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「でー? イリスのお昼ご飯は何なのー?」
二重人格のごとき変わり身を見せると、リーリヤはイリスの方へと寄ってきた。紙袋をガサゴソと漁る彼女を見て、クンクンと鼻を動かす。
「あっ! このにおい、『カロート』のパンでしょー?」
「さすが、よく分かったわね」
イリスが始業ギリギリで購入したのは、ギルドの近くのパン屋・カロートのクリームパンだ。大きな丸パンの中に、ぎっしりとカスタードが入っている。昼ご飯向きではないと分かっていながらも、ついつい買ってしまう、忘れられない美味しさなのだ。
「やっぱりカロートと言ったら、このパンよね!」
あんぐりと口を開けて、豪快にかぶりつく。カスタードの甘みを感じると、思わずニコニコと微笑んでしまう。
「んー! 美味しいー!」
このカスタードこそ、ささやかな喜び。滑らかな食感が、心に安寧をもたらしてくれる。
「わぁー! イリス、口大きーい!」
褒めているのか貶しているのか、リーリヤがまじまじと見つめてくる。まつ毛をパチパチとさせながら、彼女の一口をじっくりと観察していた。
「……ちょっと。そんなに見られたら、食べづらいんだけど」
「あっ、ごめーん! イリスって、美味しそうに食べるなーって思って!」
「そ、そう……?」
リーリヤといるとイライラすることもあるが、何だかんだ言って憎めないやつなのだ。ちまちまとサンドイッチを口にする彼女を見て、イリスは謎に落ち着いた気分になった。クリームパンを頬張って、すっと立ち上がる。
「さーてと。午後の業務も頑張りますかね」
「あたしも頑張るー! かっこいい冒険者さんとお話しするのー!」
「……あんたって、本当に脳内お花畑よね」
大きな尻尾をフリフリさせながら、「えいえいおー!」とつぶやくリーリヤ。イリスは呆れたような顔をしながら、小さく首をすくめた。