寄り道デート
◇◆◇◆
12:30 部活動後
「あぁ~。疲れたよぉ~」
何とか会議を今日中に終わらせた私はキクちゃんに思いっきりもたれる。
キクちゃんは「重いぞ」と言いたげな顔を向けるが私は気にしない。
「あれ?キクちゃん帰らないの?もうみんな帰っちゃったよ?」
私は部室内を見渡して尋ねる。
今この部室にいるのは私とキクちゃんの二人だけで他の人は早々に帰ってしまった。
「俺は今日鍵当番だしな。それに着替えないといけないし。」
結局あの後着替えるタイミングを逃したキクちゃんは、部活中ずっとシャツ姿だった。
いごこちが悪かったのか早く着替えたいと結構な頻度で愚痴っていた。
「はぁ。ようやく着替えられる。首元の歯形を隠しながら生活するのも楽じゃないな。」
そう言って私の目の前で下着姿になる。
「キクちゃーん?目の前に女の子がいるのにそんな姿になってもいいのかな~?」
「?」
私の問いかけにキクちゃんは不思議そうな顔をしながら着替えの制服に手を伸ばす。
(やっぱり私のことなんて眼中にないのかな......)
「何を言ってるんだ?俺の体なんて何度も見てるだろ?さすがにお前以外にこんなことはしないさ。て、おい!なんで抱き着いてくる?」
キクちゃんを抱きしめて安堵する。私の心配はただの杞憂だったみたいだ。
「キクちゃん。大好きだよ。」 「!!!!」
耳元で囁くと彼は不意を突かれたからか体をビクッと震わせ顔を赤くした。
あぁ、今日はなんていい日なんだろう。キクちゃんのめったに見られない1面を二度も見れたんだもの。
「か、一葉、この後、今日予定あるか。飯でも一緒にどうだ。」
愛しい人。わかってるくせに。私が君からの誘いを断ることなんてありえないのに。
「うん。大丈夫だよ。昼ご飯何食べよっか。早くいこ!」
「おい!まだ着替えてないのに引っ張るな!」
◇◆◇◆
着替えを終え、鍵を返してから二人で歩く。いつも通り俺が車道側で自転車を引きながら。
「何か食べたいものないか?」
「うーん。食べたいものというより行きたいところはあるかな。」
そう言って一葉はスマホの画面を見せてくる。
そこには少し離れたところにある喫茶店が表示されている。
「わかった。一葉がそういうならそこにしようか。」
そういうと彼女は嬉しそうに先導してくれた。
歩いて30分くらいのところにその喫茶店はあった。
大通りから少し離れた人通りの少ない場所にあるこの喫茶店に入ると、数人のお客さんが静かに食事やコーヒーを楽しんでいる落ち着いた場所だった。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしかったですか?」
店のマスターだろう白髪の似合うこの店の制服を身にまとった渋いおじいさんが対応してくれた。
俺たちは窓際のテーブルに通され向かい合うように座った。
「ご注文がお決まりでしたらお呼びください。」
出されたお冷を口に含みメニュー表を二人で覗く。
正直あまりこういう店に来たことが無いから彼女に合わせようと思っている。
「私決めたよ。」
「そうかならおれも同じものを頼もう。 すいませーン!」
俺はマスターを呼ぶ。
「はいはい。ご注文承ります。」
次回「マスター特製ナポリタン」
更新日は5/5(水)を予定しています。