サーファーもどき
ジオンさん達は飲み物を買いに行ってくれた。私は一人砂浜に座って息子達をただぼーっと見ていた。昔にサーフィンをやっていた頃の記憶が甦ってきていた。あの頃こんな事があった。高校に入学してしばらくしてから別のクラスでかなり日焼けした男子がいて、手と足にはミサンガがついていて見た目でサーファーなのかなとわかる出で立ちだった。私も春夏秋冬問わず中学からサーフィンをやっていたので日焼けして夏時期は特にインド人もビックリするほど黒かった。髪の毛は潮焼けで山姥みたいな変な色になり良く校門で生活指導に呼び止められた。私はマサのお父さんのサーフショップのお兄さんからお守りとしてもらったミサンガをしていたのだが、学校ではわからないように足だけにつけていた。私はある日その子に話しかけてみた。『サーフィンやってるの?何処で乗ってるの?』と質問してみた。すると彼は『江の島周辺かな。鵠沼とか!』と自慢気に言った。私は『そうなんだ。』と言って思った。私もいつも鵠沼だけど会わなかったな〜!などと思い『もし会ったら一緒に乗ろうね』と笑顔でその場を立ち去った。私は今ではこんな身体だが当時は大会に出る為に日々筋トレとサーフィンの練習にあけくれていた。そしてある夏休みの日、私と友人がいつものように朝の波に乗り終えて浜で座っていると例の彼がボードを持って歩いているのを発見した。私はあまりに疲れていて声をかけに行く気力もなくただ眺めていた。向こうも私には全く気付かない感じだった。私は友人に彼は同級生と言う事を伝えた。彼の持ってるボードは中上級者用だったので私達は彼がどれだけ上手いのか期待して眺めていた。しかし、なかなか海に入らずただ浜を行ったり来たりしているだけだった。すると友人が『彼さ、もしかして丘サーじゃないの?』と私に言った。丘サーと言うのはサーファーもどきでほとんどがナンパ目的の人が多かった。私は『え〜。違うと思うよ。ミサンガしてるし、この辺で乗ってるって言ってたもん』と全く疑っていなかった。ただその日彼は波乗りをせずにそのまま去って行った。
別の日私達は波乗りを終えて浜にいた。そこにまた例の彼が来た。ボードを持ってリュックを持っていた。来たばかりと言う感じだった。彼はリュックを置いて浜辺をキョロキョロ見ていた。私は今度こそは見れるかとワクワクしていた。すると彼は何とも奇妙な行動をした。ボードを置いたまま、海に入り全身を濡らしまた浜に戻り座った。そしてその後も浜に座りまた身体が乾く頃に海に浸かりまた浜に戻った。私はそれを見ていたが、この後に海岸清掃のボランティアをショップの人達と行う事になっていたのでひとまずショップに戻った。私はその事をマサや他の人に話して質問してみた。するとマサが『もし後で浜に戻った時にいたら聞いて見れば良いじゃん!波乗りしないのって!』とごもっともな答えだった。実はちょっと話しかける事をちゅうちょしていた。なぜなら、もし丘サーだったら彼の立場がなくなってしまって可哀想だからだ。でも、性格上なのか白黒はっきりしないのも何だか気持ち悪かった。私達はゴミ拾いの為に浜に向かった。“頼む!いないでくれ!”と内心思っていたがまだ彼は浜でジュースを飲んでいた。私が黙っていると友人が『まだいたよ!あの子!』と皆の前で彼を指差した。”余計な事を!“と思っていると『みき!聞いてきなよ!俺聞いてきてやろうか?』とマサが笑って言った。『ガキンチョがうるさいんだよ!私が行くから良い!』と私は彼の所まで行き隣に座った。『どうも!波乗り来たの?私はもうおしまいなんだけど、もしこれからやるなら一緒に乗る?』と笑顔で聞いた。彼は驚いてから無言で下を向いた。私はとりあえず続けて『この前も見かけたんだけど、帰る時だったから声かけなかったの。9時過ぎてくるとこの辺も混んでくるから乗りづらくなるよ』と私が言うと彼はなぜか観念したかのような顔で言った。『実は俺、サーフィン出来ないんだ!だけどサーファーって格好いいから嘘ついてた。ごめん!』と泣きそうだった。私は『何で謝んの?そーだったんだ!てっきり上手なのかと思ってたよ。じゃあ、一緒に練習する?そのボードじゃ難しいから私が初心者用貸してあげるよ!私で良ければタダで教えてあげる!』と余計な事を言ってしまった。彼は『ありがとう。でも今日は帰るわ。じゃあ!』と荷物とボードを持って行ってしまった。私は何か視線を感じ後ろを振り向くと、ショプの人達とマサが笑いながら見ていた。私が彼等の所に向うなり『何、ナンパしてんだよ!振られたか?』とか『偽物か?』とか『何いじめてんだよ!』とか皆言いたい放題だった。するとマサが『どうだった?』と聞いて来たので私は『丘だった。サーファーだって嘘ついてたんだって。でもサーファーに憧れてるみたいだったから嘘にならないように教えるから一緒にやろうって誘ったけど今日は帰るって』と言った。それを聞いていた店長が『みき!偉いな。嘘にならないように教えてあげようなんて、お前も粋な事言うね!』と褒めてくれた。私は少し気持ちが楽になった。
その後、彼を見かける事はなく夏休みが終わった。始業式も始まり廊下で友人といつものような立ち話をしていると、向こうから彼が女の子2人と歩いて来るのが見えた。私に気付いたようだったので笑顔で手を振ると、何と彼は“僕は見ていません!”とばかりにクルッと背を向けて戻って行った。友人はそれを見て『みきお!あんた何かやったの?笑えるぐらい無視してったよ!』とゲラゲラ笑った。私は悟った。彼に声をかけちゃいけなかったんだ!彼の嘘を黙認してあげれば良かったんだ!と。それ以来彼と海で会うこともなく、卒業まで話しをする事もなかった。
私はそんな何とも言えない高校時代を思い出し一人で笑ってしまった。気付くとそんな私を息子達もジオンさん達も笑いながら見守っていた。すると息子が『何か良いことでもあった?』と笑いながら言ったので私は恥ずかしくなり下を向いた。そして私が皆に言った。『何でもない!教えない!』とアカンベェをしなが顔をあげた。それを見た息子が『別に聞きたくねーし!早く洋服返してくんない!』と私が持っていた洋服を指さした。”あっ!ごめん!“と私が慌てて洋服を差し出すと皆一斉に吹き出し笑った。“笑うとこじゃないし!”と思いながら私は立ち上がった。
あの後彼は嘘つきにならない為にサーフィンを初めていてくれていないか、私は今になって無性に気になった。
”頑張れ!サーファーもどき!“と心で叫んだ。




