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ディラン・アドニアスという男





王都からの報を聞き、俺は自室で腹を抱えて笑っていた。





ニールが任務を突如放棄し、ラムド氷山から王都に戻ってきたという。

ああ、おかしい。本当に単純で、愚かな男だ。








俺はニールという男が、とにかく嫌いだった。

たかだか地方の男爵家の末息子のくせに、たまたま殿下を助けたとかで重用され、身分と実力以上の甘い汁を吸っている。



奴と同期だったと言うだけで、優秀なはずの俺は実力を評価されず、脚光を浴びられない。



俺は名門アドニアス家に、次男として生まれた。

幼い頃から優秀だった俺は、家を継げない代わり、優秀な魔法士として次期国王である王太子殿下の側近となるはずだった。

そうなるべく育てられ、身分も実力も伴っていた。王太子殿下の目に留まるよう、少々無理はしたが、華々しく活躍もしていたはずだ。保守的な師団長に命令を無視するななどと邪魔をされたりもしたが、身分は俺の方が上だ。

きっと殿下も俺に目を向けてくれる。




そのはずなのに。



ぽっと出のニールなどという男に、その全てを奪われた。



これであの男が、俺を納得させられるようなカリスマ性のある人物であれば、多少溜飲は下がっただろう。だがあの男はいつもオドオドしていて、周囲に怯え、逃げてばかり。



あの姿を目にするたび、腸が煮えくり返るような気がした。




なぜ、あんな男が。



だから奴を見つけるたび、罵声を浴びせ、人前に出られなくなるよう、より恐怖を与えてやった。

それなのに奴は、何だかんだしぶとく生きている。



気に入らない。








ラムド氷山の調査は、殿下の肝いりだ。

王都の背後を護る天然の要塞。

非常に重要な場所ゆえ、殿下も慎重に計画を進めていた。


当然、俺もそこに加わるだろうと、信じて疑わなかった。





だが蓋を開けてみれば、またあの男だ。

殿下に直談判もしたのだ。ニールなどより、俺の方がずっと上手くやれると。



だが、返ってきたのは無慈悲な言葉だった。

「そもそもラムド氷山の調査も計画も、ずっとニールがやってきたんだよ。ディラン、君に今回お願いすることはない」



知らなかった。

そんなこと、聞いていない。



ならば始めから殿下は俺に声をかけるべきだったのだ。

あんな見ているだけで情けない気持ちになるような男を、なぜ殿下は重用するのだ。





あいつがいるから、いけないのだ。

皆、あいつに騙されている。








夜会でニールが恋人を伴っていたと聞いた時、あんな男にもしなだれかかる女がいるのかと吐き気がしたが、ふと、それを思い出して名案が浮かんだ。


その女は、ニールの弱みだ。




あの男は人間が苦手だから、親しい者などいない。そんな男の唯一の女だ。これ以上の弱みはないだろう。





ニールがラムド氷山に行っている間に、女を拉致する。

女が何者かに連れ去られたということがすぐにニールに伝わるよう、屋敷や使用人の前で堂々と誘拐するのだ。

きっと奴は大慌てで任務に失敗するか、いっそ放棄してしまうかもしれないな。



女はそのまま行方不明にしてしまえばいい。さすがに殺す気は無いが、他国や辺境に売り飛ばしてしまえば簡単には戻ってこれない。

奴は意気消沈して、きっと二度と表舞台になど立てないだろう。




いや、いっそ俺の女にしてしまうのもアリだ。ニールの目の前で、俺のものになった女を見せつける。確かその女はそれなりに美人だと、噂されていた。俺の隣に一時でも立たせる価値があるかもしれない。ああ、この方法も愉しそうだ。






俺はすぐにこの計画を実行した。

実行犯は港町でうろついていたごろつきだ。港町にはいわゆる海賊業や密売を生業にし、長期の航海の合間に時々立ち寄るような奴らがいる。そういう奴らは裏稼業にもってこいだ。基本海の上にいるから、逃走も簡単で犯罪行為に手を染めることに抵抗がない。こちらとしても使い捨てがきく、いいコマだ。



ごろつきは早速女をニールの屋敷から連れ去った。屋敷からニールへの使者が飛び出していったと聞いたから、数日後には奴に動きがあるだろうと予想していたが、なぜか奴は女を連れ去ったその日に王都へと引き返した。



さすがに話が伝わるには早すぎる。どうやってあの男は、女の危機を把握したのか。




まあ、いい。大事なことはニールが役目を放棄して女の元へ行くことだ。

すでに目的は達成された。さすがの殿下も、お役目を早々に放棄して勝手にいなくなる男を今後も重用はできまい。




さあ、あとは女を脅すか俺のものにするかして、ニールを再起不能にすればいい。






あぁ、愉快だ。こんなに愉快な気分になったのは久しぶりだ。


ワインを一気に呷ると、俺は上着を羽織って使用人を呼びつける。

馬車の手配だ。女の顔を見に行ってやろう。





俺は実に幸福な気分でほろ酔いの足を進め、馬車に乗り込んだ。





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