その場しのぎ
前回予告に「日曜日」と記載しましたがその場しのぎに変更しました。
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翌日 午前2:30 一葉の部屋
息苦しさを感じ俺は夢の中から現実世界にひき戻された。
俺は寝起きはいいほうではあるが、一葉が飲ませてきたあれのせいでまだ意識がもうろうとしている。
目を開けようにもいまだ残る煩わしい眠気がそれを拒む。
しかしいくら視界を奪われ意識がもうろうとしていても体にのしかかる圧力と俺の口を塞がれたような息苦しさは判断できる。そしてその原因が何なのかもわかっている。
ゆっくりと腕を持ち上げ、俺の上に横たわる形での乗り俺の唇に自分の唇を何度も何度も密着させている一葉の背中に腕を回し強く抱きしめる。
ビクッと体が震えたのを感じながら重い瞼をゆっくり開ける。
案の定そこには顔を高揚させ息を荒げた一葉がいた。
弱い光をともす部屋の照明が作り出す影が彼女の魅力を引き立たせる。
触れ合う肌から伝わる熱がますます高揚し、何度もキスをするうちに呼吸が乱れるのがわかる。
互いの唾液で口元がなまめかしい光を帯びるのを見てさらに俺は腕の力を強め、全身で一葉を感じ、一葉に俺のことを感じさせた。
喫茶店を出た後、お腹が膨れて機嫌を直したかと思われた一葉だったがまた俺に詰め寄ってきた。
(ねぇキクちゃん。さっきあの娘のこと考えてたよね。キクちゃんの彼女は私なんだよ?)
(......すまん。俺の都合でまたお前を傷つけて......すまない。埋め合わせをさせてくれ。何か俺に臨んでいることはないか)
こんな提案するべきではないことはわかっていた。
この後の彼女の行動が常軌を逸するものになることもわかっている。
・・・・・・だがどうしたらいい?
この行為がずぶずぶと沼に沈むようなものだとはわかっている。
なにも解決しないこともわかっている。
その場しのぎでしかないこともわかっている。
・・・・・・だったら何をしたら彼女は救われる?
結局いくら思考をめぐらせて、何通りの選択肢を考えたとしても、俺の顔を見つめる一葉の表情を見ると結局何もかもが無駄だということがわからせられる。
光を飲み込むような黒い瞳に俺が映し出されると、結局この方法しか彼女を満たすことができないことを思い知る。
(なんでもゆうこと聞いてくれる?)
(......あぁ約束しよう)
(わかった、じゃあ私の家に来てよ。ここからそんなに遠くないし)
(今からか?)
(何言ってるの?当たり前だよ。彼氏が彼女の家に遊びに行く。別に嫌じゃないよね?)
(......わかった)
こうして俺は一葉の家を訪れた。
部屋に通されだされた麦茶を飲もうとすると一葉に止められた。
なんだと思っていると彼女は取り出した粉末状の白い粉を俺の目の前で投入してきた。
何をやっているのか聞こうにも耳を貸さない。
かなりの量を混ぜ込んだそれは一部溶け込まず表面に浮き出ている。それを彼女は笑顔で渡してきた。
それが何かは聞けなかった。だが想像はついた。
(......睡眠薬。媚薬もあるか?)
少し飲むのをためらうと彼女は詰め寄ってきた。
その目は「約束したんだからゆうこと聞いてよ」と訴えかけている。
後者であるならそこまで問題はない。しかし前者ならば少し厄介だ。
だがどちらであれ飲まなければならない。
俺は今日の日付と曜日を確認しそれを一気に飲み干した。
勢いよく流れ込む液体と粉末。それを無理に胃に落とし込み一息つこうとする。
しかし予想より圧倒的に早く睡魔が襲ってくる。
せめて拘束されないよう悪あがきをしてやろうと薄れゆく意識の中彼女にお休みとキスをして、そこで限界が来た。
俺の意識はすぐに闇の中に沈んだ。
今が何時かわからないが丸一日寝ることは回避したようだ。
寝る前のキスが利いたのか逃げ出さないことがわかっていたのか寝ている間に拘束されることもなかった。
あとは理性を捨てて際限なく湧き出ている脳内麻薬に酔いしれながら二人で傷を舐めあうだけ。
......まるで獣のように。
次回「日曜日」
更新日5/27(木)を予定しています