1
新人冒険者の相手と言うのは、本当に面倒だ。「登録カウンター」のプレートの下でニッコリしながら、イリスは内心うんざりしていた。
「受付嬢歴が長いから」といって、面倒ごとをやりたいとは思わない。しかし、人手不足のギルドでは贅沢も我が儘も言えず、今日も自信満々な新人の相手をしていた。
「スキル……『飼育』、ですか?」
「はい、そうです」
手書きの登録書を渡されたイリスは、スキルの欄を見て思わず眉をひそめる。この世界、確かにスキルは存在するが、それにしても「飼育」なんてものは聞いたことがない。と言うより、これはただの動作、あるいは状態ではないだろうか。
「えーっと、虚偽の申請は受け付けられませんよ……?」
物腰柔らかにそう言うと、人間冒険者はあからさまに不愉快な顔をした。黒い瞳で、じっとイリスのことを見つめてくる。
「嘘じゃないです。俺が嘘を書くわけないじゃないですか」
「えぇ……? でも……」
ギルドの統括本部から送られてくる「スキル表」をめくってみるが、やはり「飼育」のしの字もない。最近、このようなことが増えて困っている。
本来、スキルは神から与えられる賜物で、それも選ばれた者に限られているのだ。そんな贅沢なスキルが「飼育」だなんて、実にアホなことだと思わないだろうか。
「とにかく、嘘じゃないんで。早くしてください」
「は、はぁ……」
黒い短髪を掻き上げながら、偉そうに喋る人間。「何よ、偉そうに! ムカつくー!」と言いそうになり、慌てて口をふさいだ。