ”とちょっと祈るかのように飲み物が来るのを待っていた。すると、案の定小さい瓶に入ったビールがきた。私は”だよね~!日本じゃないもんね!“と無理無理納得した。皆で乾杯をして私はビールを結構な勢いで飲んだ。私の感想だが、私にはちょっと薄く感じる喉越しで飲みやすいって言えば飲みやすかった。悪くはないと考えながら既に料理が来る前に三分の二を飲んでしまった。すると全員が私を笑いながら見ている事に気付いた。ジオンさんが『お姉さん良い飲みっぷり!そのビールの味はどお?』と聞いてきた。私は『ちょっと薄く感じるかな。でも全然まずくないけど申し訳ないけど日本のビールの方が好きかな』と正直に言った。するとソジンさんが『そのビール、お兄さんがCMやってるんですよ!』と笑って言った。えっ!と私はヒョンさんを見るとシュンとしていたので慌てて『아니 아니, 것 굉장히 맛있어! 이 맥주를 사랑해!(いやいや、もの凄く美味しいよ!このビール大好きよ!)』と言ったとたんに皆吹き出した。息子もジオンさんに通訳してもらっていた。そして息子が『母!やらかしたね!』とざまあみろと言わんばかりの顔をした。『うるさい!』と私は穴があったら入りたくなるのを感じ残りのビールを飲み干して『맛있다!(美味しい!)』と笑顔で言った。

すると次々と料理が運ばれてきた。全部アワビの料理だった。スープや殻ごと焼いたやつ、刺身やその他色々。更にお通しなのかキムチやその他細々たくさん。一気にテーブルはいっぱいになった。私と息子はそのアワビの量に圧倒されたのと、何をどう食べて良いのかわからず、だだ皆が食べるのを見ていた。するとジオンさんが海鮮スープらしきものを取り分けてくれた。私達はまずそれを食べてみた。唸るほど美味しかった。アワビも柔らかくてスープも辛すぎずいろいろな海鮮の出汁が出ていて本当に美味しかった。ヒョンさんを見ると彼はそこに白米を入れて食べていた。息子もそれを真似して食べていた。次に私は鉄板にのった殻付きのアワビを頂こうと思い手を伸ばした時に『잠깐만!(ちょっと待って)』とヒョンさんが止めた。”え?食べちゃダメ?“と手を引っ込めると彼がそれをハサミで食べやすく切ってくれて私のお皿に置いてくれた。私は彼が止めてくれた事に感謝した。なぜなら、そのままかぶりつく所だったからだ。私は『고마워요.(ありがとう)』と一言添えてアワビを頂いた。バター焼きだった。これもまた柔らかくて美味しい!私と息子はアワビに取り憑かれたかのようにあらゆるアワビを食べ尽くした。お恥ずかしながら生まれて今までアワビを食べた記憶がなかった。こんなに美味しいならもっと早くに出会いたかったと思うぐらい美味しかった。私はそんな事を考えながら20代の失敗を思い出した。

 それは私が会社に入りたてで部署が”店舗開発部開発課“と言って店舗を建てる際に必要な土地や物件を探して交渉し、交渉成立までを手掛ける部署だった。なので、地主さんの接待なども昔はあった。ある日、新たな土地の交渉をする為に地主さんとの接待で料亭で食事をする事となり課長と男性の先輩と私が担当で行く事となった。当時はまだバブルの名残がありまだ景気は良かった。私は初めてだったので緊張していた。無事にお酌をしてあの事件がおこるまでは順調だった。料理が運ばれて来た。ふぐ刺し、松茸の姿焼き、松茸の土瓶蒸しなどテレビで見た事しかない料理に驚きを隠せなかった。地主さんが私に『緊張してるみたいだね。若いんだからたくさん食べなさい!』と笑顔で言ってくれたので私は元気に『ありがとうございます。いただきます!』と言い課長をみると“どうぞ”という仕草をしたので遠慮なくとまずはふぐ刺しに手をつけた。ふぐ刺しは誰しもご存知の通り皿の柄が見えるほど薄く切ってあった。私はたぶん2〜3枚だと味がわからないと思ってしまって一気に10枚ぐらいを箸でとり、まとめて食べた。”ん~?味がたんぱく過ぎて美味しいのかわかんないな!“と思いフッと課長と先輩を見ると二人共目が怖かった。私は“すぐに感想を言わないとダメなのか?”と思い地主さんを見ると、驚きながらも笑顔だった。私が『美味しいです』と言うと同時に課長が『申し訳ございません!』と頭を下げた。私は何で謝っているのか全くわからなかった。すると地主さんが『山田さんはふぐ刺しを食べるのは初めて?』と笑顔で質問された。『はい!松茸もインスタントのお吸い物しか飲んだ事ないです!』と元気に答えた。すぐに課長が私に言った。『ふぐ刺しは2,3枚を取って食べるんだ!お前みたいにそんなに豪快に食べる奴は初めて見た。ばかもの!』と怒られた。私はそれを聞いて頭の中がパニックになりとっさに『すいませんでした!』と謝罪した。地主さんは『僕も山田さんみたいに食べてみよう!』とふぐ刺しをごっそり取って食べてから言った。『これは美味しい!ふぐの味がよくわかるね!皆さんもやってみて。』と笑って言った。本当に懐の広い人だった。そして私に聞いた『土瓶蒸しも食べて見て、初めての感想聞きたいな』と私に土瓶蒸しを勧めた。私は土瓶蒸しの松茸を食べてみた。そして率直な感想を言った。『椎茸みたいな味ですね』と。後で聞いたがその瞬間に課長と先輩は”この交渉終わった!“と思ったらしい。すると地主さんは大笑いして『松茸を椎茸と一緒と聞いたのは山田さんが初めてだよ!楽しいね。山田さんにはもっといろんなものを食べさせたくなったよ』と本当に楽しそうだった。その後も私は勧められるがままに完食し、接待の時間は終わった。案の定、その後上司達には怒られ私のバカさ加減が瞬く間に会社にも広まってしまった。しかし、交渉は成立。その地主さんご指名で私が担当となった。その後も接待の度に超高級料理をタダで食べたりいろいろ教えて頂いた。例えば銀座のお寿司屋さんの値段が“時価”と書いてある事など。ただアワビだけは食べた事はなかった。

 私はアワビを食べながらそんな昔の事を思い出していた。私があまりにも無言でモクモクとアワビを食べていたので、息子が私の顔を覗き込んで聞いた。『ねえ、母。あまりの美味しさに泣きながら食べてんの?大丈夫?』と。私は超笑顔で答えた。『アワビ、最高〜!』と。

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