夜明け前の別れ
◇◆◇◆
ベットの振動で目が覚めるた。
キクちゃんの指が私の頬をなぞる。
寝ている間に泣いてたみたいで、私の涙をキクちゃんは指でそっとすくった。
寝たふりをして様子をうかがってみるといつのまにか手錠が外されたのには驚いた。
「パキ … ポキッ …」
という音でキクちゃんのほうから聞こえてくる。
「よく寝てらっしゃる。......それとも寝たふりでもしてるのかな?」
あまりにも突然だった。
やっぱりお見通しなのかキクちゃんは意地悪な声で私に囁いた。
「少し喉が渇いたから水を飲みに行ってくるよ。」
私を安心させるためだろう。そう囁いて彼は扉の向こうへ消えていった。
部屋に残された私はのそりとベットから起き上がり、何も考えずに着替え始めた。
ちょうどブレザーに着替え終わったとき、部屋のドアが静かにドアが開いた。
「......お帰り。」
「......ただいま。着替えたんだな。」
あぁ、やっぱり起きてたことに気がづいてたんだ。
起こしたか?悪い。っていつもなら言うのに。
やっぱり起きてたの気づいてたんだ。
「......意地悪。」 「どうした?」
「何でもない。」 「はぁ、なるほど。」
「なんで笑ってるの。」 「何でもないさ。」
「......意地悪。」 「そんなもんさ。」
たわいもない会話をし私は頬を膨らませながらもベットに腰を掛ける。
それを見てキクちゃんは私の後ろに回って肩をもんでくれる。
「痛くはありませんか? お嬢様?」
「大丈夫~気持ちいいよ~」
凝っている部分に力を加えかつ優しく丁寧に揉んであげる。
肩。首、頭皮、耳、そして背中と両腕。
順番に、丁寧に、ゆっくり時間をかけて揉んでやる。
彼女の顔がトロンとして、さっきまでそこにあった睡魔をじわじわと呼び戻していく。
うつぶせに寝っ転がるようにベットに寝かせ背中と腰、そして脚を揉む。
うつらうつらと薄れゆく意識をさらに深くまで落とすように丁寧に。
「眠っていいよ」 「・・・うぅ」
「おやすみ」 「うぅ・・・う」
今度こそ完全に眠ったのを確認して音を立てないよう荷物をまとめ部屋を後にする。
幸い一葉の両親も寝室にいるようで家は暗闇に包まれていた。
スマホを片手に玄関から外に出て一葉から預かった合鍵で鍵をゆっくりかけ、家の裏に隠している自転車を引っ張りだして帰路についた。
夏にしては珍しいひんやりとした風を頬に感じながら。
第2章はこれで終わりです
次回 第3章 愛の形1
「用水路と少年」
更新日 12月10日 21時(予定)