真奈美5
俺が愛用している傘と比べ、折り畳み傘は小さく中学生二人を雨から守るのは難しい。
だから歩きながらも俺の体の大部分は雨に打たれた状態が続く。
「足元大丈夫? 歩くスピードはこのくらいでいい?」
「......うん。大丈夫」
彼女は視線を下に向けながら答える。
(本当に大丈夫なのか?)
さっきからこの調子だ。
どうも彼女の返答は単調で、心ここにあらずといった感じがする。
(さすがに道を尋ねた時はちゃんと答えてくれるがそれでも少し寂しいなぁ。)
ふと背後に嫌な気配がしたので振り向いてみると、後ろからライトもついてない車がものすごいスピードでこっちに迫ってきていた。
「危ない!」
俺はとっさに彼女を壁に追いやり身を呈して車と水しぶきから彼女を守る。
「あー ごめん。大丈夫?」
「菊池朗君、ありがとう」
ようやく俺たちは目を合わせることができた、が。
「菊池朗君大丈夫! さっきよりもずぶ濡れだよ!」
下を向いていて気づかなかったのか彼女は驚きの声をあげる。
「大丈夫。まぁ濡れるのは慣れっこだからな」
「そんな...... 風邪ひいちゃうよ」
「......何とかは風邪をひかないらしい」
「ふざけないで!」
「ごめんごめん。冗談冗談w」
自虐的に笑う俺に彼女は怒った。
冷静に考えれば俺がしているのは親切の押し売りに過ぎないのだ。
彼女にとっては迷惑でしかないのだろう。
「ごめん。やっぱり気持ち悪いな、俺って。わかってはいるんだが」
今度は訳が分からないといった表情を浮かべる彼女。
「人との距離感というものがどうしてもわからなくってね。一緒にいると分かると思うけど ウザイだろ? 俺って。だから申し訳ない」
つい声のトーンを落としてしまう。
雰囲気が悪くなってしまのはわかっているがついつい言葉に出してしまう自分が情けなくて仕方ない。
そのあとは互いに終始無言で歩き続けた。
いつのまにか彼女の家の前についたので軽くさよならを言って今日は解散した。
雨のしみ込んだシャツと靴に不快感を感じながら俺は自分の家に向かって歩いて行った。
「くしゅん!......」
雨に体温を奪われたのかくしゃみをしながら。
次回「真奈美6」
投稿予定日2022/02/06または2022/02/07
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