マスター特製ナポリタン
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13:00 喫茶店【Shade】
注文を聞きに来たマスターに一葉はメニュー表を広げ、中央に特別目立つように書かれた「喫茶Shade名物、マスター特製ナポリタン」を指さして。
「マスター!。これの特別セットください!。」
「かしこまりました。彼氏さんもご一緒のものでよろしかったですか?」
「?、はい。同じでお願いします。」
「では少々お待ちください。」
調理場に消えるマスターの背中を見て、なぜかマスターの笑顔と言葉に違和感を覚えた。
だがそれが何なのかわからない。
一度ちゃんとメニューを確認しようとメニュー表を探す。しかしテーブルのどこを探してもそれは見つからない。どうやらマスターが一緒に持って行ってしまったようだ。
「どうしたのキクちゃん?なにか心配事?」
目の前に座る一葉が俺の顔を覗き込む。
その何とも言えない表情を無意識に彼女に重ねてしまい俺は顔を曇らせてしまう。
(......おちつけ、今一緒にいるのは彼女じゃない。違うんだ。違うんだ!)
「キクちゃん......どうしたの?......また、またなの?......ねぇ。こっちを向いて。ねぇ。」
思わずうつむく俺の頬を彼女は優しく、強く触れて顔を持ち上げ目の高さを自分と合わせる。
陰りが入った瞳。そこに映る自分のあっけない顔と目が合う。
(あぁ。結局何も変わってない。昨夜の謝罪も。昨夜流した涙も。昨夜誓った覚悟も約束も。......あっけない。実にあっけない。)
「ねぇ......まだ私達の邪魔をするの?まだ
「お待たせいたしました。特製ナポリタンでございます。ごゆっくりどうぞ。」
この異様な空間に動じずに割って入ったマスター。その手には一皿の大皿。そこに盛られたナポリタンがとても美味しそうな匂いを漂わせお互いの空腹を刺激する。
「......一皿だけなのか?」
思わず伝票を確認すると確かに二人前と書いてある。
もう一度皿を見るとフォークが二つ置かれていた。
「あ、来た来た。とりあえず食べようよ。はい、手を合わせて。いただきます♪」
「い、いただきます。」
そういうことか。これはそういうメニューなのだ。
あの時の違和感。それは俺のことを彼氏と言ったこと。こういった店ではいくら学生とはいえ彼氏とは言わない。お連れの方というだろう。
「なるほど。お前がこれを頼んだから彼氏いったのか。」
「ん?なにが?」
「なぁ一葉。あのメニューになんて書いてあった?」
「んふふ。内緒♪。そんなことより......あーーん♡」
器用にまいたナポリタンを俺の前に向ける一葉。
(自分のほうがお腹がすいているだろうに。)
「ありがとう。」
......ぱく!
......うまい。コシのあるパスタに酸味と旨味が絡まったトマトソースが見事にマッチしている。
「ねぇねぇ。私にも♡」
味わっていると一葉も俺にやってほしそうな目で口を開けている。
右手にもう一つのフォークを取り、一口に収まるようナポリタンを巻き付ける。
「はい。あーーん」
「あーーん♡」
......ぱく!
一葉は嬉しそうに頬張り「美味しい!」と声を上げる。
ここからはお互いの口に互いが巻いたナポリタンを食べさせあった。
かなり量があったと思ったがすぐに大皿は空にした。
ちなみに値段は600円という驚きの安さだった。
次回「題名未定」
更新日5/9(日)を予定しています。