アイ・アム・ヒーロー
夕方5時半を過ぎたぐらいから、私達はテレビの前に座って記者会見を待っていた。息子も翻訳機の調子を確かめながらスタンバイしていた。私はたぶん翻訳機では追いつかない事を見越して、ジオンさんに通訳をお願いしていた。何だかどことなく皆緊張しているように見えた。程なくして記者会見が始まった。男性2人で一人は社長さんでもう一人は弁護士の方との紹介があった。まずはひと通り事件の経緯の説明があり、次に記者の方からの質疑応答となった。私達はどんな質問がされるのか、内心ドキドキしていた。まずは初めの質問はヒョンさんの現在の様子。“そうだよね~!皆心配してるよね〜!”と思いながら聞いていた。ヒョンさんを見ると黙ったまま社長さんの話しを聞いていた。そして次は容疑者の女性は以前からヒョンさんを知っていたのか?との質問に弁護士さんが答えていた。その次に容疑者を取り押さえ人の事。”私じゃん!“と思いながら話しを聞いていた。“旅行でお子さんと韓国に来ていた日本人女性”と説明した。あえて、ヒョンさんの友人とは社長さんからは言わなかった。”さすが社長さん!機転が利いてる“と思っていた。だが、SNSでヒョンさんと私が一緒にいる動画が上がっているのを記者の方が見逃すはずもなく矢継ぎ早に聞いてきた。“2人は知り合いか?知り合いならどんな関係か?”と質問がきた。キム社長は、”二人は友人です。“とだけ言った。やはりだが、そこはしつこく攻めてくる。キム社長も負けじと“日本で仕事を通じて知り合いとなっただけでそれ以上はない”と話した。ヒョンさんを見ると少しだけ、緊張が解けたように見えた。そして別の記者が”その女性はどんな方なのか“と質問した。キム社長がゆっくりなぜか少し笑顔で答えた。『彼女は僕も知り合いですが、ご存知かと思いますが日本の方です。誰にでもとても優しくてユーモアもあります。一緒にいて癒されると言った感じの女性で、私は彼女を尊敬しています!女性としても人としても!』と答えた。すると、息子以外の顔が一斉に私を見た。“ん?何?何?”と思いジオンさんを見た。そしてジオンさんが通訳して私は初めて驚いた!”え〜!言い過ぎじゃない!恥ずかしいんですけど〜!“と思いわざとテレビを凝視した。記者会見は続いていた。次は私の年齢を聞いた。私はその質問は訳さなくてもわかったのでキム社長がなんと言うかが気になった。キム社長は『私から彼女の年齢は控えさせて頂きたい。怒られちゃうかもしれないしね!』と答えた。そして先程のキム社長の答えに関連したように質問がとんだ。『キム社長は彼女を良くご存知のようにお見受けしましたが、キム社長とその方は親しい間柄なんですか?』と記者が聞いた。キム社長は笑いながら『良いご質問ですね!残念ながら彼女にはお相手がいらっしゃいますし、お子様もおられます。強いて言えば彼女は私のヒーローじゃないかな!ハハハハ…』と答えて、又その場にいた記者の方々も笑った。ジオンさんが通訳をしてくれて息子もお母様も笑いながら私を見た。そして息子が『やばいよ!母!ヒーローだって!笑えるわ』と私に言った。ジオンさんも『お姉さん、明日の新聞に”ヒーロー現る“とか見出しがつくかもね〜』とからかった。私は『やめてほしいよね!大げさすぎるわ!』とヒョンさんを見ると彼は真面目な顔で何かを考えているようだった。私が彼の肩をポンと叩くと、我に返ったように驚いて私を見た。私は『무슨 일 있어?(どうかしたの?)』と尋ねるといつもの笑顔に戻り『아무것도 아니야!(なんでもないよ!)』と答えた。テレビを視ていると記者会見も終わりに近づいているようで最後にキム社長が言った。『この度は皆様にご心配をおかけしました事、そして友人でもある彼女に怪我までさせてしまいました事、申し訳ございませんでした。私から最後に報道の方々も含めヒョンを応援して頂いている方々、そして全ての方々にお願いがあります。ヒョンも彼のご家族もこの事件が起こり凄く傷ついていると言う事と、今回被害にあわれた彼女もとても怖い思いをさせてしまいました。彼女や彼女のご家族、ヒョンのご家族は一般人であると共にお怪我をされた彼女もそのご家族も韓国に観光でいらしています。ですので、彼女とそのご家族が少しでも楽しい韓国旅行で帰国出来ますように、又ヒョンや彼等の心の傷が少しでも癒されますよう、街で彼等を見かけてもそっと見守って頂ますようお願いしたいのと、又、ヒョンの自宅前で待機されてる方々も撤退お願いいたします。これだけはお約束願いたく申し上げます。』と頭を下げて記者会見は終わった。私はさすが社長だなと感心していた。そして直ぐにジオンさんの携帯が鳴った。彼女は少し離れた所で話しをしていた。すると息子が『あのキム社長って、カッコよくね!俺も社長になろうかな!』と翻訳機を使って言った。私は『目標は高く!良い心掛けだ!そうなりたいなら、死物狂いで勉強しなくちゃね〜!』と笑いながら言った。そしてお母様も息子の頭を撫でながら『기대하고 있을게!(楽しみしてるね!)』と笑いながら言うと自分の部屋に戻って行った。ヒョンさんを見ると相変わらず何かを考えているようだった。『ねえ!何時にここ出るの?』と息子が聞いたので『たぶんあと1時間後ぐらいじゃないかな!何で?』と尋ねると『俺、ちょっと部屋でゲームしてて良い?今日さ、イベントなんだ!もう始まってるから行く時呼んで!』と部屋に行ってしまった。私はヒョンさんに『さっきからどうしたの?』と尋ねた。彼は英語で言った。『キム社長って何だか凄いよね!尊敬するよ』と言った。私は彼が思ってる事はそれだけじゃないように思えて、『本当にそれだけ?何か別の事考えてない?』と英語で聞いてみた。彼は少し驚いたように私を見て『何でそう思うの?』と聞いたので『何となく』と答えた。それから彼はいつもの笑顔に戻り言った。『実はキム社長が君の事を話している顔を見てたら、良くわからないけど嫌な気持ちになって、そんな風に思う自分も嫌になったんだ』と呆れたように私を見た。私は『ん〜。何だろうね?私にも良くわからないけど、私はヒョンさんの事が大好きよ!』と笑顔で言った。ヒョンさんは少し不思議そうな顔をしたが、『僕も愛してる』と私を抱きしめた。私は本当はそれが“嫉妬やヤキモチ”だとわかっていたが、あえて口には出さなかった。なぜなら、それだけ私の事を思っていると言う事だと思ったからだ。すると後ろから”ヒュー“と聞こえたので振り向くとジオンさんがニヤニヤしながら立っていた。そしてソファに座ると『もー!家族の前で〜!』と笑った。気付かなかったが、何処かでヒョンさんの携帯が鳴っていた。ヒョンさんがダイニングに置いてある携帯を取りに行きそのまま誰かと話していた。ジオンさんが『ねえ、お姉さん!もしかしたら社長ってお姉さんの事、本当に好きなんじゃないの〜!』と笑いながら言った。私は『やめてよ!私、53になるんだよ!おばさん!それも普通のね!ないない!』と言った。ジオンさんは笑顔で『お姉さん!兄さんがもし俳優辞めても一緒に居てくれる?』と聞いてきた。私は『もちろん!俳優さんだからプロポーズ受けた理由じゃないし、もし彼が普通の人でも好きになってるよ。彼は本当に優しくて人として尊敬してる。だから、本当の事言うと今でもこんな私で良いのか悩みどころではある!』と笑顔で答えた。するとジオンさんが『だって!兄さん!』と言ったかと思うと後ろからヒョンさんが私を抱きしめた。『お姉さん!これからも兄さんをよろしくね!』とジオンさんが言うとヒョンさんも日本語で『ありがとうごじゃいます!よろしくお願いします』と言った。私は『はい!こちらこそ。それから、“ごじゃいます”じゃなくて”ございます“ね!』と言って3人は笑った。『15分後に迎えがくるから、母さんに話してくるね!みきはともを呼んで来て』とヒョンさんは言った。そして、お母様に見送られる中私達は迎えの車に乗って、夕食に向かった。




