宴
その後息子の為にソウルの街を観光した。平日だったがなかなかの人だった。ヒョンさんは何も気にせず、左手で息子の肩を抱き、右手は私の手を握り歩いていた。通る度に皆が振り返っていた。
2時間位歩いた所で私達は帰宅する為に自宅に向かった。途中でスーパーに寄ってお酒と息子の為に韓国のお菓子やジュースを買った。
自宅に戻ると玄関先からいい匂いがしていた。『腹減ってきた!今日夕飯何?』と息子が私に言った。するとヒョンさんが『韓国料理だよ。いっぱい食べてね!』と優しい微笑みで答えた。私とは懐の深さが違った。たぶん私だったら“毎日同じ事聞くな〜!”と言っていたかもしれなかった。中に入ると更に食欲がそそられる匂いが立ち込めていた。私は慌てて手を洗い台所に向かった。携帯をカウンターに準備してお母様に、『ごめんなさい。手伝います。何をしますか?』と聞くと『大丈夫よ!今日は焼き肉だから簡単なのよ。それじゃあ、後の冷蔵庫からキムチを出してもらっても良い?みきさん達が来ると聞いてはりきって漬けたのよ』と笑顔で言った。本当に素敵なお母様で癒やされる。お母様からボールを受け取って私はキムチを取りに行った。キムチは本当にいい匂いでつまみ食いしたい気持ちをぐっと抑えた。台所に戻るとお母様が皆にお茶を入れてくれていた。『私がやりますよ!』と慌てて手伝おうとした時にお母様がポツリと言った。『みきさん。ヒョンのお嫁さんになってくれないかな?』と笑顔で私を見た。私はビックリして『え?私ですか?私もう52歳ですよ!』と答えると『ヒョンね、最近本当に幸せそうなのよ。私もみきさんが大好きなの。この前初めて会った時も不思議と初めてお会いした感じじゃなかったの。だから、みきさんがお嫁さんに来てくれたら私も安心するのよね』と話した。私は凄く嬉しかったが複雑な気持だったので正直に言った。『本当にありがとうございます。とっても嬉しいです。だけど、息子さんは初婚でお母様もお孫さんの顔見て頂きたいと思っていて。けど、私はもう赤ちゃんを産む事は難しいし、私みたいなおばちゃんでしかも見た目も不釣り合いだと思っているんですよ』と真面目に答えた。するとお母様は笑顔で『もう孫ができてますよ!ほら!見て!』とソファに座る彼らを指差した。二人はソファで何やら楽しそうにゲームをしていた。そしてお母様は『みきさんのお子さんは本当にいい子。まだお兄ちゃん達にお会いした事はないけどきっと親孝行ないい子だってわかるわ。私に孫とか全然気にしないでほしいのよ。ヒョンもそんな事気にする子じゃないと思うよ』と優しく言った。泣ける〜!『お母様ありがとうございます』とお礼を伝えた。そこへ玄関のドアが開いてシオンさんが入ってきた。『みきさーん!ともー!帰って来た?』と日本語で話しながらリビングに歩いてきた。まず、ビックリしていたのは息子だった。ただ、口を開けてけて見ていたがそのまま私を見た。すると彼女が『とも!驚いた?私ね日本語話せるのよ〜』と笑顔で言った。息子は私に『母!ジオンさん日本語話せるの?』と聞いてきたので『ものすごく上手だよ!』と笑った。ヒョンさんもその様子を笑いながらみていた。『ごめんね!ともが一生懸命韓国語話してくれたから勉強になるかな〜と思って』とジオンさんが笑って言った。
『자! 밥 먹읍시다!(さあ!ご飯食べましょう!)』とお母様が呼びかけたので皆で用意をして、初日の宴が始まった。まずはジオンさんが日本語で乾杯のおんどをとった。『みきさん、とも、韓国に来てくれてありがとう!これからは皆家族です!よろしくお願いします。韓国楽しんでね!건배!(乾杯!)』ジオンさんはお母様に通訳して私達は乾杯した。
料理もご馳走だった。焼き肉はヒョンさんが焼いてくれて皆に振る舞ってくれた。ワカメスープやキンパ(海苔巻)などもちろん手作りキムチも。ちょっと日本の焼き肉と違うような気がしたのは焼き肉は豚で、サンチュにいろいろな物を一緒に巻いて食べていた。息子は全てが美味しいようで『マジうまい!』と言いながら夢中で食べていた。ヒョンさんもあまりの息子の速さに大変そうだったので『ヒョンさん!食べて。私が焼くから』とハサミとトングをもらおうとすると『大丈夫だよ。みきはゆっくり食べて。とも君は若いからたくさん食べてほしい』と笑顔だった。ジオンさんも『ともの食べっぷり好きだわ〜』と言ったもんだから調子に乗った息子が『ヒョンさん!どんどん焼いちゃって〜!カムサハムニダ!』となぜか立ち上がってお辞儀をした。それを見て皆で笑った。食事の間はジオンさんがほとんど通訳をしてくれていた。私と息子もとりあえずは翻訳機と携帯は常備していたがほとんど使わなかった。
食事もほとんどなくなってきた頃には、私もヒョンさんもジオン
さんもだいぶお酒がまわり良い気分になっていた。するとお母様は先に失礼しますねと、席を立ったので私は寝室までご一緒し『今日は本当にありがとうございました。とても美味しくて息子もたくさんご馳走になりすいません。後片付けは私がやりますからゆっくり休んで下さい』と伝えると『ありがとう』と笑顔で寝室に入って行った。私が食卓に戻ると息子とジオンさんはソファに移動していた。するとヒョンさんが隣の席を叩いて『座って』と私を隣に座らせた。『飲もう』と彼は私にワインをついでくれた。私も彼に焼酎をついだ。
ソファを見るとテーブルにはワインのボトルとコーラのボトルが置いてあった。
”皆、まだまだ寝ないのね“と悟ったのでとことん付き合う覚悟を決めた!




