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お守り

 何も考えられないまま、私は羽田に着いた。なんとも言えない脱力感と良くわからない違和感。淋しさなのか悲しみなのか、悔しさなのか、それとも後悔なのか。自分でも良くわからないまま、到着ロビーに向かった。

 自動ドアが開き数人の出迎えの人が並んでいた。

『みきさん!』と、どこからか声が聞こえたがその声をたどる気力がなかった。私はそのままリムジンバス乗り場に向かおうと歩き出すと、後ろから肩を叩かれた。星さんだった。私は出来る限りの笑顔を見せた。

『おかえりなさい。送ります。お時間大丈夫なら、少しお茶でもどうですか?』彼女は穏やかに言った。私達は空港のカフェに入った。

『初めての韓国はどうでしたか?楽しかったですか?』と聞いてきたので、私は何事もなかったかのように答えた。『楽しかったですよ。観光も出来たし韓国の家庭料理も食べれたし。あっ!星さんにお土産があったんだ!』私はおもむろにキャリーケースからそれを取り出し渡した。

『あ~!これ美味しいんですよ!日本になかなか売ってなくて。嬉しいです。ありがとうございます!』星さんは屈託のない笑顔で喜んでくれた。私は笑顔で返したが心がキュンとなる感覚があった。たぶんそれは、ヒョンさんと行ったスーパーの他愛もない日常を思い出したからだった。そんな私を見ていた星さんがゆっくりと話しだした。

『みきさん。実は今日ヒョンさんから連絡がありました。たぶんみきさんの飛行機が飛び立ったぐらいかな?』私はその話しを聞くのが怖くなり途中で止めた。

『星さん、もう良いんです。たぶん星さんの言いたい事はだいたいわかります。決めたんです。ごめんなさいね』私はわざと普通を装ったが星さんにはバレていたらしく、

『聞いて下さい。ヒョンさんから大体の事は聞きました。ヒョンさんに別れを言ったんですか?みきさん、もしかして自分なんて!とか思ったりしてます?』私は返す言葉がみあたらなかった。星さんは続けた。

『ヒョンさんはみきさんの事を本当に大切に思っていますよ。もちろんみきさんのお子さん達の事も。全てを捨てても受け入れる覚悟みたいですよ。もう、芸能の仕事もやめたいって言ってました。みきさんはそれで良いんですか?』私は星さんの言葉が胸を貫いたように痛かった。

『私も、ヒョンさんもヒョンさんのご家族も大切に思います。ヒョンさんの事も今では心から愛おしく思いますよ。だけどヒョンさんの隣にいなきゃいけないのは私じゃないんですよ。それぐらいわかりますよ。普通のおばちゃんが一緒にいて良いわけがない。図々しいとはこの事ですよ。』と冷静に話しをした。

”推しが自分を好きになる?増してやアラフィフおばちゃんを好きになる?ないないないない!奇跡の奇跡でもありえないし、天と地がひっくり返ってもありえない!“私は彼にあれだけ目の前で“愛してる”と言われてもどこかできっとそんな事を思っていたのかもしれない。いや、思っていた。そんなふうに思っていると、星さんが”ちょっと失礼します“と席を外した。私は子供達に無事に着いた事と星さんが送ってくれる事をLINEした。

 すると暫くして、星さんが電話をしながら帰って来たと思うと私に携帯を渡した。私は良くわからずに携帯をとって耳にあてた。何も話さないので私から『もしもし?』切り出した。『みきさん。』彼だった。優しくて穏やかにどこか懐かしい感じだった。『ヒョンさん?無事に日本に着きました。いろいろありがとうございました。星さんに変わりますね!』私はあえて明るく答えた。星さんに変わろうとした時、『みきさん!待って』と呼び止められた。私は黙って聞いていた。

『みきさん。僕はあきらめないよ。みきさんが僕を好きじゃなくても良い。好きになるまでずっと待ってる。貴方をずっと愛してるからね。またね!』彼は韓国語で私に言った。私には全部がわからなかったが気持ちは凄く伝わった。

『감사해요(ありがとうございます)』

と伝えて星さんに携帯を渡した。星さんはいくつか言葉を交わした後に携帯をきった。星さんは私を見た。

『みきさん。わかりましたか?ヒョンさんの気持ち』と笑顔を見せた。私はわざとオチャラケて言った。

『ヒョンさんの韓国語、一部しかわからなかったですよ~。』と笑ってみせると、星さんは携帯を机においた。ヒョンさんの声が聞こえてきた。録音していたようで、先程の彼の言葉を日本語で伝えてくれた。そしてその部分を切り取り私の携帯に送ってくれた。

『お守り!』と笑顔で言った。私の頬に一粒の涙がこぼれた。私は『ありがとうございます』と笑顔で返した。それから私は韓国での出来事を話せる範囲で話した。彼女はそれを黙って笑顔で聞いてくれていた。まるで学生の頃の恋話を友達と話しているようだった。私は彼女のおかげで少しずついつもの自分を取り戻していた。

 なぜかさっきまであった、脱力感も虚しさもわけのわからい違和感もなくなっていた。ただ、愛おしさだけが残っていた。

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