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その後も登録の対応に追われ、ストレスは募る一方。ようやく休憩になったイリスは、死角に入った途端、乱暴にドアをこじ開けた。
「あーーっ!! クソがっ!!」
休憩中の職員のお構いなしに、ズカズカと床を踏み鳴らす。自分のロッカーをバンッと開けると、荒々しく紙袋を掴み取った。
「えー? イリス、怖ーい!」
サンドイッチを片手に、同僚のリーリヤが声を掛けてくる。今日も相変わらずのぶりっ子で、ド派手な赤いリボンをつけて、狐の耳をぴょこぴょこさせている。
「そんなんだから、彼氏ができないんだよー?」
「余計なお世話よ!」
リーリヤは可愛い瞳をうるうるさせて、よく分からないポーズを決めた。アピールする相手もいないのに、生粋のぶりっ子なのだろうか。
「イリスって美人さんなのに、全然男が寄ってこないよねー。早くしないと、おばさんになっちゃうよー?」
語尾を伸ばしてふわふわ喋ると、彼女は再び食事に戻った。「あーん」と言いながら、新鮮野菜のミートサンドイッチを食べる。
「……美味しそうね。そのサンドイッチ」
「でしょー? あたしの手作りだよー!」
リーリヤは料理が得意で、よくお菓子なんかをギルドに差し入れている。イリスはもっぱら買い食いだが、料理ができる女は羨ましい。
「作り置きのチキンに、朝市で買った野菜を挟んだのー! もちろん、ソースはお手製だよー」
「わざわざ朝市に行ったの? あんた、一体何時に起きてるのよ」
「可愛い乙女は早起きなのー!」
確かに、リーリヤの格好はいつも気合が入っている。まるで、毎日男を狙っているようなファッションだ。
「乙女って……。化け狐のくせに、よく言うわね。今年で三百ななじゅ――」
「――それ以上言ったら、殺すわよ」
突如、飛んでくる羽ペン。確実に、人を殺せる鋭さだった。