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ロッキーのように

 ヒョンさんはCMの撮影やドラマの撮影などで、とても忙しい日々を送っていたが、その間もロケ地の写真やレストランでの食事の写真などを送ってくれていた。

 私はと言うと、今まで通りの日常を送っていた。彼のようにあちこちに出かける事もなかったので普段の食卓やベランダから見える月の写真や庭に咲いたヒマワリなど、全く面白みもない写真をかえしていた。ただ、そんな写真を見ても毎回”ありがとう“や“きれいだね”などの言葉と一緒に必ず”愛しています“と返信してくれていた。ちょっと嬉しかった。

 そんなこんなであれから、1ヶ月が過ぎた頃に2回目のダイエットの神様が私に呼びかけた。そのきっかけは、日本向けの韓流スターやドラマを紹介する雑誌だった。そこには、まるで女神のような肩まで出た白いドレスを着た女優さんと黒のタキシードを着た彼が抱き合っている化粧品のCMの写真だった。とても綺麗な写真だった。その写真を見ながら自分だったらと想像した。それはまさに“豚に真珠““美男と野獣”としか思えない状況に愕然とした。しかし、今までの私だったらきっと想像した時点で”ありえない!無理無理!“と苦笑して終わっていたと思うが今の私は違っていた。少しでもこの写真に近づきたい気持ちが溢れ出した。顔と歳は変えられないが、体型だけなら少しはいける!とその広告写真を切り抜いて自分の寝室に貼り付けた。そして私は携帯にロッキーのテーマをダウンロードした。

 私はすぐにダイエットに取り掛かるべき、アディダスのジャージに着替えた。耳にはイヤホンをして。

 しかし、見た目はやる気満々なのだが何から始めるかのプランを考えていなかった。とりあえず、ロッキーのテーマを流しながら洗濯物を干しお風呂の掃除をした。私は気付いた!全体的に家事の時間が短縮していた。きっとテキパキと動いていたからだ。調子にのった私は今までにサボっていた、小さいが庭の手入れをした。

“ロッキーのテーマってすごい!”としみじみ感じた。私はもっとやる気が出てスピーディーに家事をこなせそうな曲を考えていた。そこで私がダウンロードしたのが”F1のテーマ“だった。どんどんダイエットから遠ざかっているようだが、私はご満悦でサボっていた家事をスピーディーにこなしていった。ロッキーとF1をただひたすら交互に流しながら。

 しかし、家事が全て終わった頃にはかなりの疲れがどっと押し寄せてしまった。

 私はひとまず、。“休憩してから始めよう”と思いソファに横になった。それが大きな間違いだった事は言うまでもなく、気付いた時には外が薄暗いほど昼寝をしてしまった。私は慌てて起き上がり、洗濯物を取り込んで彼の切り抜き写真の前に立った。”こんな事してたら、こんな写真撮るには100万年かかるな!“と切ない気持ちのまま台所へ向かった。

 今日の夕飯のメニューを考える。たぶん料理があまり得意ではない方ならわかってもらえるかもしれないが、レパートリーがあまりない。更に作る事があまり好きではない私は毎日メニューを考える事に一苦労する。それで、いろいろ考えた挙げ句に生姜焼き定食風になる事が多い。

今日は何だか本当に頭が働かない!

たぶん昼寝のせいで身体もだるかった。私は、携帯でロッキーのテーマをかけた。やる気が出るかもしれないと思ったからだ。しかし、頭の中に流れた映像は階段を駆け上がるロッキーと縄跳びをしているロッキーだけだった。全くメニューが浮かばない。冷蔵庫を開けてみた。メインになりそうなものを探していると、次男のふるさと納税で頂いた、モツ鍋用のモツとすき焼き用の黒毛和牛が冷凍庫にあるのを見つけた。すっかり忘れていたのでテンションが上がってきた。すき焼きのしらたきと焼き豆腐がなかったので、モツ鍋にする事に決めた。メニューが決まるとテンションが上がる!私は冷蔵庫に向かい拳を高らかとあげた。

 すると後ろで何か気配がしたので振り向くと、三男坊がいつの間にか帰って来ていて私の一部始終を笑いをこらえながら動画で撮っていた。

息子は声をだして笑いながら、『母、どうした?』と言ってきた。『ちょっと、帰って来たならただいまぐらい言いなさいよ!』と私が言うと笑ったまま『言ったし。イヤホン付いてるから聞こえなかったんでしょ!超笑えるし。何してたの?』と息子。『別に何もしてない。忘れてたモツとすき焼き用の肉見つけてテンション上がっただけ』私はサラッと答えたが、『マジ笑えるわ!そんで、今日夕飯何?』と決まり文句を言ったので私は思わず笑ってしまった。

 最悪な事に奴は家族のグループLINEにその動画を流した。案の定、長男次男から“母、楽しそうじゃん!今幸せでしょ!”や”冷蔵庫に勝った気分は?“とか、ろくな返信は返って来なかった。“本当にムカつくわ〜!”と思いながらも夕飯の準備を始めた。

 その後私は金麦を味わいながら二人でモツ鍋をつついている時に息子に言った。『あのさ~、テンションが下がった時とか気合いいれたい時の新しいBGM見つかったよ!』『何?』と聞いてきたので私は意気揚々と『ロッキーのテーマ』と言った。彼は一瞬”は?“の顔をして言った。『何それ?』と尋ねてきた。私はドヤ顔で携帯の曲を流した。『古っ!』と一撃を喰らった!

 そっか、ロッキーは彼等には英雄でも何でもないんだな〜!とちょっと寂しく感じたが、負けずに言った『エイドリアン〜』すると彼は『意味わかんね!』と吐き捨てるように苦笑いをして席を立ち風呂場に行った。

私はついつい、ロッキーのテーマを酒の肴に2本目の金麦を開けた。

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