夢の終わり
私達は席についた。ジオンさんはニコニコしなが私達を見て言った。
『お兄さんの目真っ赤だね。』と、わざと日本語でいたずらっ子のように言った。私は笑顔で頷いた。
『ジオンさん、忙しいのに来てくれてありがとう。最後に会えて良かった。待たせちゃってごめんね』するとヒョンさんが私の携帯を指差した
”はいはい。翻訳機ね“私は何も言わずに準備した。
『お姉さん!わかるんだ!』なぜかお姉さんになっていた。
『ジオン、ごめんね。みきさんといろいろ話したい事いっぱいあってね』と彼が言うと、ジオンさんは笑顔で頷いていた。
『お姉さんは次はいつ韓国に来れる?』普通に聞いてきた。
『ん〜。仕事もあるし、子供達もいるからまだわからないかな』彼が『僕が行く』とすぐに答えた。
私達は他愛もない話をした。きっとジオンも私達が淋しくならないように、ずっと笑顔で。
すると、彼女は私の携帯の画面を手で隠し日本語で話しはじめた。
『お姉さん。お兄さんがテレビの人で気になる?昨日お兄さんが言ってたよ。どうしたらお姉さんが自分を信じてくれるかな?って。私ね、今までにも何人かお兄さんの彼女は知ってる。会って食事もした事もあるけど、何か違かったんだよね。だけどお兄さんからみきさんの事は聞いてた。正直に言うと普通の人で、かなり年上で更に日本の方で。でもねお兄さんが本当に楽しそうに話してたのよ。昨日私もみかさんに会って話してみたら、納得できた。だから、お兄さんの事をしんじてあげてほしいし、ずっとお兄さんの側にいてほしい。これ本心ね!』彼女は笑って彼を見てウインクした。彼は少し不安そうな顔で私を見つめた。私は彼女の真似をしようとウインクしたが出来なかった。二人は吹き出し笑った。私は翻訳機を使い自分の気持ちを彼らに話した。
『私にとってはヒョンさんはテレビの中の人で、今でも隣にいる事が信じられないの。更に私を愛してくれるなんて私にとっては夢のまた夢で。奇跡でもありえない。だから、正直怖い気もしてる。きっとヒョンさんのまだ出会ってない運命の人が現れてさよならしなくちゃいけない時が来る事を想像出来ちゃうの。それにこの歳になるとたくさん傷ついた事があるからもう傷つくのはいいかな?とかも思うんだ。』するとヒョンさんが言った。
『じゃあ、僕が今の仕事を辞めれば信じてくれる?』すぐに私は言った
『そう言う事じゃない!ヒョンさんは今のままでいてほしい。信じてないわけじゃないよ。ただ、自分に自信がないのかな。』笑ってみせた。ジオンさんは“そっか”と呟くとそれ以上は何も言わなかった。ヒョンさんは『ただ、愛してるだけじゃだめ?』と聞かれたので『ありがとう』と笑顔で答えた。
そろそろ時間になったので私達はカフェを出て出発ゲートに向かった。ヒョンさんは私の手を繋いでいた。
出発ゲートの前まで来た所でジオンさんが私に抱きついた。
『待ってるね。お姉さん!』と囁いた。私はそっとジオンさんに言った『ありがとう。会えてうれしかった。それと、ヒョンさんの車の中に小さな紙袋置いてきたからヒョンさんに渡してくれる?最後のお願い!』私は背中をポンポンて叩いた。するとヒョンさんがギュッと抱きしめてきた。私は愛おしさが込み上げてきたが、グッと抑えて言った『ヒョンさん本当ににありがとう。あなたに会えて幸せよ。ずっと大好きだから日本から応援してる。愛してる。』と、精一杯の韓国語で伝えた。するとヒョンさんはもっと強く抱きしめて韓国語で言った。
『愛してる。ずっと愛してるから、僕を信じて。愛してる』と、チュッと私にキスをした。驚いたのと嬉しいのとで顔が熱くなるのを感じた。ジオンさんを見ると満面の笑顔で見ていた。本当にスターのくせに周りを気にしない。
私は二人の写真を撮らせてもらい再度頭を下げて
『本当にありがとう。さよなら』と二人が見えなくなるまで笑顔で手を振ってゲートの中に歩いて行った。
彼らが見えなくなった瞬間、涙がどっと溢れてきた。止まらなかった。残りの人生分の涙が一度に出た。私は泣きながら飛行機に乗り込んだ。不思議と行きのような興奮はなくただ淋しさに押しつぶされそうだった。そして私は現実世界に向けて飛び立った。
その頃、駐車場ではジオンさんが私のお願いした小さな紙袋をヒョンさんに渡していた。彼は不思議そうな顔で受け取るとその場で紙袋から小さな箱と手紙を出した。箱には小さなクリスタルのフクロウの置物が入っていた。それは、到着した日に観光中にこっそり私が買ったもの。“幸運のフクロウ”。そして手紙を開けた。日本語で書いてあったので彼はジオンさんに読んでくれるよう頼んだ。そう、それも私が今日ヒョンさんが寝ている間に書いたものだった。本当はハングル文字で、書きたかったが無理だった。彼女は読み始めた。
”ヒョンさん。大好きなヒョンさん。貴方が心から愛おしいです。私に素敵な想い出をくれてありがとうございます。こんな気持ちを思い出させてくれて、本当にありがとう。貴方はとても素敵で、楽しくて、誰にでも優しくて。貴方のお母様もジオンさんも最高に優しくて素敵なご家族でした。やっぱり、貴方の全てが私にはもったいなく思います。私はただの普通のおばさんで、貴方をテレビの外から応援してる方が似合っていると思いました。だから、私はまた今日から普通のおばさんに戻ります。お母さんに戻ります。貴方からもらったキラキラしたこの幸せな想い出を胸に、たぶんおばあさんになっても幸せで笑っていられると思います。頑張れると思います!
貴方の活躍をずっと応援しています。本当の貴方が幸せであるようにずっと願っています。愛してます。ずっと変わらず愛してます。ありがとう!さよなら“
ジオンさんが手紙を読み終わらない時からヒョンさんは大粒の涙を流していた。ジオンさんから受け取った手紙をグッと握りしめて声を出して泣いた。
そう。私はこの韓国を最後にヒョンさんとの別れを決めていた。アラフィフおばちゃんはしょせんおばちゃんなんだから。私なんかが側にいちゃいけない!私はボーっとしながら韓国の町並みを眺めていた。




