気持ち
私は身支度の為に寝室に向かった。まずベッドをなおしてベッドの写真を撮った。バスルームも撮った。想い出に残しておきたかった。
私は決めていた。これ以上ヒョンさんに迷惑をかけられない。だからもう韓国には来ないつもりでいた。ヒョンさんとも二人では逢わない決心をしていた。こんなおばちゃんにあり得ないぐらいの経験と幸せと想い出をくれた。だから私が返せる事はまたテレビの前で応援し続ける事しか出来ないと思った。
荷物をしまっていると、そっと入ってきたヒョンさんが不意に後ろから私を抱きしめた。泣きそうになるのをグッと抑えて笑いながら言った
『ビックリした〜!』と私は荷物の片付けを続けた。”私はおばちゃん。貴方のお姫様じゃないんだよ。これ以上優しくされると辛くなるよ!おばちゃん泣きそうです“
すると何かを感じたのか彼は正面に周り真剣な眼差しで私を見つめた。私は顔を見る事が出来なくて下を向いた。すると
『僕を見て』と頬を両手ではさみグイッと顔を向けた。私は頑張って笑顔で言った。
『どうした?』しかし、彼は何も話さずジッと私の顔を暫く見つめるとポツリと言った。
『心配しないで下さい。僕を信じて』と微笑んだ。私は我慢していた涙がポロッと流れた。でも、あえて笑ってみせた。そして私の携帯を指差して翻訳機を使う仕草をした。私が翻訳機のスイッチをいれると彼は韓国語でゆっくり話しはじめた。
『今母から聞きました。心配かけてゴメンネ。僕はみきさんが本当に愛おしい。日本に返したくない!けれどみきさんが大好きな子供達が待ってて、本当は僕もみきさんの家族と仲良くなりたい。僕も日本へ一緒に行きたい。僕は誰に何を言われても全然気にしないし、世界の人達に私の愛する人ですって伝えたいぐらい大好き。なぜ僕の気持ちをわかってくれないのか悲しい。僕を信じて。僕の彼女でいてほしい。』そして彼は私を抱きしめた。私は蓋をしたはずの気持ちがまたポンと外れそうになるぐらい嬉しかった。私は抱きしめられたまま言った
『ありがとう。本当に本当にありがとう。ヒョンさんの気持ちは天にも登るくらいに嬉しい。ヒョンさんの事はいつでも信じてるよ。でもね、私はもう良い年齢で容姿端麗など思っても言えない。逆にヒョンさんは容姿端麗でとても優しくて紳士的でスターで。ヒョンさんを好きにならない人はいないはず。ヒョンさんはきっと日本人で普通のおばちゃんと話したり一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだ事がなかったからもの珍しくて、たぶん好きと勘違いしてると思う。私なんかじゃなくて本当にヒョンさんの運命人はいるはず。だから、私はそのヒョンさんの気持ちを人生の大切な宝物として日本からいつでも応援してるから、ヒョンさんの運命の人を見つけてほしいな。こんな夢の世界に連れて来てくれて本当にありがとう。』これ以上は限界だった。柄でもなく声に出して泣きたい気持ちだったからだ。それを黙って聞いていたヒョンさんが私をベッドに座らせて手を握ったまま隣に座ってゆっくり話しだした。
『僕はみきさんにとってテレビの人間かもしれない。でも一人の普通の男。僕が気付いた運命の人はみきさんだけ。この先もずっとみきさんだけ。年齢も外見も関係なく中身が大切でしょ?今まで付き合った人はいたけど全然運命の人じゃなかったよ。その時に誰かに好きな所を聞かれてもすぐにいくつか答えられた。でもね、みきさんのどこが好き?って星さんに聞かれた時は答えられなかった。だって自分が本当に側にいたくて愛おしいって思えて会えない事が切なくて淋しい気持ちのみきさんのどこが好きなんて答えられない。みきさんは僕のどこが好き?』彼は穏やかに聞いてきた。私は考えた。しかし、私もヒョンさんと同じで言えなかった。出会う前なら顔とか声とかいろいろ言えたかもしれないが、目の前にいる彼は家族で例えれば自分の子供のどこが好きって聞かれてもただ愛していて側にいるのが当たり前でただただ愛おしい。
家族に対する愛情とは違うかもしれないが、本当に愛する人のどこが好き?と聞かれても言えない。だから言えない自分に涙が溢れてきて私は手で顔を覆った。騙し騙し抑えていた気持ちが爆発してしまい私は何十年ぶりかに声に出して泣いてしまった。ヒョンさんは私が落ち着くまでギュッと抱きしめてくれた。少し落ち着いてきた所でティッシュをわたしてくれながら彼が言った。
『大丈夫だよ。僕を信じて。僕がみきさんを守るから。だからもう泣かないで。本当に愛してるんだから!
』私は心の底から幸せを感じた。ただやっぱり心の片隅で不安と罪悪感があるのは否めなかった。でも、大泣きした事で何かが吹っ切れたような気がして、
『ありがとう、ヒョンさん。年甲斐もなく大泣きしてゴメンネ。私の気持ちはヒョンさんと一緒で、本当に大好きです。私なんかを好きになってくれてありがとう。』私は言った。
『違う違う!僕を好きになってくれてありがとう。出会ってくれてありがとう』
“いえいえ、私こそ…”と言いかけてお互いきりが無くなりそうな事を感じて同時に笑った。彼は私の顔を見て微笑みながら言った。
『お化粧落ちちゃったね』私は急に恥ずかしくなり両手で顔を覆って
『보지마~!(見ないで〜!)』と叫んだ。彼は笑いながら私の両手を掴み
『귀여워(かわいい)』と言いながら私のおでこにキスをした。そして私を抱きしめ何回目かわからないちょっと熱いキスをした。どさくさに紛れて服を脱がそうとしたので、私は彼の手を掴み
『약속!(約束)』と笑って言った。
彼はペロッと舌を出して笑った。
”デジャヴだ〜“。
でも次にもし会えたら約束しないから、ダイエット成功するまで待っててね!私にダイエットの神が降りた瞬間だった。
そして私は化粧をなおし、二人でドアの前でギュッと抱き合って、ちょっと熱いキスをして寝室を後にした。




