サプライズ
ヒョンさんが帰国の日になった。私は仕事を半休をとり、以前もらったフクロウのストラップを付けて羽田に向かった。
車の中でなんとなく不思議な気持ちでいた。ちょっと淋しい気持ちとなんだかわからないワクワク感と。
心の中では、これでヒョンさんはまたテレビの中の人になるんだな〜と、淋しい気持ちが大きいのかな?
私は運転に集中する為に大好きな90年代の音楽を聞きながら大音量で歌った。
羽田に着いたが約束の時間まで少し時間があったので、とりあえずトイレで化粧を少しなおした。
実は昨晩、ママ友にもらったパックをしてみた。お恥ずかしながら美容には今まで全く興味がなかったもので、初体験だった。顔につけた時はあまりにも冷たくて心臓発作で倒れるかと思った。更に最悪だったのが目の位置が合わない!確かに人より若干目は離れている。だけど両サイドの目が隠れてしまうって…汁が目に入りそうになるのでハサミで切った。同時に自分の目の位置がこれほど離れているんだと思い知らされたようだった。
化粧直しをして手を洗い鏡に写る顔を見た瞬間あまりのおばちゃんに絶望した。
“何をやってんだよ!このおばちゃん!”と切なくもなった。
それから綺麗になった羽田空港をブラブラしながら出発ロビーに着いた。
”え?“そこには例のキラキラが付いたヒョンさんの写真のうちわや、ハングル文字で書かれた画用紙みたいなものを持った女性があちこちで見られた。
“え〜!こんな所にもファンの人達が来るの?すごっ!”私は驚きとやっぱりヒョンさんはスターなんだと再確認した。年齢もさまざまで、この前行ったファンミーティングを思い出した。そうこうしてるうちに待ち合わせの時間になり星さんにLINEを入れた。
”今どこですか?“
“出発ロビーです”
”5階まで来れますか?“
“わかりました。今行きます”
エスカレータで5階まで上がると星さんが待っていてくれた。
『出発ロビーにファンの方がたくさんいましたよ!』
『毎回ですよ!奥の席にいますから一緒に行きましょう。驚きますよ』と、ドッキリを仕掛ける前みたいに楽しんでるようだった。
星さんの後ろに隠れるように(全然隠れてないが…)席まで行き、星さんの後ろから声をかけた
『ヒョンさん!サプラーイズ!』私はヒョイっと顔を出した。ヒョンさんは驚いたようにコーヒーを吹き出した。
”そんなに驚かなくてもいいやん!コントかよ!“と爆笑しそうになった時、ヒョンさんが思いっきり抱きついてきた。
『みきさん!会いたかったです!』
私は内心ドキドキしていた。恥ずかしさとパパラッチされないかと!
“まっ、こんなおばちゃんに抱きついてたってただの知り合いとしか思わないな”と直に思った。
『最後にお見送りに来ました。ストラップも付けてきましたよ』と、笑顔で見せた。キョトンと眺めていたマネージャーさんに星さんが韓国語で私を紹介してくれた。すぐに飲み物を買ってきてくれた。
隣に座ったヒョンさんはなぜかずっと私の手を繋いでいた。自然と離そうとすると、グイッと戻された。
マネージャーさんは”何このおばちゃん!何してんねん!“と言わんばかりの視線で見ていた。笑っていたけど目は笑っていなかった。こわっ!
その後も星さんが通訳をしてくれて、皆でいろいろ話をした。ところどころでマネージャーさんの質問攻撃もあったが、不審者ではない事がわかったようで普通の感じで和やかに会話をした。
そろそろ出発の時間になったようなので
『ヒョンさん!ありがとうございました。ずっと応援してます。お身体に気をつけて頑張って下さいね。下にたくさんファンの方が待ってるので私はここで失礼します。』
と、星さんに通訳してもらいマネージャーさんにも会釈をして帰ろうとした時、ヒョンさんが
『だめです!』と私を掴んだ。そしてマネージャーさんと星さんに韓国語でなにやら告げた。マネージャーさんは苦笑いしながら頷いていた。星さんに“何?”と聞くと笑いながら言った。
『ギリギリまでみきさんと行くそうですよ。出来ないなら韓国に戻らないそうです!』と笑った。
『は〜、わかりました。行きましょう。遅れちゃうから』アラフォーになっているのにまるで子供のようだったが、実は少し嬉しかった。
しかしずっと手を離してはくれずどうしようか悩んでいた。
”ファンの人達の前ではさすがに離してくれるよね?このままだったら私が殺される!頼む!離してくれ!“
そんな思いも虚しく彼女達の前でも彼は手を離さなかった。あっと言う間に周りはキラキラうちわの人集りになっていた。私はずっと下を向いていた。
“ヒョンさんが搭乗口に入ったらダッシュで逃げよう!”などと考えていると搭乗口付近に到着してやっと手を話してくれた。
『ヒョンさん!お元気で。お幸せに。ありがとう』私は一生懸命覚えてきた韓国語で挨拶した。ヒョンさんは笑顔で星さんと私に挨拶をしてたくさんのファンの方達にハートマークを作り手を振り会釈した。そして搭乗口に入る直前に振り返ったので、私と星さんは思いっきり笑顔で大きいハートマークを作って手を振った。
それは突然やってきた。彼がもう一度私達の前に来たと思ったら思いっきり抱きしめられた。周りでは”キャー“と奇声?が聞こえた。
私は彼の背中をポンポン叩きながら『괜찮아?(大丈夫?)』と聞いた。
彼は暫く何も言わずにギュッと抱きしめていたが、耳元で何かつぶやいて5秒ぐらい私の顔を見て手を振って搭乗口に入って行った。
私達は突き刺さるような視線を背中に受けながら、そそくさとその場から立ち去った。駐車場に向かう帰り道で星さんに聞いた。
『さっき耳元でなんていってたかわかりますか?』彼女は驚いたように言った
『わからなかったんですか?てっきりわかってるのかと思いました!
“あなたを愛してます。必ず迎えに来ます!待っていて下さい!”って言ったんですよ』彼女は笑顔で言った。
『え〜!ドラマやん!それ、ファンの方達に言ったんだよね~!』
『違うと思いますよ。みきさんだけに言ったんですよ!じゃなきゃ、あんな堂々とハグしないでしょ!』
私は言葉を失った。理解出来ないまま笑顔で別れた。
車に戻ると、急に身体中が熱くなるのを感じた。そして、なぜだか解らないが涙がこぼれた。
エンジンをかけると、ドリカムの”何度でも“流れてきて、また涙がこぼれた。
“どっちが、サプライズやねん!”
と、帰り道車の中で一人カラオケ大会をしながら帰った。




