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歪んだ愛  作者: 時計塔の翁
第一章 出会い。二人の視点
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彼氏君視点4

遅れました。すみません

 ◇◆◇◆


 オーディション翌日

 役職が決まってから演劇部の活動スケジュールは大きく変わった。

 大きく分けると役者チームと裏方チームの二通り。

 そこからさらに細かく役職が分けられている。


 僕は裏方チームの中の小道具に配属された。

 メンバーは僕を含めて三人。

 1年生2人、2年生1人。男女比2:1。

 男の先輩(小道具チーフ)のから小道具の役割及び注意点等を二人で聞いた。

 実はあまりやる気は出なかったが配属されたからには迷惑をかけないように頑張ろう。


 ◇◆◇◆


 役職が決まって2日目

 やることがなくて暇すぎる。

 理由は簡単。各役職のチーフと舞台演出、舞台監督の先輩たちが今回の舞台をどのように作っていくかの会議を行っているからだ。

 スムーズに進めば1時間もかからないが、ここの先輩たちは我が強く演劇に対しての情熱がすごい。

 だから会議が白熱して2時間も3時間もかかるなんてざらだ。

 会議が終わるまで我々チーフ職でない人間はそれぞれ待機するよういわれた。(用事があるもの、暗くなる前までに終わらなければ帰っていいとは言われた)


 そして現在。同じ小道具の【黒鳥 瑠璃(くろとり るり)】さんと二人で部室に残って先輩の帰りを待っていた。

 だがやることが無いので重い沈黙が二人の間に流れる。


「あー......先輩たち遅いね。」


「......」


 沈黙に耐えかねた僕は彼女に話しかけてみた。

 返答に困ったのか彼女は返答を返してくれなかった。

 このまま会話を終わらせてもいいのだが、恐らく彼女は人付き合いが苦手であるとこの1ヶ月の彼女の行動を見て判断できる。

 ここで会話を切ったものなら彼女は少なからず精神的ショックを受け、加害妄想を起こすかもしれない。そうなると彼女との会話は難しくなるだろう。

 ここは多少不自然でも話しかけ続けるべきだ。


「黒鳥さん......だよね?......あぁよかった。僕はひとの名前を覚えるのが苦手なんだ。1ヶ月経ったけどいまだに黒鳥さん以外の他の部員の名前はあやふやなんだ。

 一応改めて自己紹介を。7組の【池垣 幸一(いけがき こういち)】です。好きな食べ物は茶わん蒸し(銀杏なし)。嫌いな食べ物はプチトマト。趣味は読書でスポーツは訳あって嫌い。この部活には役者目標で入ったけど落ちて小道具に配属されたんだ。これからよろしくお願いします。」


 いい終わって不安になった。これはなんでも不自然だ。彼女にいらぬ恐怖を与えかねないんじゃないか。


「......1年3組の......黒鳥 瑠璃、です。好きな、食べ物はコーンスープ......嫌いな食べ物は、マヨネーズ......。趣味は、幸一君と同じ読書。よ、よろしくお願いします。」


 (あわせてくれた!!!!。あと下の名前で呼んでくれた!!!!)


 彼女の小さくて綺麗な声を聴いて僕は心の底から安堵した。

 彼女の顔が少し紅くなっているところを見るとかなり勇気を出したのだろう。


「よろしく、黒鳥さん。......上の名前で呼ぶとなんか他人行儀みたいかな?下の名前で呼んだほうがいい?」


「え、!?!?!?。い、いえ。......そんなこと、ない、です。......下の名前で呼んで、ごめんなさい。」


「いやいやいやいや、あやまらないで!?!?!?。こっちも下で呼んでくれたほうが僕はうれしいかな。だから気にしないで。あと無理に敬語にならなくてもいいよ。楽にしようよ。」


「うん......ありがとう。そう言ってくれると、助かるかな。」


「ありがとう。黒鳥さんはさ

「瑠璃でいいよ」


「......え?」


「......瑠璃って呼んで。」


 驚いた。彼女はさっき僕が言ったことを気にしてくれていたんだ。

 だから僕が上の名前で呼んだ時に下の名前で呼んでほしいって言ってきたんだ。


「わかった。瑠璃さん、はさ、帰らないの?」


 今この部室には僕と彼女の二人しかいない。

 他の裏方の人は理由をつけて帰ってしまった。

 もう夕日が沈みかけているのに彼女は帰る様子がなかった。


「......私は、なにも予定無いから。それに、部室の鍵、先輩たちの荷物あるから。」


 なるほど、確かに部室の鍵はここにある。会議をしている先輩たち及び、舞台で練習している役者の人の荷物はここに置いてある。

 財布なども入っているので誰かが残っていないと盗難の恐れがある。

 だがそれも鍵をかけて舞台にいる人に鍵を渡せばそれでいい。

 しかし彼女はそれをしなかった。

 いや、できなかったんだろう。彼女にとって、どんなに些細なことでも人に頼み事をするのが苦手なんだ。


「......幸一君は、なんで帰らないの?」


「んー、暇だったからかな。家に帰ってもやることないしね。」


 本音は彼女が心配だったからだ。

 いくら高校だからといっても万が一がないわけではない。

 あまり人が来ない部室等の一番奥。

 そこに彼女一人だけ残して頭のおかしな男子高校生が襲いに来るかもしれない。

 そう考えたら不安で帰るに帰れなかったんだ。


「黒鳥さ、間違えた。瑠璃さん。良かったら一緒に帰らないかな?鍵は舞台の人に預けてさ。ほら、もう外暗いし。」


 彼女は少し考えた。けど頷いて身支度を整え始めた。


 これが僕と彼女との初めての会話だった。

 

次回「瑠璃さん視点5」

次回の投稿は3/31(水)深夜を予定してます。

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