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歪んだ愛  作者: 時計塔の翁
幻想を追いかけた男の過去
47/48

真奈美13


 ◆◇◆◇



 連日続く午後からの雨。

 さすがに今日は傘を盗っていく奴なんていないだろうと自分のクラスの傘立てを覗く。

 しかしそこには()()()()()()()()()()()()()


「......これは嘘だろ?」


 まさか連日盗まれるとは。

 しかも今日持ってきた傘は前まで親父が使っていたものでなかなかいいやつだったはずだ。


(.....つらいな)


 外に出てみると雨の勢いは弱まってはいるが、それでもこの体調で30分間この空の下を走るのはつらい。

 待てば止むかなという俺の期待をあざ笑うように暗雲は濃くなっていく。


「菊池朗君よかったら一緒に入る?」


 真奈美さんは自前の赤い傘を開き俺に手招きをする。

 どうやら今日は彼女の傘は無事だったようだ。


「傘、ないんでしょ?」


 傘から顔をのぞかせながら俺に再度手招きをする。

 その口調とは対照的にその眼にはドロドロとした黒いものを宿しているのがわかる。


「いや、熱がうつると大変だからいいよ、 それに前にも言ったでしょ? 俺の家は近いか

「嘘だよね」


 彼女の親切を断ろうとして彼女に阻まれた。

 その口調はただ静かに、それでいてはっきりとしていてとても低く重かった。


「嘘だよね? 君の家ここから40分くらいかかるよね?」

「…何のことかな?」

「保険の先生から聞いたんだ

 菊池朗君の家、結構遠いんだよね?

 それでも私に気を遣ってわざわざつかなくてもいい嘘をついてまで私を家に送ってくれたんだよね」


 1歩、また1歩、距離が詰められる。

 ついに目と鼻の先までの距離まで詰められ、俺の頭上に赤い傘を持ってこられた。


「さぁ、行こっか」


 半ば強制的に彼女の隣を並んで歩く。

 やはり今の彼女は別人のようだ。

 昨日までは同じ傘の中でも距離があったが、今は肩が触れるほどに密着してくる。

 雨の匂いをかき消すほどに甘い香りが熱に犯された思考をさらにかき乱す。


「やっぱり遠いね、なんで近いなんて嘘ついたの?」


 すぐ横で囁くように尋ねる彼女。


「そういうもんだよ」

「なにそれ?」

「カッコつけたかったんだよ」

「ドラマみたいに?」

「多分ね」 

「そう...」


 そう、結局女の子の前でカッコつけたかったんだ。

 漫画やドラマみたいに、少しでもかっこいい役を演じたかったんだ。

 だけど現実はうまくいかない、いつも空回りして失敗する。


「...やっぱりここまででいいよ」


 学校から30分ほど歩いたところで彼女に言う。

 30分といってもいつもよりだいぶペースを落としているから家までまだ距離がある。


「そうやってまた無理をするね」


 歩く速度を落とすことなく彼女は俺に言う。

 その声色は先ほどよりも暗く感じる。


「さっきからわかってるよ、無理して歩いてること、まだ体調悪いでしょ」


 さらに身体を寄せて彼女の腕が俺の腕に絡まれる。

 自分の心音がこうもうるさく感じるのは熱のせいなのか妙に大人びた彼女の雰囲気のせいか。


「ほら顔赤くなってきた、無理しないで行きましょうか」



 この後はもう俺は何も言えなくて、ただ黙々と一緒に俺の家まで歩いた。

次回「真奈美14」

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