契り
私達はお互い前を向いたまま暫く黙って車から離れる事が出来なかった。私は言葉を探していた。ヒョンさんとの想い出を台無しにしたくはなかった。するとヒョンさんがそっと私の手を握った。黙ったまま。
私は彼を見ることも、言葉を発する事も出来なかった。時計の針は容赦無く進んで行く。意を決してヒョンさんを見た。涙が溢れていた。私も抑えきれなかった涙がポツリとながれた。同じ気持ちだったんだと思う。
私は彼の涙を拭いながら言った。
『たくさん想い出を作ってくれてありがとう。本当に幸せだったよ。私がぶつかった人がヒョンさんで良かった。それで大好きになれて良かった。ヒョンさんの時間の一部に私を入れてくれてありがとう。』ヒョンさんは我慢の糸が切れてしまったように私を抱きしめた。そして子供のように泣いていた。私は彼の背中をさすりながら言った。
『もう泣かないで。ヒョンさんは韓国で私は日本でお互い別々になるけど、私はいつでもヒョンさんを応援してるし、いつもどんな時も大好きだよ!淋しくなっても辛い気持ちになってもこの想い出があれば私は大丈夫!きっと頑張れるし、いつでも笑っていられるから。だからヒョンさんも笑って。ハンサムが台無しだよ』ヒョンさんは真っ赤になった目で私を見つめた。
『みきさんは淋しくない?』
『すごく淋しいよ。ヒョンさんをポケットに入れて連れて行きたいぐらい!』私は精一杯の笑顔を見せた。
“淋しくて淋しくてたまらないよ!このまま何もかも忘れて、ずっとあなたの笑顔を隣で見てたいよ!あなたが愛おしい!”私は心で叫んでいた。
『みき!사랑해. 계속 사랑해.(愛してる.ずっと愛してる.) 』ヒョンさんは私を強く抱きしめて言った。
『고마워. 나도 사랑해.계속 사랑해.(ありがとう。私も愛してる。ずっと愛してる)』私もギュッと抱きしめた。
私達は熱いキスをした。それも自然に。何度も何度もキスをした。
そして彼がポツリと呟いた、
『みきとの事は僕の一部の時間じゃない。僕のすべて。これからもずっとすべて。だからなにがあっても心配しないで。離れててもみきはいつもここにいるから。』と、私の手をとり彼の胸にあてた。嬉しかった。最高に素適な告白をもらったようだった。私は彼の手を取って自分の胸にあてた。
『ヒョンさんもずっと私のここにいるからね。』彼はまた強く私を抱きしめて込み上げてきた想いをぶつけてきた。
『みきと愛し合いたい!全部がほしい!全てを知りたい!僕だけのみきでいてほしい!誰かの人にならないで!いつも僕を思ってほしい。愛してる。』彼は本当に強く激しく私にキスをした。するとゆっくり座席が倒され私の首筋にキスをした。そしてゆっくりと私のシャツの中に手を入れた。私は”スー“と何かに引き込まれそうになりそうだった。“だめだよ。誰かに見られたら彼が大変だよ”と誰かに言われたような気がして、私は彼の手をそっと掴んだ。彼の気持ちに答えたかったが私の中の誰かがそれを止めた。彼は耳元で”ごめんね。本当に愛してる”と囁いて優しいキスをくれた。私も”嬉しいよ。だからごめんは言わないでね。大好きよ“と、私も優しいキスを返した。
私達はシートを戻して優しく強く最後にお互いの想いを確認するように抱きしめ合ってキスをした。言葉は無くても不思議と気持ちが通じたような気がした。
気付くとヒョンさんの携帯が鳴っていた。ジオンさんだった。なにやら話しをするとヒョンさんは
『忘れてた!ジオンが見送りに来てたんだ』と笑った。私も笑った。
『ヒョンさん、私達も行こう。ジオンさん待たせたら申し訳ないから』
と、ちょっと乱れた衣服を整えながら私が言うと“あと少しだけ!”と言わんばかりの顔で、
『行かなくちゃだめ?』とまただだっ子のような顔で私を見つめてきた。”この顔に弱いんだよな〜!“と思いながらも『だめ!』とお母さんのような言って二人は笑った。
車から降りようとした時に、『待って!』と、ちょっと大きい声に驚くとヒョンさんは先に降りて助手席のドアを開けてた。そして『공주님(お姫様)』と、手を差し出した。
まるで本当の王子様のようで見とれてしまった。
彼はキャリーケースを持って私と手をつなぎ優しいキスをして歩き出した。私はいつもより強く彼の手を握った。
出発ロビーでもヒョンさんは何を気にする事もなく手を繋いだままチェックINカウンターでチェックINを済ませてくれた。カウンターの女性はヒョンさんを見て一瞬驚いたようだが、頬を赤くしながら満面の笑顔で対応していた。私はそれを見て、“かわいい!惚れたな!”と思いながら一人ニヤついていると、カウンターの女性に睨まれてしまった。私は慌てて下を向いた。そのまま下を向いて歩いていると彼は立ち止まり私を覗き込み『괜찮아?』と聞いてきた。私は下を向いたまま『괜찮아』と小さな声で答えた。彼は私の気持ちを透視したかのように、両手で私の頬をムギュと潰しながら顔を上げると笑顔で私のおでこにキスをした。そして私を誰からか守るように肩を抱いて歩き出した。周りは全く気にしていないようだった。
しばらく歩いて私達はオシャレなカフェの前に来た。奥の窓際の席でジオンさんが笑顔で手を振っていた。




