真奈美4
◇◆◇◆
荷物を持って俺は彼女の後を追った。
彼女も自分の荷物はすでに準備していたようで追い付いたのは下駄箱の前、あの濡れたローファーを取り出すところだった。
「真奈美さん!」
少し大きな声で彼女を呼び止める。
彼女は俺が追ってくると思っていなかったようで驚いた表情を俺に向ける。
「はぁ......はぁ...... 間に合ってよかった」
「ど、どうしたの? 菊池朗君」
「多分、傘無いと思うからこれ使って」
俺はロッカーから持ってきた折り畳み傘を彼女に差し出す。
さっき靴を戻すときに傘立てを見たが俺の傘を含め1本も傘が残っていないことを確認したからだ。
「今日も朝雨が降っていなかったからもしかしてと思ったけど、やっぱり持っていかれたみたいだ」
まぁ俺の傘を取った犯人ならもう確認済みなのだが。
「......でもそしたら菊池朗君の傘がないじゃない」
「昨日も言ったでしょう? 俺は家が近いから。あと見てよ俺の格好を。すでにずぶ濡れだからこれ以上雨に打たれても関係ないのさ」
そう言って俺は自虐的な笑みを浮かべる。
対照的に彼女は申し訳なさそうな顔をする。
「......ごめんなさい。私のせいで、私が虐められているから」
「ううん。別に真奈美さんが謝ることじゃないんだよ。気にしないで使ってほしいんだ」
彼女は少し考えた後
「あ、あの...... むしがいいと思うけど、やっぱり一緒に帰らないかな。」
「?」
「いや、あの~ 傘が一つしかないし、なら一緒に使えばいいかな~ なんて......」
「あぁ、なるほど。全然いいよ」
顔を赤くして説明する彼女の提案に同意し、俺は自分の靴を取り出し少し顔をしかめながら靴を履く。
少し履くのに手間取ってしまったが彼女は先に行かず待っていてくれる。
「ごめん、じゃあ行こうか。傘は俺が持つから」
「う、うん。ありがとう。」
二人で昇降口を出る。俺が傘を持ちなるべく彼女を濡らさないように傘の大部分を彼女のほうに傾ける。
「それで真奈美さん。どっちに向かえばいいの?」
「え?」
外に出てすぐ立ち止まってしまった。
ここで俺は自分の間違いに気づいた。
(しまった。あれだけ家が近いと連呼したんだ。先に俺の家に行った後傘だけ貸す流れだと思われても仕方がないじゃないか!)
だが俺の家は走って30分かかる。歩いたらそれこそ1時間かかるだろう。
「いや。まず真奈美さんを送ってから俺は自分の家に帰るよ」
「ダメ。私の家遠いから。菊池朗君をそんなに歩かせるわけにはいかないよ」
彼女の優しさがここで俺に牙をむく。
「大丈夫。逆にこんな遅くに女の子1人で歩かせるわけにもいかないからな」
「ううぅ~ 申し訳ないよ」
半ば強引な手口だがなんとか俺は彼女を家まで送り届けることができそうだ。
次回「真奈美5」
投稿予定日 2022/02/05
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