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「オレンジオイノス、お持ちしました」
すぐさま、シュッとしたグラスに入ったお酒がやって来る。柑橘系のアルコールが生み出す、鮮やかなオレンジ。苦みの中にほのかな甘みがあるのも、このお酒の特徴だ。「やっぱ、アルコールには負けるわぁー!」と叫びたい。人目をはばからず、全力で声を上げたい。
「お待たせしました。今日のお肉は、大蛇・リーヴァです」
そんなことを考えている内に、お目当てのメインディッシュが運ばれて来た。思わず、「おおお……」と声を零してしまう。
こんがりと焼かれた大蛇の肉は、丁寧に二つにこねられ、鉄板の上でジュウジュウと音を立てている。凶暴なモンスターの面影はどこへやら、食欲をそそる美味しそうなビジュアルだ。
イリスはしっかりとお祈りを捧げてから、まずは一口、しっかりと噛み締めた。
「ああ、美味しい……」
ジュワッと肉汁が溢れ、スパイスの効いたソースと一体になる。食感は柔らかく、舌の上でみるみる内にとろけていく。まさに、絶品。巡り会えたことに、感謝。
ハンバーグの余韻を楽しんで、オイノスをグッとあおる。もう、これが堪らないのだ。
「嫌なこと、全部忘れられるわぁ……」
ギルドの受付嬢はホワイトカラーだと言われるが、どんな仕事でもストレスは溜まる。イリスのような長生きエルフは、人間よりもその傾向が強かった。何年も受付嬢をやっていれば、不満の百個や千個はある。だが、美味しい食事があるからこそ、毎日頑張れるのだ。
「明日も頑張ろうって、元気づけられたような気がする!」
あっという間に平らげたイリスは、おばさんにコインを払って店を後にした。あの美味しさで、なんと九コイン。一コインで白パン一個分なので、お財布にも優しいお店だった。
「あのお店は、『イリスのオススメ店』入り決定ね!」
さっと手帳を取り出して、今日の夕飯を書き込む。この熱心さ、仕事以上のものだ。
「さて、と。明日も早いから、さっさと帰らなくっちゃ」
パタンと手帳を閉じ、借り宿屋へと向かうイリス。この幸福を忘れない内に、ベッドに潜り込もう。