真奈美3
数か月前の私はどんな心境でこの話を書いてたんでしょうか?
初めに沈黙を破ったのは俺のほうだった。
「......ごめん。やっぱり気持ち悪いよな。配慮が足りなかった。本当に申し訳ない」
深々と真奈美さんに頭を下げる。
彼女は何も答えない。顔をあげるわけにはいかないため表情が見えないがおそらく俺を蔑むような眼で見ていることだろう。
またやってしまった。俺みたいなやつに靴を触られただけでも不快なうえ、まともに話も通じない。さらに唐突に頭を下げるのだから不愉快極まりないはずだ。
内向的な自分を責めながら俺は彼女が口を開くのをじっと待った。
「......ごめんなさい」
少したって彼女はポツリと俺に言った。
俺は驚いて顔をあげた。
自分のことを責めるこの一言を言わせてしまった自分の言動を心から恥じた。
「謝らないで! いや、ほんとに申し訳な 」
「......ごめんなさい ......ごめんなさい」
思わず固まってしまった。
目の前で泣いて謝る彼女に俺は困ってしまったのだ。
「......ごめんなさい ......ごめんなさい」
「謝らないで。一回落ち着こうか。ほら、冷えるから校舎に入ろう。ね?」
涙をぬぐいながらコクコクと頷く彼女を先導し、俺たちは二人で校舎に戻っていった。
◇◆◇◆
木曜日は職員会議があるため部活は行われない。
つまりこんな時間に校舎に残っている生徒は俺たちぐらいなものだった。
いったん彼女を落ち着かせるため彼女のクラスに向かおうとするが彼女が拒否をする。
少し考えて、自分の過ちに気が付き、俺のクラスに入った。
「大丈夫? 落ち着くまで待つから」
彼女を椅子に座らせ俺も向かい合うように自分の席をもって座る。
その際カバンの中からコップ付きの水筒を取り出し、彼女の前で静かに注ぐ。
「はい。緑茶が口に合うかわからないけどどうぞ。口を付けてないからそこは安心してほしい」
「......グスッ ありがとう」
自前のハンカチで涙を拭いた彼女は震える手でコップを取り、少しだけ口を付ける。
おそらくこんな時じゃなければ彼女は俺から出されたものに口を付けることなんてなかっただろう。
「......ありがとう。それとごめんなさい」
コップを机に置き彼女は俺にお礼と謝罪の言葉を述べる。
「僕は大丈夫だよ。真奈美さんを責めたりなんてしないから安心して」
「......ありがとう、菊池朗君」
俺は彼女を安心させるために優しく声をかける。
彼女はまだ少し緊張しているがさっきよりかは落ち着いてくれた。
壁にかけられた時計を見るといつのまにか18時を回ろうとしている。
日照時間が遅くなる季節だがここまで厚い雲に覆われていては外は不気味なほど暗い。
降り続いている豪雨はさっきと比べるとだいぶましになったように見える。
「真奈美さん。よければ一緒に帰りませんか? 外も暗いし送っていくよ?」
今言うタイミングではなかったかもしれないと思いながらも彼女に提案する。
だが予想通り彼女はその提案を断った。
「大丈夫、1人で帰れるから。でももうこんな時間なんだね。私のせいでこんな時間になっちゃってごめんなさい」
そういうと彼女は荷物を取りに自分の教室に戻っていった。
俺も水筒を片付け、空色のカバンを背負って彼女の後を追った。
次回「真奈美4」
更新日 2022年2月4日
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