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珍しく、業務が早めに終わった。まだ明るい街中を歩くのは、それだけで心が弾む。
上司の話によると、とある冒険者パーティが新種のモンスターを見つけたらしい。それで「モンスター表」を更新するとか何とかで、とにかく受付嬢は早上がりになった。どこぞのパーティだか知らないが、新種のモンスターを見つけてくれて、本当に感謝しかない。
「せっかくだから、カフェにでも寄ってみようかなー」
イリスは思わずスキップをし、おまけに鼻歌なんかも歌ってみた。猫人のアイドルグループの人気曲を、次々と口ずさむ。
そのとき、右手のショーウィンドウから、「きゅー」という可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。もふもふの兎みたいな小動物が、ガラス越しにこちらを見つめている。長い耳に黒い瞳。白い毛並みも美しく、思わず抱きしめたくなってしまう。
「わあぁ……! か、可愛いー!」
イリスはショーウィンドウに顔を近づけ、気づくとニヤニヤ笑っていた。ルビー色の両目で、ペットを余すところなく見つめる。
「ヘヤプース、本当に可愛いわー! 見てると飼いたくなっちゃうわねー!」
値段を見ると、一匹千コイン。ペットにしては、特段高くもない。
「……だけど、飼うって大変なのよねぇ。自分で散歩に行って、自分でご飯を食べてくれればいいんだけど……」
随分とずぼらな言葉を吐き、彼女は「はぁ……」とため息をつく。ペットを飼うのは小さい頃からの夢だが、未だ叶った試しがない。地元の里には野生動物がたくさんいたが、野生ではなくペットとして傍に置きたい……。
「まぁ、ペットはまた今度ね。今は忙しくて、全然相手もしてあげられないだろうし」
名残惜しそうにつぶやくと、イリスはペットショップを後にしようとした。