足音の主
◇◆◇◆
......ガチャ
ノブが回る音 足音の主は扉を開け、部屋に入ってきた。
「......キクちゃん?......なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!」
(......やばい、一葉だったか)
部屋に入ってきた一葉は俺がいないことに気づき錯乱寸前。
目に光がなくなり、ブツブツと呟きながら部屋を徘徊する。
俺はクローゼットから急いで飛び出し一葉をなだめる。
「な、なんで隠れてたの‼ なんで待っていてくれなかったの!! 怖かった、怖かったんだよ!!」
「悪い、もしお前の親が入ってきたらまずいと思って隠れさせてもらっていた。不安にさせてしまってすまない。」
俺の胸にと飛び込み泣きながら怒る。
胸に顔をうずめる一葉の顔から伝わる涙が俺の体を濡らす。
俺は服を着るタイミングがないまま30分間彼女をなだめることになった。
◆◇◆◇
やっと一葉を泣き止ませることに成功しシャワーを浴びることができた。
どうやら両親は出かけているらしく俺の心配は杞憂に終わった。
「なぁ、機嫌を直してくれないか?」
「別に......怒ってないもん。」
(いや、怒ってるだろ)
俺は彼女の髪を洗いながらため息を吐きそうになる。
俺たちは二人で風呂場にいる。
目を離すと俺がいなるから今日一日ずっと俺のそばを離れないそうだ。
「なぁ、さっきは悪かったと思っている。だがこれはやりすぎじゃないか?薬で眠らせられるのはいいが、風呂もトイレも一緒はさすがに思うところがあるんだが。」
「だ~め、ご飯の時も、お風呂の時も、トイレの時も、眠るときもずっと一緒にいるの。そうしたらさっきのことは許してあげる。」
「はぁ......わかったよ。シャンプー流すぞ、目つぶれ。」
彼女の長く黒い髪を洗い残しが無いように丁寧にゆすぐ。
普段はポニーテールなので髪をほどいた彼女の姿は新鮮である。
濡れた肌に髪が張り付き非常に色っぽい。
なんとなく、本当になんとなくだが彼女に意地悪をしたくなった。
俺は髪を束ねるふりをしながら彼女の耳元に顔を持っていき、そっとつぶやく。
「......お前の髪、綺麗だな。」
「 ♡!♡!♡! 」
「髪を下ろした姿のほうが似合ってるな、普段は明るい印象だが今の姿は影があってとても好みだ。」
「え♡......あ♡......ちょっと♡」
「大好きだ、愛してるよ。」
「んん♡♡!?!?!?」
顔を赤くして驚く一葉の唇を奪う。
数秒後ゆっくりと顔を離す。
互いの口から垂れた唾液が糸を引いて橋を架ける。
しばらく見つめあい自分の心臓の鼓動を聞く。
その後互いの背中を洗いあい湯船で体を温めるもその間二人は気恥ずかしさで終始無言であった。
次回「唐突な帰宅」