真奈美12
何も考えていなかった俺は教室に入る足を止めてその女生徒を見る。
ここに向かう途中1人も他の生徒とすれ違わなかったから教室も無人だろうと思い込んでしまっていた。
さらに別のクラスの彼女がたった1人でこの教室に残っているなんて想像も出できなかった。。
彼女は急に入ってきた俺に驚いた様子を見せることなく、立ちすくす俺を静かに見つめている。
正直今朝のことがあり、今彼女に会うことは何より辛いことだった。
「......おはよう。目が覚めてよかった」
わずかな沈黙を破るように彼女は俺に声をかけた。
俺は返事をしなければ思ったが、俺は首を縦に振ることで返事とした。
「そんなところにいないで中に入ったら? 君の教室だよ?」
教室を間違えたと思われたのか彼女は俺を教室の中に促す。
彼女は今の俺とは対照的に昨日と同じ。いや、もっと友好的な態度で接してくる。
...俺はそんな彼女に恐怖を感じた。
昨日までの彼女は警戒心とほんの少しの恐怖心を抱えていたはずだ。
それは俺に対してではなく人に対して。
陰湿ないじめと見て見ぬふりをする同学年の生徒。
そういった者たちに対する負の感情をその眼に映していた。
だが今の彼女は何を考えているのかがわからなかった。
その眼は俺を映し、それ以外を感じさせない。
その眼から目を話すことが出来ない。
「どうしたの? まだ調子悪いの?」
「......いや、あ~調子は、大丈夫。うん」
震えが止まらない。
足腰に力を入れゆっくりと教室に入り自分の机に向かう。
「ほんとに大丈夫? ほら。座って。ちょっと休んで」
「あ、あぁ」
俺の席の椅子を引いてくれた彼女。俺は彼女の隣に腰を下ろす。
その際自分の机の中を見るときれいに片づけられていた。
机の横には2つの空色リュック。
彼女のものと、俺のものだ。
「一応リュックに教科書とか入れておいたけど...... 迷惑だった?」
「そ、そんなことないよ。ありがとう」
不安そうな表情を近づける彼女に少し詰まりながらもお礼を言う。
「......」「......」
「......」「......」
隣で彼女の静かな吐息が聞こえてくる。
「ま、真奈美さん。今朝は
「あ! 雨の勢いが弱まったよ! 今のうちに帰ろうよ」
俺の言葉を遮るように窓を指さし彼女は早口で言う。
見るとさっきよりも風が弱まり、雨も小粒になっている。
「そ、そうだね。......今日は帰ろうか」
体に力を入れて立ち上がり、よろけるのを我慢しながらリュックを背負い2人で教室を後にする。
次回「真奈美13」
更新予定日「2022/04/13」
(体調次第で遅れる可能性あり)