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第八話 仲直りのからあげと小鳥遊さん



 その後に訪れたなんとも言えない雰囲気に、三人して押し黙ってしまうぼくたち。

 特に小鳥遊さんと鵜飼さんは心当たりがあると言わんばかりに沈痛な表情を浮かべていた。

 う~む。アナスタシアさんの去り際の一言で変に重苦しい空気になってしまった。

 いや別にアナスタシアさんが悪いわけじゃないけれど──むしろ正鵠を射た意見を口にしてくれたとも思うけれど、一人渦中に取り残された形のぼくとしては、正直気まずいったらない。

 ここはやはりぼくが場を取り持つしかないのかと口を開きかけた、その直前のことだった。

「た、小鳥遊さん。その……ご、ごめんなさい!!」

 と。

 なんの脈絡もなく、唐突に鵜飼さんが小鳥遊さんに向かって頭を下げた。

 そんな鵜飼さんの態度にあたふたと狼狽しながらも、小鳥遊さんは神妙な面持ちでスマホをいじり始めた。

 そうして出来上がった文章を鵜飼さんに見せようとする小鳥遊さんではあったけれど、当人は顔を伏せたままなので、まったくスマホに気付いていない。

「鵜飼さん、小鳥遊さんが『顔を上げてください。謝るようなことなんてなにもしていないのですから』だってさ」

 とぼくが代わりに文章を読み上げると、鵜飼さんはおそるおそると言った態で上体を起こした。

「ほ、ほんと?」

 上目遣いで訊ねる鵜飼さんに、小鳥遊さんはこくこくと頷く。

「でもあたし、転校してきたばかりの小鳥遊さんにひどいことを言っちゃったし……。そのせいで人と話すのも苦手になっちゃったんでしょ……?」

 鵜飼さんの視線が小鳥遊さんの顔とスマホを交互に行き来する。

 現にさっきからスマホでしか返事をしていない、とでも言いたげに。

 小鳥遊さんもその視線の意味に気付いたのか、少し困惑したように眉を下げる。

 そうして、さながら葛藤しているかのようにスマホの裏面を何度も撫でたあと、小鳥遊さんは躊躇いがちに文字を打った。

『それは、否定はしません』

 小鳥遊さんの返答に「や、やっぱり……」と申しわけなさそうに鵜飼さんは身を縮こませた。予想はしていたけれどショックがでかいと言った風に。

 けど即座に『ですが』と小鳥遊さんが短文で返したのを見て、鵜飼さんはその後に続く文章を不安そうな顔で待った。

『鵜飼さんがからあげ嫌いとは知らずに、からあげの話を一方的にしてしまった私の側に問題があったと思っています。ですから、鵜飼さんが謝るようなことなんてなにもありません。むしろ謝るべきは私の方です』

 そこまで綴ったあと。

 小鳥遊さんは深呼吸を繰り返しながら、先の鵜飼さんのようにゆっくり低頭した。

「……ご、ごめんなさい……っ」

 それは微かな──けれど必死に喉から絞り出したような哀切に満ちた声音だった。

 まさかあの小鳥遊さんが、直接口で謝罪するとは……。

 しかも相手は、コミュ障のきっかけにもなった人だというのに。

 いや、小鳥遊さんが過去の行いを悔いていたのはよく知っているというか、以前に本人から聞かされてはいたけれど、スマホを使わずに自分の口で謝罪するほど覚悟を決めていたとはさすがに思わなかった。

 対する鵜飼さんの反応はというと、ぼく以上に双眸を剥いた状態で呆然としていた。

 小鳥遊さんに頭を下げられたことはもとより、口を開いてくれたことがよほど衝撃的だったらしい。

「そ、そんな! それこそ小鳥遊さんが謝るようなことじゃないから!」

 と。

 ほどなくしてから、忘我から返った鵜飼さんが慌てて立ち上がった。

「だって、どう考えてもあたしの言い方が悪かったもの。いくらからあげにトラウマがあるからって、転校初日の小鳥遊さんに『気持ち悪い』って言っちゃうなんて……」

『鵜飼さんは一切悪くありません。嫌悪しているものを延々と聞かされたのですから、悪態を吐きたくなるのも当然です。ですので、私がこうなったのもすべて自業自得です』

「それこそ小鳥遊さんの加害妄想よ! 小鳥遊さんはあたしと仲良くなろうと話しかけてくれただけなんだから! 悪いのは絶対あたしの方……!」

『いえ、非があったのは私の方です』

「いや、あたしが──」

『私の方が──』

 あーこれ、放っておいたらいつまでも続くやつだ。

「まあまあ。小鳥遊さんも鵜飼さんも、いったん落ち着こう」

 鹿威しみたいに何度も頭を上げ下げする二人の間に、片手を突き出して割って入る。裁判をしているわけでもないのに、さながらお奉行さまになったかのような気分だった。

「小鳥遊さんも鵜飼さんもお互いに罪悪感を抱いているのはよくわかるけれど、そろそろ水に流してもいい頃合いなんじゃないかな? いや、関係ないやつが口を挟むなって感じかもしれないけど、前に二人の気持ちを聞かせてもらってからずっと思っていたことがあってさ。二人とも誤解と行き違いがあっただけで、望んで相手を傷付けたわけでもないのになんでこうなっちゃったのかなって」

 ぼくの言葉に、小鳥遊さんと鵜飼さんは同時にお互いの顔を見つめ合った。

「た、確かにこうして話してみて誤解や行き違いがあったのは認めるし、羽賀くんの言う通り望んでやったことじゃないけれど、それでも傷付けちゃったことは紛れもない事実ではあるし……」

『そう、ですね。鵜飼さんに会ってお気持ちを直接聞いた今でも、自分の行いを正当化する気には到底なれません……』

「無理に過去をなかったことにする必要はないし、正当化する必要もないと思うよ。それよりも重要なのは、二人がこれからどうしたいかの方じゃないかな」

 もちろん謝罪以外でねと繋げたぼくに、小鳥遊さんと鵜飼さんは再び視線を絡めた。

 それからどちらからともなく目線を外したあと、しばし二人して考え込むように沈黙が続いた。

 時置いて。



『私は、鵜飼さんと仲直りしたいです』



 と、先に返事をしたのは小鳥遊さんの方だった。

『もしも叶うのなら、私は鵜飼さんと仲良しになりたいです』

 おずおずとスマホで書いた文章を見せる小鳥遊さんに、鵜飼さんは信じられないとばかりに目を見張ったあと、まるで力が抜けたようにへなへなと椅子に座り直した。

「た、小鳥遊さんがあたしと仲良く……? え、こんなあたしなんかと……?」

 茫然自失とする鵜飼さんに、小鳥遊さんは無言で何度も首肯した。

 それからまたスマホをいじったあと、鵜飼さんに画面を向ける。

『鵜飼さんは忘れているかもしれませんが、初めての転校で緊張していた私に、隣の席にいた鵜飼さんが笑顔で挨拶してくれたことを今でも鮮明に覚えています。あの時からずっと鵜飼さんと友達になりたいと思っていました。結果的には悲しいすれ違いが起きてしまいましたが……』

「わ、忘れてない! 忘れてなんてないから!」

 勢いよく首を横に振りながら鵜飼さんは言う。

「だって、あたしの方こそ小鳥遊さんと仲良くなりたいって思っていたもの! 初めて見た時からすごく綺麗で笑顔がステキな子で……まるで少女マンガに出てくるお姫さまみたいって憧れていたの。だからあんなことになった時は、ずっとどうしようって悩んでいて……。でもだんだんと口数が減って一人でいることが多くなっちゃった小鳥遊さんを見ていたら、どう声をかけたらいいのかわからなくなっちゃって……」

『そうだったのですか……。あの時はてっきり鵜飼さんに嫌われてしまったと思って落ち込んでいたのですが、ずっと声をかけようとしてくれていたのですね』

「うん……。ごめんね、結局小鳥遊さんを無視するような形になっちゃって……」

『いえ、あの頃はお互いに気まずくなっていましたから。それに私自身も周りを避けるようになっていたので、話しかけにくくなるのも当然だと思います』

「けど、それでも声をかけるべきだったのよね。ちゃんと話をして、誤解だったとわかってもらえていたら、小鳥遊さんに辛い思いをさせることもなかったのに……。本当にごめんなさい……」

 涙目で謝る鵜飼さんに、小鳥遊さんは小さく笑みを浮かべながらゆっくりかぶりを振った。

『辛い思いをさせたのは私も同じですから。だから謝らないでください。それに羽賀くんも言っていましたが、今はこれからのことを考えませんか?』

 これからのこと? と目尻に溜まった涙を指で拭いながら訊き返す鵜飼さんに、小鳥遊さんはこくりと頷く。

『先ほども書きましたが、私は鵜飼さんと仲良しになりたいです。なので、これからは過去ではなく未来のことを考えましょう。いつか昔の辛かったことが「あんなこともあったよね」と思い出のひとつとして語れるように』

「思い出のひとつとして……」

『はい。鵜飼さんはどうですか?』

 小鳥遊さんに問われ、鵜飼さんは思い悩むように眉間を寄せながら「あたしも、できるならそうしたいけど……」と弱々しい声で呟く。

「でも、本当にそんなことができるのかな……。あたしには全然想像できない……」

『それは……私もはっきりできるとは断言できませんが……』

 あちゃー。鵜飼さんのペシミズムめいた発言に影響されてしまったのか、さっきまで前向きに話を進めていた小鳥遊さんまでもがすっかり弱気な感じに……。

 あの控えめ小鳥遊さんがあそこまで自己主張してくれたのに、ここでその流れを止めるのはよろしくない。これじゃあ、また重苦しい雰囲気に逆戻りになってしまう。

 ここはぼくが軌道修正してあげないと。そのためにぼくも相席しているようなものだから。

「思い出話にできるかどうかは、小鳥遊さんと鵜飼さん次第じゃないかな」

 そう悲観的になりつつある二人に言葉を投げかけると、小鳥遊さんと鵜飼さんが揃ってぼくの顔を見た。

「確かにそんな簡単なことじゃないと思うし、時間もかかるかもしれないけれどさ。仲良くなりたいっていう気持ちさえあれば、必ずいつかは笑い合える日が来るよ。だからまずは、その一歩をここで踏んでみるのもありなんじゃないかな」

「……一歩って?」

「そうだね。たとえば、握手とか」

 鵜飼さんの質問に端的に答える。すると小鳥遊さんは賛同とばかりに大きく頷いて、おもむろにスマホをテーブルの上に置いた。

 それからぼくの言葉を実践するように若干躊躇いがちながらも片手を差し出した小鳥遊さんに、鵜飼さんは戸惑うようにその手をじっと見つめた。

 少しの間そうやって見つめたあと、鵜飼さんも怖々とした挙動で手をゆっくり伸ばしていく。

 そうして、あと数センチで互いの手が触れそうになった時──

「……ごめん」

 と、寸前になって鵜飼さんが唐突に手を引っ込めてしまった。

「やっぱり無理……。小鳥遊さんはあたしを許してくれるみたいだけど、あたしはそんな簡単に割り切れない。だってあたし、握手だけじゃ済まないようなひどいことをしちゃったもん。それこそ人生まで歪めるようなことをしちゃったのに、何事もなかったように仲良くなんてできないわ……」

『では、どうすれば鵜飼さんの罪悪感は消えてくれるのでしょうか?』

 いったん差し出した手を引っ込めて、スマホで訊ねる小鳥遊さん。

 そんな小鳥遊さんに、鵜飼さんはしばらく思案するように目線を床に落としたあと、やがて決心したように正面を見据えながら言った。



「あたしを一度引っぱたいて」



 鵜飼さんの返答に、小鳥遊さんは気圧されたように息を呑む。

 ぼくも驚きのあまり、思わず口をポカンと開けながら横にいる鵜飼さんを凝視してしまった。

「ちゃんとけじめを付けないと、あたしの気が済まない。だから一度本気で引っぱたいてほしい。それなら、小鳥遊さんと心から笑って話せるような気がするの……」

 想定外の事態に面食らうぼくと小鳥遊さんをよそに、鵜飼さんは真剣な面差しで言の葉を紡ぐ。

 いや、けじめって。そんな任侠の世界じゃあるまいし、そこまでしなくてもいいような……。

 と一瞬説得しそうになったけど、鵜飼さんの迫真な物言いに言葉が出なくなってしまった。

 それは小鳥遊さんも同様で、すごく困惑したように視線を右往左往させていた。

 引っぱたくなんて論外だけれど、かと言ってどうしたらいいのかわからずに困惑しているのだろう。小鳥遊さん、どう見ても暴力とは無縁の世界で生きてそうだし。

 それにしても、まさか鵜飼さんがこんなに思い詰めていたなんて。これは一筋縄ではいかなそうというか、生半可な方法では和解に同じてくれなさそうだ。

 それこそ鵜飼さんの望み通り、手心なしで引っぱたくでもしない限りは。

 こうなってくると、ここはもう「あれ」に頼るしかない。

 という意味を込めて小鳥遊さんに無言で目線を送ると、向こうも察してくれたのか、こくりと重々に頷きを返した。

『鵜飼さん、少しよろしいですか?』

 意味深に視線を交錯させていたのが不思議に映ったのか、鵜飼さんは一瞬反応が遅れたようにきょとんとしたあと、すぐに姿勢を正して「え、なに?」と小鳥遊さんに訊き返した。

『さすがに引っぱたくのは気が引けるので、代案を出してもいいでしょうか?』

「代案……?」

『はい。もちろん拒否してくれてもいいのですが』

「その代案っていうのが何なのかはわからないけど……」

 と眉をひそめながらも、鵜飼さんは続ける。

「それが引っぱたくのと同じくらいに、あたしにとって罰になるのなら、そっちでもいい……」

『わかりました』

 そう神妙に頷いたあと、小鳥遊さんは不意に椅子から立ち上がって、

『では、少しだけ待ってもらってもいいですか?』

 とスマホで文章を綴ったあと、キッチンの方へと歩みを進めた。

 そんな小鳥遊さんの後ろ姿を、ぼくと鵜飼さんは黙って見届ける。

 おそらく鵜飼さんは、直に訪れる罰に恐怖心を抱きながら。

 そしてぼくは、切り札を出そうとしている小鳥遊さんの背中に、心の中で「頑張れ」とエールを送りながら。



 切り札。

 それは文字通り、二人の仲を修復することができるかどうかを左右する最後の手。

 言わば、最終手段。

 ちなみにその最終手段に関して、ぼくはなにも知らされていない。

 唯一わかっているのは、小鳥遊さんがここで鵜飼さんにとある品を振る舞おうとしているということだけだ。



 というのも、以前ぼくが口にした言葉がきっかけで思い付いたらしいのだけど、一体どこの部分に光明を得たのかは未だにわからない。

 ただ小鳥遊さんいわく、これなら鵜飼さんとのわだかまりも解消できるかもしれないと数日前にスマホで語っていたくらいなので、なにかしら問題解決に繋がる糸口を掴むことができたのだろう。

 まあそんなものがあるのなら、まどろっこしい真似なんてしないで最初から出した方がいいのではないかという気もしなくもないけれど、小鳥遊さんとしてはできるだけ話し合いだけで済ませたかったらしい。

 なんでも、切り札を使ってしまうと少なからず鵜飼さんに恐怖心を与えることになってしまうからとかなんとかで。

 なので、ぼくもその意志を尊重する形でなるべく静観に徹することにしたのである。

 もっとも、ちょっとだけ口出ししてしまった場面もあったけれど。

 ていうか、鵜飼さんをここまで連れて来る間にも色々と言ってしまったような気もするけれど、これもすべては小鳥遊さんのため──ひいては鵜飼さんと仲直りさせるため。

 だから、少しくらいの介入はご容赦願いたい。

 なんて、だれにしているのかわからない言い訳を心の中でしている間に、キッチンに行っていた小鳥遊さんが慎重に皿を持ちながら、ぼくたちのいるテーブルに戻ってきた。

 そうして、緊張した面持ちでそっと皿をテーブルの上に置いたあと、小鳥遊さんはスマホを手にしてこう文字を打った。

『鵜飼さん、これをどうぞ』

 瞬間。

 鵜飼さんの顔から、さあと血の気が引くのがわかった。

 それもそのはず。

 なせなら、その皿には──



「か、からあげ……っ!?」



 鵜飼さんの大嫌いなからあげが盛られていたのだから。

「こ、これが小鳥遊さんの言う代案……?」

『はい』

 頷く小鳥遊さん。その表情は至極真面目なもので、嘘偽りなんて一片も感じさせないものがあった。

「そっか……。あはは。た、確かにこれはあたしにとって最大の罰になるとも言えるわね……」

 強がるように空笑いを上げる鵜飼さんだけど、さっきから肩が震えている。

 鵜飼さんの話だと、からあげを見るのも匂いを嗅ぐのも嫌だと言っていたくらいだから、今の段階ですでにきついものがあるのだろう。

 それにしても、からあげ。

 からあげかー。

 いや、そりゃぼくも「鵜飼さんにからあげを好きになってもらうのはどう?」って前に進言しちゃったけれど、まさか本当にからあげが出てくるとは。

 しかもそれが、こんな分水嶺とも言える場面で出されるとは思ってもみなかった。

 むろん、小鳥遊さんも切り札として出したくらいだから、なにか考えあってのことなのだろうけど、一見はどこにでもあるようなからあげにしか見えない。

 具体的に言うと少し衣が荒目に見えるけれど、どちらにせよ見た目といい香りといい、ぼくには普通のからあげのようにしか思えなかった。

 もしかして、味の方になにかしらの細工が施してあるのかも?

 まあどっちにしても、鵜飼さんに一口だけでも食べてもらわないと話にならない。

 そういったわけで、鵜飼さんの反応を静かに見守る。

 当の鵜飼さんは依然として青褪めた顔で目の前にある皿を見つめながらも、からあげに刺さっている爪楊枝におそるおそる手を伸ばそうとしていた。

『あの、鵜飼さん。こうしてからあげを出しておきながら今さらこんなことを申し上げるのもどうかと思いますが、無理して食べる必要はないですよ……?』

「……ううん、食べる」

 心配そうな顔でスマホを向ける小鳥遊さんに、鵜飼さんは小さく首を振った。

「これで小鳥遊さんの気が済むのなら、からあげくらいどうってことないわ……!」

 いや、見るからにどうってことありそうな顔色をしているのですが……。

 本当に食べさせて大丈夫なのかなという意味も含めて小鳥遊さんの方を見てみると、あっちも不安そうに胸の前で両手を組んでいた。

 どうやら、小鳥遊さんも絶対の自信があるというわけではなかったらしい。

 あまり考えたくはないけれど、これは失敗も視野に入れた方がいいのかも……。

 などと小鳥遊さんと一緒に固唾を呑む中、鵜飼さんが恐々とした表情でからあげに刺さった爪楊枝へ、ゆっくり時間をかけるように手を伸ばした。

 そうしておっかなびっくりといった感じにからあげを持ち上げたあと、いったん口の前で止めた。

 おそらく、鵜飼さんの中でめちゃくちゃ葛藤しているのだろう。

 本当にこのまま口に運んでいいのかどうか、と。

 鵜飼さんにしてみれば過去のトラウマとも言うべきからあげを前にするだけでなく、今からそれを食べなければならないのだから、その恐怖たるや相当なものに違いない。

 それでも鵜飼さんはからあげを皿に戻すような真似はせず、あたかも仇敵と対峙するように睨み付けていた。

 相変わらず、顔面を蒼白にさせながら。

 そうして、時間にして数分程度経った頃だろうか。

 やがて鵜飼さんは一大決心したかのように力強く瞼を閉じたあと、ぱくっと思いきりよくからあげを丸ごと口の中に入れた。

 本当に食べた! と瞠目するぼくと小鳥遊さんをよそに、鵜飼さんは恐怖に耐えるように自身の肩を抱きながらもごもごと口内を動かす。

 それから何度か咀嚼したあと、鵜飼さんは不意に瞼を開けて──



「あれ……? 思っていたより油っこくない……?」



 と。

 心底驚いたように両目を見開きながら、鵜飼さんが感想をこぼした。

「というより、普通に美味しい……? え、単なる気のせい……?」

 本人も自分で言っていて信じられなかったのか、もう一度確認するようにからあげを再度手にして、また口に運ぶ。

「ううん! やっぱり美味しい! しかも全然油っこくないどころか、むしろさっぱりしていて食べやすい! うそ、どういうことなの……?」

 言いながら説明を求めるようにこっちへ視線を向ける鵜飼さんに、ぼくは慌ててかぶりを振る。本当になにも知らないのだ。

 だとすると、やはりこのからあげになにかしら秘密があるに違いない。

 それも、あのからあげ嫌いの鵜飼さんに美味しいと言わしめるだけのなにかが。

 これは、是が非でも自分の口で確認しなくては!

「小鳥遊さん、これ、ぼくも食べてもいいかな?」

 というぼくの言葉に、小鳥遊さんは数秒遅れでハッとした顔になって、

『はい。羽賀くんもぜひ召されてみてください』

 ……ぼく、死んじゃうの?

 どうやら小鳥遊さん、うっかり「召し上がってください」を「召されてください」と誤字ってしまうほどに動揺してしまっているらしい。

 まあでも、それだけ鵜飼さんに美味しいって言ってもらえて嬉しかったということなのだろうけど。

 ふむ。俄然興味が出てきたぞ。

 というわけで、さっそくからあげに刺さっている爪楊枝を指でつまんで、目の前まで運ぶ。

 おっ。こうして至近で嗅いでみるとほのかに磯のような香りがする。ひょっとして下味に海産物が使われているのかも?

 などと予想を立てつつ、肝心要の味を確かめるべく、からあげを半分ほど齧った。



 するとどうだろう。咀嚼した途端に海の慣れ親しんだ味が──日本人ならだれもが口にしたことがある風味が一気に広がった。



 この若干塩気のあるさっぱりした味わい。

 間違いない。このからあげにはアレが入っている!

「小鳥遊さん、これって下味に青のりが使わなかった?」

『正解です』と書かれたスマホを向けながら満面の笑みで頷く小鳥遊さん。

「やっぱり。食べた瞬間に海苔っぽい味がしたから、すぐにそうなんじゃないかなって思ったよ。でもこれ、青のりだけじゃないような気が……?」

 言いながら残り半分のからあげを口にしてみるも、他の調味料に関しては皆目見当がつかない。でもたぶん、醤油は入っていそうな気がする。

 といったようなことを、からあげを食べながら小鳥遊さんに訊ねてみると、

『はい。羽賀くんの言う通り、醤油も少し入っています。その他にもウスターソースやカレー粉なども下味に使いました』

「あ、なるほど。だからよくあるからあげと違って食べやすかったのかな。青のりだけだと味気ないけれど、ソースやカレー粉も入っているからすごく味わい深くなっているよね。それでいて全然油っこくないから、いくらでも胃もたれせずに食べられそう。なんというか、どことなくローソンの『からあげクン』に食感が似ている感じかも……?」

『さすが羽賀くん。なかなか鋭い指摘ですね』

 え? ぼく、そんな褒められるようなことなんて言ったっけ?

『実はこのからあげ、ローソンの「からあげクン」と同じ鶏の胸肉を使っているんです』

「胸肉って、あの鶏肉の中で一番安いやつ? え、あれって胸肉だったの?」

『はい。ローソンで売られている「からあげクン」もすべて胸肉です。パッケージにもちゃんと国産若鶏百%と明記されていますよ』

「し、知らなかった……」

 だからあんな安価で購入できたのか。

 しかもそれが色々な種類で提供されているのだから、驚く他ない。



「ちょ、ちょっと待って!」



 と。

 それまで横で聞いているだけだった鵜飼さんが、突然挙手しながら声を上げた。

「あたしもすごく小さい頃に何度か『からあげクン』を食べたことはあるけど、でも小鳥遊さんが作ったからあげとは全然違う……だってこっちの方が油っこくなくてあっさりとした食感だもの。胸肉がヘルシーで脂身も少ないのも知っているけれど、だからってこんなに変わるものなの?」

『その秘密は焼き加減にあります』

 ん? 焼き加減?

 あれ? なにか言い方がおかしいような……?

 と不思議に思っていたのはぼくだけじゃなかったようで、鵜飼さんも「焼き加減?」と怪訝に首を傾げていた。

「え、それってどういうこと……? からあげを調理する時って、普通は『焼く』じゃなくて『揚げる』のはずよね?」

『そうですね。一般的には鵜飼さんの認識で合っていると思います』

「じゃあ、焼くっていうのは……?」

 再度訊ねる鵜飼さんに、小鳥遊さんは至って真摯な瞳を向けながらスマホでこう答えた。



『実はそのからあげ、揚げていないんです』



 ポカン、と。

 鵜飼さんが口をあんぐりと開けて放心してしまった。

 ぼくも同じく、ぽかんと口を開けたまま、何度もスマホの文章を心中で読み上げていた。

 え? からあげなのに揚げていない?

 一体全体どういうこっちゃ???

「えっと、小鳥遊さん。少しだけぼくの疑問に答えてほしいんだけど……」

 まだ茫然自失としている鵜飼さんに代わり、今度はぼくが質問を投じる。

「揚げていないってどういう意味? からあげって揚げずに作れるものなの?」

『はい。からあげというと高温の油で揚げるものというイメージがありますが、決してそういうわけではありません。油で揚げる以外にも方法があるんです』

ということは、このからあげも油で揚げる以外で作ったということなのか……。

「じゃあどうやって作ったの? 焼き加減がどうとか言っていたけど、もしかしてフライパンとか?」

『それも調理法のひとつではありますが、このからあげに関してはオーブンのみで作りました』

「オーブンで? え、からあげってオーブンでも作れちゃうの? ピザやパンを焼くみたいに?」

『さすがにピザやパンとまったく同じ条件で作れるわけではありませんが』と苦笑しつつ、小鳥遊さんは文章を紡ぐ。

『鶏肉から滲み出る油分によって、オーブンで加熱するだけでも十分にカリッとした美味しいからあげを作ることができるので、主婦の方にも好評だったりしますよ。実際クックパッドなどにもいくつか調理法が掲載されているくらいなので』

 へー。意外と世の中の知られている調理法だったのかー。

「待って! それでもやっぱりおかしいわ!」

 と、いつの間に復帰していたのか、またしても鵜飼さんが唐突に挙手した。

「油で揚げていないのは今の説明でよくわかったけれど、それでもからあげには変わりないわけでしょ? いくらオーブンで焼いただけって言っても、こんなにあっさり仕上がるなんて……」

『もちろん、それだけでは鵜飼さんに食べてもらえるという確証はなかったので、他にも色々と工夫を凝らしました。そのひとつが青のりです』

 ついさっき、ぼくが予想して当てたやつか。

『そして中でもこだわったのは衣の方です』

 衣。

 衣と言えば小麦粉か、もしくは前に小鳥遊さんと一緒に食べた竜田揚げで使われる片栗粉っていうイメージだけど、この感じだとどちらでもなさそうだ。

 じゃあ、一体なにを使ったのだろう?

『今回、このからあげの衣として使ったのは』

 と。

 返答を待つぼくと鵜飼さんを焦らすかのように、小鳥遊さんはいったんそこでスマホをテーブルに伏せたあと、不意にキッチンの方へ行ってしまった。

 それから、なにやらボトルのような物を持ってキッチンから戻ってくる小鳥遊さん。

 そしてそのボトルをテーブルの上に置いたあと、小鳥遊さんは再びスマホを手にしてこう文字を打った。

『こちらのパン粉です』

 確かに、そこには紛れもなく「パン粉」とパッケージに記載されていた。

 でも、書いてあったのはそれだけじゃなくて。

「小麦粉、卵いらず……?」

 パッケージに書かれている文を読み上げる鵜飼さんに、小鳥遊さんはこくりと頷く。

『これを使うことによって、小麦粉や卵を使う手間を省けるだけでなく、他のパン粉と違って量を抑えることができるので、オーブンでも簡単にからあげができるんです。しかも卵を使わずに済むので、経済的にも健康面でもとてもオススメの商品ですよ』

 なるほど。今まで食べてきたからあげよりと違ってサクサク感があったのは、これのおかげだったってわけか。

 そういえばコロッケなんかもサクサクしているけれど、あれも確か衣として使われているのはパン粉だったっけ。

 油が苦手な鵜飼さんにしてみれば揚げ物という時点でアウトなのだろうけれど、油が滲み出るような食べ物よりもこういったサクサクした食感の方が合っている気もする。

 というぼくの考えはあながち間違えではなかったようで、小鳥遊さんは次のように説明してくれた。

『からあげ嫌いな人にからあげを食べてもらうにはどうしたらいいかと考えた時、真っ先に解決しないといけないのは油分と食感でした。油分に関しては揚げずにオーブンで焼くという方法をすぐ思い付いたのですが、食感の方はなかなか良い案が出なくて……。そこで色々と試行錯誤して生まれたのが、このスナック感覚で食べられるからあげでした』

 スナック感覚? とオウム返しに呟く鵜飼さんに『はい』と小鳥遊さんは首肯して、

『鵜飼さん、以前私とばったり会った際、お菓子を食べていましたよね? それもベビースターラーメンの板状タイプのものを』

「た、確かに食べてはいたけれど、でもなんでそこまで覚えているの? 別に珍しい物でもなんでもないのに……」

『ベビースターラーメンの製造元であるおやつカンパニーは、私の出身地である三重に本社があるので。それでなんとなく目に入ってしまいまして』

 え、ベビースターラーメンって三重県で作っていたの? 東京とかじゃなくて?

 今まで普通に関東のお菓子だと思い込んでいたけれど、そうじゃなかったのか。ちょっとビックリ。

『それはともかく、ベビースターラーメンも油で揚げているお菓子にも関わらず、あの時の鵜飼さんはなんの抵抗もなく食されていました。ということはつまり、あれくらいなら油っこいのが苦手な鵜飼さんでも平気なのでは思うようになりまして。案外ポテトチップスなども大丈夫だったりするのでは?』

「う、うん。けど、言われてもみればなんでああいうお菓子だけは普通に食べられるのかしら? からあげとか天ぷらみたいな揚げ物はダメになったはずなのに……」

『おそらく、油が滲み出てくるかどうかの違いではないでしょうか? ポテトチップスを始めとするスナック菓子は油が乾いた状態で出荷されているので、それで口にしても油分が気にならなかったのかもしれません』

「そっか。それであたし、ベビースターラーメンとかポテトチップスだったら平気だったんだ……」

 と得心がいったように頷きを繰り返す鵜飼さん。

 どうやら鵜飼さん自身、今まであまり気にせずスナック菓子を口にしていたらしい。

『ですので、油は使わずに青のりを混ぜたパン粉をまぶすことによって口当たりをさっぱりさせて、なるべくスナック感覚で食べられるように仕上げました。これなら鵜飼さんでも美味しく食べてもらえるかもしれないと思いまして……』

 『本当は話し合いだけで済めばよかったのですが』と申しわけなさそうに付け加える小鳥遊さんに、鵜飼さんは目を白黒させた。

「あたし、今までどんな物なら食べられるかなんて考えたこともなかった……。ただ油っこい食べ物を見ただけで拒絶しちゃって……」

『羽賀くんからお話は伺いました。お友達の誕生日パーティーの時にからあげを吐き戻してしまったのですよね? そんなショッキングなことがあったのですから、生理的に油っこい物が苦手になっても仕方がないと思います』

「でもあたし、やっぱり間違っていたわ……。だってこのからあげ、本当に美味しかったもの。今まで油っこい物っていうだけで頭ごなしに否定していた自分がすごく恥ずかしい……」

 そう言って、鵜飼さんは溜め息を吐きながら肩を落とした。

「ほんと、自分が情けない……。なんでもっと早く自分で克服しようって考えなかったのかしら……。ちょっとでも油っこい物が平気になっていたら、今ごろ小鳥遊さんとも仲良くなれていたかもしれないのに……」

『嫌いな食べ物を克服するのって、とても勇気のいることですから……。だからそこまで自分を責める必要はないと思います』

「小鳥遊さん……」

『それに、こうして少しだけでも前進することができたのですから、素直に喜んでもいいのではないでしょうか? 少なくとも私は鵜飼さんにからあげを食べてもらえて嬉しく思っていますよ。からあげがきっかけで鵜飼さんと気まずい関係になってしまいましたが、そのからあげのおかげでこうしてまた話せるようになったわけですし、今となっては縁のようなものさえ感じます。もしも私がからあげの話をせず、鵜飼さんとただのクラスメートという関係で終わっていたら、きっと小学校を卒業したと同時に疎遠になっていたでしょうから。それに……』

 それに? と先を促す鵜飼さんに、小鳥遊さんは若干恥ずかしそうに頬を染めながら、ゆっくり時間をかけながら文章を紡いだ。

『それに、お友達には自分の好物をちょっとでも好きになってもらいたいですから。そのためなら、努力は惜しみません』

「と、友達? あたしが……?」

『すみません! さすがに友達を名乗るのは早すぎたでしょうか? まだ友達になりましょうとも言っていないのに……』

 と慌てて訂正する小鳥遊さんに、鵜飼さんは「どうして……」と疑問を発した。

「どうしてあたしのためにそこまで……?」

 まったく、鵜飼さんも鈍いなあ。

 小鳥遊さんが鵜飼さんのためにここまでする理由なんて、そんなの──



『それは、鵜飼さんと仲良しになりたいからです』



 鵜飼さんと友達になりたいという、ただそれだけのことに決まっているのに。

「あたしと仲良し……。あの時の言葉、本当に本当だったんだ……」

 唖然とした面持ちで鵜飼さんが呟きを漏らす。

 仲良くなりたいという意思を示したのはこれで二度目だけど、この反応から察するに、ついさっきまで小鳥遊さんの真意を測りかねていたようだ。小鳥遊さんがそんなくだらない嘘を吐くわけがないのにね。

『やっぱり、ダメなのでしょうか……』

 と。

 なかなか色よい返事をしない鵜飼さんを見てすっかり弱気になってしまったのか、小鳥遊さんはしゅんと顔を俯かせながら、細々とした動作でスマホをいじった。

『そうですよね。いくらからあげを克服してもらうためとはいえ、こんな騙し討ちのような真似をしてしまったのですから。からあげがきっかけで歪になってしまった関係を、そのからあげで修復しようなんて都合のいい話だったかもしれません……』

「待って待って待って! あたし、まだダメなんて言ってないから!」

『まだということは、これから言われるのでしょうか……?』

「い、言わないから! だからもうちょっとだけあたしの話も聞いて! ねっ?」

 思いきりネガティブモードに入ってしまっている小鳥遊さんに、あたふたしながら宥める鵜飼さん。さっきとは完全に立場が逆になっていた。

 なんていうか、一見は似ていない両者ではあるけれど、悲観的になりやすいという意味では案外似た者同士なのかもしれないなあ。

「こほん。えっと、小鳥遊さんがあたしと仲良くなりたいって言ってくれたこと、素直に嬉しいと思っているわ。ちょっと前にも言ったけれど、あたしも昔からずっと小鳥遊さんと仲良くなりたいって思っていたから……」

 訥々と語る鵜飼さんに、小鳥遊さんは伏せていた顔を上げて静かに耳を傾ける。

 ぼくも余計な口は挟まず、二人の成行きを黙って見守る。

「でもあたし、小鳥遊さんにとてもひどいことを言っちゃったから……。だからなんの罰も受けないまま小鳥遊さんと何事もなかったみたいに接するなんて、やっぱり難しいと思う。罪悪感を抱えたままだと、たぶん小鳥遊さんと心から笑い合うことなんてできないと思うから……」

 鵜飼さんの言葉を聞いて、小鳥遊さんがとっさにスマホの画面をタップする。きっと罰を受ける必要なんてないとか、そんなことを書こうとしたのだろう。

 それは鵜飼さんも予想していたことなのか、無言でそっと片手を出して小鳥遊さんの返事を制した。

 それから気持ちを落ち着かせるように深呼吸を繰り返したあと、鵜飼さんは文字を書くのをやめてスマホを胸の中で抱きしめる小鳥遊さんの顔をまっすぐ見据えながら語を継いだ。

「けど、それは小鳥遊さんも同じなのよね。もしもあたしがここで本当に制裁を受けたりしたら、今度は小鳥遊さんが気に病んじゃう。これじゃあ堂々巡りになっちゃうわ。いつまで経っても辛い過去から解放されなくなっちゃう。

 それじゃあダメなのよね……本当に小鳥遊さんと仲良くなりたいのなら、今の自分を変えなくちゃ。今日小鳥遊さんが作ってくれたからあげを食べて、そう思えるようになったわ。あたしもこのからあげみたいに、いい加減さっぱりしないとね」

 そこまで言って。

 一度は握手を拒んだその手を、再度小鳥遊さんに向けてゆっくり伸ばした。



「だから、すぐに気兼ねなく会話できるようにはなれないかもしれないけれど、あ、あたしと友達になってくれる……?」



 不安と緊張からか、ぷるぷると手を震わせながらぎゅっと瞼を閉じる鵜飼さん。

 そんな鵜飼さんに、始めこそなにが起きたかわからないとばかりに呆けていた小鳥遊さんだったけれど、すぐにハッとした表情になって差し出された手を慌てて握り返した。

 そして──



「は、はい。こ、こちらこそよろしくお願いいたします……」



 と。

 瞳を潤ませながら、小鳥遊さんは心底嬉しそうに顔をほころばせた。



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