生涯最後の人
秘書の方は飲み物と可愛らしいケーキを持ってきてくれた。たぶん普通の飲み物とケーキなのだけれど、何となく全てがオシャレに見えた。そして、もう一人私と同じ事を思っていた人間がいた。息子だ。息子は私に目で“すげー!食べて良い?”と目を輝かせて訴えてきた。私は”待て!“と目で訴えた。キム社長が『どうぞ』と言ったのを合図に私は息子に“よし!”と頷いた。息子は笑顔で『チャルモケッスムニダ〜』と言って食べ始めた。キム社長は『많이 먹어(たくさん食べて)』と笑顔で答えてくれた。あまりにもがっついて食べたので、息子が思いっきりむせた。すると『とも!ゆっくりね!』とヒョンさんが息子にハンカチを渡した。息子は『ごめーん』とハンカチを受け取り口を拭いた。私はちょっと恥ずかしくなりヒョンさんの顔を見ると、彼は優しい笑顔で息子を見ていた。”あ~、良かった“となぜか彼の笑顔を見て私はホッとする自分を感じた。キム社長も『もう、親子だね』とその光景を見て言った。ジオンさんも韓国語で『はい!可愛い甥っ子です』とわざと韓国語で言った。私はこの会話を聞いて“私はこの人達が大好きだ〜!”と心で叫んだ。キム社長は小さい声で私に『みきさんの家族はまだ知らないの?』とジオンさんと私を見て察したように聞いた。私はあえて英語で答えた。『はい。お付合いしてるのは知っていますが、息子達は彼が本気だと思っていないらしく…半信半疑みたいな…。まだ、プロポーズした事は言ってません。日本に帰国したら話すつもりでいます。たぶん、夢でも見てるんでしょ!って言われそうですけどね』と笑った。そしてキム社長はヒョンさんにも聞いた。『その時は一緒に行くの?』と言うとヒョンさんは英語で『行きたいんですが、仕事もあるので初めは彼女から話してもらいます。それから、僕も正式に彼女のご両親と子供達に挨拶に行きます』と言って私の顔を見た。私も笑顔で頷いた。『みきさんは英語も話せるんですね!驚いた。日本人はあまり英語は話せないって前に聞いた事があったので!』と言った。私は『昔、オーストラリアとフィリピンに住んでいた事がありましたので。でも、使わないと忘れちゃいますね』と笑顔で答えた。キム社長は『結婚したら韓国に住まわれるんですか?』と質問されたので、私はヒョンさんの顔を見ると彼が『いいえ!ともがまだ高校生になったばかりなので、二人で行ったり来たりの生活になると思います。そして、彼が社会人になったら考えます』と言った。キム社長は少し驚いて『別居?寂しくないの?二人共近くにいなくて心配じゃないの?』と聞いた。私達は顔を見合わせて笑顔でヒョンさんから『心配ですし寂しいですよ。何かあった時に一番に側にいてあげたいし。変な男が言い寄って来ないかとか。でもきっとそれは彼女も同じだと思いますので、お互いが信じあっていて、愛し合ってれば大丈夫だと思います。ただ、彼女に何かあったりした時は、直ぐに日本に行かせて下さいね!社長!』と笑顔で言った。私も『私は男性に言い寄られる事はないですけどね!でも、近くにいられなくても彼が守ってくれる、彼が愛してくれてるって思うだけでも幸せですし、毎日が輝いてます。だから、私も出来る限り彼が楽しく過ごせるように、信じて愛して、サポートしていくつもりです』と英語で答えた。キム社長は『羨ましい!ねぇ、みきさん!彼じゃなくて僕と結婚してくれませんか?後悔させませんよ!お金もあるし!』と笑ってはいたが、どこまで冗談かわからないようだった。ジオンさんもヒョンさんも驚いていたが、私は『お言葉ありがとうございます。でも、別にお金持ちになりたくもないし、私にとってヒョンさんは生涯最後の人ですので。』と笑顔で答えた。キム社長も笑顔で『残念です。次に生まれ変わったら、その時はみきさんに正式にプロポーズしますね!』と笑顔で言って私とキム社長は笑い出した。ただ、ヒョンさんとジオンさんは真面目な顔で聞いていた。私は思った。50年も生きてくるといろいろな経験もして、断り方も交し方も上手くなるものだと。息子を見ると満足したのか、ソファに寄り掛かって携帯を見ていた。全く会話に興味なさそうで、内心”良かったー“と思っていた。するとキム社長が最初に頂いた名刺をとり、裏に何やら書いて私に渡した。見ると携帯の番号だった。私は“これは?”とキム社長を見ると、『その番号はプライベートの番号です。もし、何かあった時はそちらに連絡下さい。食事のお誘いなら尚更良いですけどね!』と笑いながら言った。ヒョンさんを見ると名刺をジーっと見ていた。私は『ありがとうございます。食事にお誘いする時はヒョンさんから伝えてもらいますね!』と笑顔で交わした。ヒョンさんもそれを聞いて少しホッとした顔で私を見て笑った。そしてヒョンさんが『僕達そろそろ行きますね。あっそうだ!僕の家の前に記者が何人かいて、何とかしてもらえませんか?外出も出来なくて!』とお願いした。キム社長は『そうだったんだね!申し訳ない。じゃあ、今晩夕食一緒にどお?いつものイタリアンで良ければ予約出来るから。たぶん20時には行けると思うよ!ね?食べよう!』と楽しそうに言った。ヒョンさんは私とジオンさんに”どうする?“と目で訴えた。私はわざと日本語で『どちらでも良いけど、お母様寂しくない?』と言うとジオンさんは『え!行こうよ!お母さんなら大丈夫よ』と言った。ヒョンさんは暫く考えていたが、息子に『とも!今日ご飯イタリアンで良い?』と聞いた。息子は『全然OK!』とOKサインを見せた。ヒョンさんは笑顔でOKサインを返して『大丈夫です。でも、もう彼女を誘惑したりしないで下さいね!』と強めに言った。“え?さっきの真面目に聞いてたの?可愛い〜!”と私は内心嬉しくなった。キム社長も笑いながら『大丈夫だよ!たぶんね!じゃあ、19:45に車迎えに行かせるから。記者会見は、心配しないでね!』と私達に言うとマネージャーさんが退席したと思ったら直ぐに紙袋を持って戻ってきて、息子とジオンさんと私に渡した。『お土産です。このケーキも持って帰って家で食べて下さいね』といつの間にかテーブルのケーキが箱に入って置いてあった。私達は『ありがとうございます』と挨拶をして部屋を出ようとした。すると、私はキム社長に呼び止められて、キム社長は私の耳元で小さく囁いた。私は笑顔でお辞儀をすると社長室を後にした。




