はじまり
玄関のチャイムが鳴り
『はーい』モニターを確認してみると女性が立っていた。
『こんばんは。夜分にすいません。星です』
“えっ?何?えっ?”しばらく考えたが、とりあえず玄関に向かった
”ガチャ“
『はい。こんばんは。どうしましたか?』
『夜分にすいません。驚かれましたよね!実はまた近くで撮影があってどうしてもお渡ししたい物がありまして、本当にすいません』
よく見るとちょっと離れた所にスモークガラスの車が停まっていた。
『少々お待ち下さい』と彼女は車にかけて行った。
すると、後部座席の窓が開いて誰かが会釈をしていた。顔は遠目でわからなかったがこちらも会釈で返した。彼女はまた小走りで戻ってきた。
『これ、この前のお詫びだそうでうちの俳優からです。これをお渡ししたくて!』
『え〜!頂けませんよ!こちらがよそ見してぶつかってしまったのに!本当に頂けません!』
驚いた。わざわざそれを渡したくて連絡を?何て律儀な俳優さんなんだか。申し訳ないが芸能人はテレビやファンの前ではニコニコしているようだが、それ以外はちょっと違う感じなのかと内心思っていたから驚いた。
『もらって下さい。』と彼女は笑顔で言った。
『受け取らなかったら又怒られちゃいますか?』と小声で話すと、彼女は笑顔で軽く頷いた。
『わかりました。遠慮なく頂きます。本当にお気遣い頂きありがとうございます。私からは何もお返し出来ませんが、大した物はないのですがご飯でも召し上がって行きますか?どうせ息子と2人なので』
半分社交辞令だったが、
『残念ですけど、この後まだ撮影が残ってて。』内心ホッとしながら、
『もし、またこちらで撮影などありましたら是非たちよって下さい。家でお茶でも飲んで行って下さいね』
彼女は“ありがとうございます”と頭を下げて車に戻って行った。
車に目をやると後ろの席の方はまだこちらを見ているようだったので、深々とお辞儀をした。その人も会釈で返してくれた。笑っているように見えた。そして、走り出した車を道路まで出て角を曲がるまで手を振って見送った。
”あっ!俳優さんて誰だ?また聞くのわすれたわ〜!もしかして、あの後部座席の方はその人?あー!顔わからなかったわ!“
そんな事を考えていると、ユーミンさんの歌詞が頭に流れていた。
“どうしてなの。今日に限って。安いサンダルを履いてた〜”
まさしく、エプロン姿に百均のサンダルだった!
”人生、そんなもの!“
私は一人玄関で苦笑した。