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魔法伯の事情

ニール・レヴナスは片田舎の男爵家の三男として産まれた。

決して裕福とは言えない懐事情だったが、家族仲は良く、両親は領民からも慕われる善政を行っていた。二人いる兄と一人いる姉は明るく快活な性格で、子供の頃から視察や慈善事業に楽しそうに参加していた。

ニールはそんな家族に囲まれつつも、物心ついた頃から大人しく内気な少年だった。特に人見知りが酷く、慈善事業などで顔を出してもろくに誰とも喋れず終わる。

そんな彼を家族も使用人も誰も責めなかったし、個性だと受け入れてくれていたが、さすがに将来を考えると呑気に構えてもいられない。



ニールは対人関係に難があるだけで、決して出来の悪い息子では無かった。

特に魔法に関しては非常に才能があったと言える。



この世界における魔法は、非常に重要な要素だ。魔法は誰にでも使えるわけではなく、精霊に愛されたはるか昔の人々が、彼らの加護を受けて得た力だと言われている。

精霊は主に火、風、水、土、光、闇に宿り、どの精霊に加護を受けるかで使える魔法も変わってくる。

そして加護を受けた者は瞳の色が変わる。巷ではそのような人物を、「色付き」と呼んだ。

そして古代から自然と、色付きの人々が力を使って人を導く立場になった。そのため現在もその子孫である色付きは、貴族に多い。

ちなみに魔法の使えない人々は、黒や茶の瞳をしている。





ニールは精霊に愛されていた。魔法を使う際に必要となる、精霊への声掛け、俗に言う詠唱は、精霊との関係性が近い者ほど短く済む。ニールはそれがたった一言、むしろ必要もなかった。


それほどの逸材なのに、性格が内気すぎて、活躍できない。



両親は悩んだが、とりあえずニールの才能は伸ばすべきだと考え、家計を捻り出してニールを王立魔法学園に入学させた。

この学園はその名の通り、主に魔法の才能を伸ばす学びの場であり、卒業生は魔法士となって、騎士の魔法使い版である魔法師団や王立魔法研究所などの華々しい職に就く。



ニールは両親の期待に応えたいと頑張った。才能はあったから、特待生になれたりもした。でも、人前に出ると途端に実力を発揮できなくなり、実技や現場研修の多い上級生となると成績も陰りを見せた。


友達らしい友達もできず、一人静かに過ごしていた彼は、ある日、特待生による魔獣討伐という実地研修に駆り出される。殺生が嫌いなニールはなるべく討伐系を避けていたが、まだギリギリ特待生だったため、強制的に参加させられたのだ。


その研修にはなんとこの国の王太子が参加していた。彼は魔法に非常に興味があり、自身も優秀な魔法士だった。将来の魔法士の卵に対する視察も兼ねていたらしい。


いつも以上の緊張感に吐き気を催したニールは、とにかく目立たないようにと息を殺していた。が、人生とは不思議なもので、彼らが討伐に向かっていた森に住むはずのない、危険な魔獣…ドラゴンと出会ってしまった。



魔法士の卵達も、護衛も、皆蹴散らして、ドラゴンは真っ先に王太子を食おうとした。ドラゴンは魔力が好物なので、あの場で1番魔力量の多い王太子を狙ったのは、当然のことだった。




ニールは今でも、なぜあの時自分が咄嗟に行動できたのか、分からない。分からないが、さすがに王太子を目の前で食べられるわけにはいかないと思った記憶はある。


ニールが得意とする魔法は風魔法、そして結界魔法だった。さらに、公にはしていなかったが、彼は火と水魔法も扱えた。

結界を限界の広さまで張り、王太子をはじめとする周囲の人々を護る。と同時に、火を纏った乱気流を起こしてドラゴンの機動を削ぐ。

ドラゴンはその巨体の割に羽が小さく繊細で、羽を封じてしまえば機動力はだいぶ削られるのだ。


その上でかまいたちのような風を送り、ドラゴンが嫌がる羽や顔を攻撃した。また、結界に水を纏わせ、視界を奪ったりもした。

あとはどうやってドラゴンを追い払ったのか。さすがにとどめまではさしていないはずだが、気付けばドラゴンはいなくなっていた。






大変だったのはむしろその後だ。

一般的に、複数の魔法を同時に、しかも正確にコントロールして使うのは非常に難しく、王国でも一握りの魔法士しか出来ないと言われている。

さらに、普通、一人につき魔法属性は一つと言われているのだ。ニールのように三属性扱えるのは、異常とも言える。

ニールはそれらをあっさりと披露した上、王太子殿下を護るという偉業を達成してしまったのだ。



ニールは王太子に大層気に入られ、学園ではニールが実はすごい人だったと噂になった。噂を聞きつけた他の学生が、王太子のお気に入りとなったニールにすり寄ってくる。そして皆一様に、「え、こいつが?」という顔をするのだ。

ニールにとってその後卒業するまでの1年はもはや苦行だった。




卒業後魔法士になったニールは、半ば強制的に魔法師団に所属となった。

そこでも任務を必死にこなすうちに、あれよあれよという間にニールは有名になり、ついには師団長をやらないかという話まで出る。

ニールは焦った。確かに彼はこれまで支えてくれた家族のためにも立派になりたいと思っていたが、さすがに師団長は無理だ。人の上に立つ自分を想像しただけで、気を失いそうなのに。


ニールの実力を認める者も、さすがにニールの性格上師団長は無理だと分かっていたため、その話は立ち消えた。

それどころか、ニールは富や名声に全く興味がなく、むしろ過分な評価を与えられて、隙を見て国外にでも逃げてしまいそうな勢いだった。優秀な魔法士は国の財産だ。国外に逃げられることだけは避けたい。

そう考えた国は、ニールを囲い込むため異例の立場を与えた。



それが、「賢人」である。





賢人とは、様々な分野で国にとって最重要だと認められたエキスパートに与えられる称号だ。

賢人は平民とも貴族とも別枠の存在として考えられ、王族の相談役を務めたり、それぞれの分野で最も権威のある者として扱われる。


現在、国にいる賢人は3人。

一人がニール、そして最強の騎士と言われ現在は後進育成に励む老騎士、最後に医学の発展を支えてきた医学者。


国はさらに、ニールに魔法伯という爵位を与えると、王都にほど近いカンデルに屋敷を与えた。

カンデルは公爵領で、公爵自身は主に王都に住んでいる。カンデル自体は豊かな港町だが、海に面しているため災害や海から来る魔獣被害も多い。公爵は手を焼いていた。

つまりニールにこの町を護らせて、ついでに公爵領で囲ってしまおうというわけである。

こうしてニールは実家から気心知れた数人の使用人を連れ、一人と数人が住むには全く大きすぎる屋敷に移り住んだのである。







「…というわけなのでございます」

「はぁ…」


アメリアは外からしか見たことのなかった町外れの大きな屋敷に連れてこられ、応接室と思われる場所でお茶をいただきながら、この屋敷の主人、ニールの半生をテオから聞かされていた。

アメリア自身はまだ自分の名前しか言っていない。テオは見た目とは裏腹に相当な話好きだ。ちなみに彼は執事とのことだった。


「この屋敷に移り住んだのが2年前。旦那様と共にこちらへ来た使用人は、旦那様を幼少期から見守ってきた者たちです。つまり、皆高齢なのです」


確かに、テオも、お茶を淹れてくれたメイドさんも、孫がいそうな年齢に見えた。


「この無駄に広い屋敷を管理するだけでも大変なのです。旦那様は基本的に身の回りのことはご自身でなさいますが、研究や任務に没頭すると寝食を忘れがちでして、生活力がありません。それに、仮にも賢人で魔法伯です。身支度ですとか身の回りの世話をしてくれる方が一人は欲しいと、使用人一同で話し合ったのです。」

「な、なるほど」


ニールは研究者気質らしい。

それに、貴族が夜会で着る正装なんかは無駄に装飾が多いから、一人で支度するのは大変だろう。


「高齢の我々ですと最近の流行なんかを把握するのも一苦労ですし…若い方が欲しいと、侍女または侍従を募集してみたのですが、これがまた決まらない」

「はあ…」

「旦那様はこう見えて賢人ですから、侍女に応募してくる女性の大半が玉の輿狙いでして、旦那様が怯えてしまって駄目でした。男性の応募者もいましたが、何というか、実際の旦那様を目にして少々…見下す態度をされる方も多く、こちらも旦那様が怯えて駄目で」

「なるほど。…あの、募集は貴族が対象ですか?私そもそも平民なのですが…」

「そこは問いません。旦那様に怯えられず、真面目に働いてくれれば身分は関係ないのです。旦那様に怯えられなければ」


2回言ったな。

テオはため息をついている。

段々と愚痴っぽくなってきたのは、気の所為ではないだろう。



「ですが!もう無理かと諦めかけたところで…なんと!旦那様自らがスカウトするなど!もう私は感無量です…!」


テオは目を潤ませながら、アメリアの両手をガシッと掴んだ。


「アメリアさん。どうか侍女として働いて下さい。聞けば、アメリアさんもお仕事を探していたとか。アメリアさんにとっても、悪い話ではないはずです!」

「え、えっと」



確かにアメリアにとっては幸運な話だ。仕事を探さなければと思っていた矢先に新しい仕事が舞い込んできたのだから。

ただ、アメリアには確認しなければならないことがいくつかあった。



「あの、そのお仕事は住み込みですか?」

「基本的にはそうですね。通いでもできなくはないですが、この屋敷は町外れにありますし、場合によっては夜までの勤務になりますので、こちらに住むことをおすすめします。…まさか、すでにご結婚されていて!?」

「あ、いえ、そうではなく」


アメリアには大事な家族がいるのだ。


「私、弟と二人暮らしなんです。まだ11歳で、誰かの庇護が必要な年齢なので、弟と離れ離れにはなれません」

「なんと!全く問題になりませんね。弟さんと共にこちらで暮せばいい。部屋なら売るほどありますので」


売るほどある部屋ってのも恐ろしいが、アメリアはホッとした。

こんな立派な屋敷なら、今住んでいるあばら家よりもずっと弟にとっては良いだろう。


「それと、私、夜の仕事を掛け持ちしてまして…それは続けられますか?」

「よ、夜の仕事…!?」


久しぶりにニールが発言した。そう、実はこの人、ずっといた。テオが語る横で、うんうん頷きながら置物となっていたのだ。


「あ、いえ、違います。そういう意味じゃなくて、夜に港の酒場で給仕の仕事もしているんです」


港は船乗りで賑わっており、夜は彼らが酒盛りをするので、酒場が多い。

お給料が高いので、アメリアの第二の職場だった。


「ふむ、そうですねえ…時間が被りますし、何よりアメリアさんの体力が保たないかと。給仕の仕事はお辞めになっていただいたほうが良いですね」

「そうですか…」


それはかなり残念だ。

アメリアが悩んでいると、テオが何枚か書類を持ってくる。


「その分、お給料はアメリアさんのご希望になるべく添えるように致しますよ。そうですね…これくらいで、如何でしょうか?」

「…!?」


テオが見せてくれた書類には給料明細がついており、推定給料が記されていた。

アメリアはびっくりした。その金額は、アメリアが現在仕事を掛け持ちして稼いでいる金額の2倍はあったからだ。


これだけあれば、あと1年で弟を学校へ行かせられる!



アメリアは動揺を悟られないよう考えているふりをちょっとだけしたが、すぐに顔を上げ、ガシッとテオの手を握り返した。


「お世話になります」

「有難うございます!!」

「あ、ありがとう、ございます…」


雇い主のニールを放って、アメリアは執事のテオと握手を交わし、さっさと契約交渉へと移った。



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