自称転生女神の助手が大型トラックで突っ込んで来た件
俺は道端に尻餅をついて、たった今鼻先をかすめて止まった大型トラックを見つめていた。
トラックの運転席から美しい少女が顔を出す。
「ごめんなさーい、外しちゃいました! もっかい轢きに来ていいですかー?」
「いいワケあるか降りてこいゴルァアアッ!」
*
俺は少女の差し出した名刺に目を落とした。
「ヴァルキュリアの……ヒルデさん?」
「はい! 転生女神の助手をしてます!」
元気がいい。
「その助手が何の恨みがあって俺を狙ったんだ」
「恨みだなんてとんでもない、栄誉ですよ。あなたは選ばれた戦士なのです。天界に転生し、女神の軍勢として黄昏戦争を共に戦うに足る人材だと認められたのですよ!」
「何も轢き殺さなくたっていいだろ」
「一度死なないと転生できないんです。あとこの国の人ってトラックに轢かれると転生の話がすんなり進むんですよね、なぜだか」
事後承諾だからだろ。
「栄誉なら辞退するよ。俺まだ死にたくないし」
「ごめんなさい、うちそういうのやってないんですよ」
「何でだよ。だいたい戦士だって? 俺はただの会社員だぞ。人違いだろ」
ヒルデは小首を傾げた。
「この国の会社員は企業戦士と呼ばれ、毎年その多くが命を落としていると聞き及びました。そのような戦場であなたは今こうして生き延びている。相当歴戦の強者であるとお見受けしましたが」
「……」
まあ、状況だけ見ると言ってる内容に間違いはないかも知れないが。
「とにかく辞退だ、辞退。こんな戦場とやらでも未練は腐るほどあるんだよ」
「えー、困るなあ。こっちだって仕事なんですよ。大人しくとっとと死んでくださいよー」
「もう言ってることがヤクザの鉄砲玉なんだよ。俺は断固抗議する! お前の上司を出せ、その女神ってのはどこにいる!」
ずしん、と地響きがして俺の立っている場所に影が差した。
体高三メートルはあるかという巨大イノシシにまたがり、全身プレートメイルに身を固めた人がこちらを見下ろしていた。
「……」
何だ、このとてつもない威圧感。
「あ、女神様」
「女神ッ? この世紀末覇者拳王みたいな顔したクソごついのが女神!」
「手こずっておるようだな、ヒルデ」
地の底から響く低音で女神は言う。
「ご、ごめんなさい! 避けられちゃって」
「良い、我みずから引導をくだす。覚悟はできたか、小僧……ぬうあああッ!」
力をためる女神の鎧がメキメキと軋む。
女神はぬうあああッ! とは叫ばないだろ!
覚悟なんかできるか、この死神どもが!
なろうラジオ大賞3 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:助手
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