真奈美1
◇◆◇◆
雨の良く降る日だった。
隠された靴を偶然見つけた俺は持ち主に覚えがあったからその二足のローファーを抱え、下駄箱まで向かった。
案の定下彼女は空の下駄箱を見つめていた。
その表情は悲しみや怒りなどは表れておらず、どこか諦めているように感じた。
「......見つけたよ」
どう声をかけるべきかわからなかった俺は馴れ馴れしいかと思いつつも二足のローファーを彼女に差し出す。
俺に気が付いた彼女はただ黙って俺を数秒だけ見つめ、
「・・・・・・」
ひったくるように俺からローファーを奪い自分の足にはめる。
「......傘貸そうか?」
朝は降っていなかった。
おそらく傘を忘れた馬鹿が彼女の傘を無断で持って行ってしまっただろう。
俺は傘立てに差し込まれた自前の黒い傘を彼女に差し出す。
「......いい。ほっといて」
彼女はぶっきらぼうに俺に言う。
下を向いた彼女の顔は俺からは見えなかった。
「そういうわけにもいかない。この雨の中傘を差さずに帰ると風邪をひいてしまう」
「......君には関係ない」
「俺は家が近いから走ればどうとでもなるさ」
しばらくの沈黙の後、彼女は俺の傘を黙って受け取る。
「......ありがとう、明日返すから」
「わかった。また明日。真奈美さん」
「......また明日。菊池朗君」
どしゃ降りの雨の中、薄暗い帰路に彼女、【青葉真奈美】は俺の傘を差しながら帰っていった。
それを見届けた後、俺は学校指定の空色のカバンを頭上に置き30分間走り続けた。
◇◆◇◆
昨日の雨が嘘のように消えた。
参考書の重みで肩を痛めながら俺は学校に到着する。
受験期に差し掛かった俺はあの面倒な朝練から解放されたにもかかわらず、その遠きの癖でいつも早く学校についてしまう。
「今日も一番乗りかねぇ」
そんなことを考えていると珍しく俺のクラスの下駄箱の前に誰かが立っていた。
その人物は俺を見つけると
「......はい、これ」
手に持っていた黒い傘を俺に渡してくる。
「あぁ、ありがとう。それとおはよう。」
朝の挨拶を彼女にするが、
「......もう私にかかわらないで」
そういって速足で階段を上って行ってしまった、
「かかわらないで、ねぇ」
おそらく自分といるといじめの対象になると思ったのだろう。
彼女は気が弱いが優しすぎるようだ。
「いや、それとも単に俺が気持ち悪いと思われただけだろうか」
朝っぱらから無駄な考えに翻弄されながら俺は自分の教室へと足を運んだ。
次回 「真奈美2」
12月14日投稿予定