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歪んだ愛  作者: 時計塔の翁
愛の形2
15/48

もう一つの歪んだ愛1

長くなりそうなので何話かに分けます。

 ◇◆◇◆


 夜中の八時を回ったころ、見回りの先生に見つかって会議は幕を閉じた。

 会議は収集のつかないところまでいっていたこともあり先生に怒られながらも安堵しながら荷物をかたずけ校舎を飛び出した。

 日は完全に沈み、夜空に浮かぶ三日月は街灯の少ない帰り道を照らすには心もとない。

 初夏が近いからなのか遠くから蛙の鳴き声が聞こえる。


 私は座りっぱなしで凝り固まった体を伸ばし、制服の胸ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。


 20:18


 あぁ、もうこんな時間か。まさか1時間で終わるはずの会議を3時間以上続け、結局まとまらずに解散とはざまあないな。

 自分のリーダーシップのなさに笑えてくる。なにが部長だ。なにが演出だ。結局役者をまともにやらせてもらえなかった自分の言葉にはそんなにも説得力がないのか。

 ついつい思考がマイナス方向に向かって突き進み、無意識に携帯のホーム画面を眺めて笑ってしまった。


「おい、歩きスマホは危ないぞ。」


 後ろから聞きなれた声に振り向くと強烈な光に目がくらんだ。


「うわっ!!眩しい!!」


「おっとすまない。今朝転倒してライトが上を向いて直らないんだ。少し失礼。」


 自転車を引いてきた副部長【澤部 菊池朗(さわべ きくちろう)】は申し訳なさそうに私と並んで歩きだした。

 菊池朗の家の方向とは真逆に進む彼に私はニヤケを抑えられない。


「......どうした一葉。なにか言いたそうだな。」


「ンフフフ。ねぇキクちゃん。君の家はあっち側だよねぇ。なんでこっちに来てるのかなぁ?」


 からかい口調の私の質問に彼は「何をいまさら」と言いたげな呆れた視線で返してきた。

 彼は帰りが遅くなったときは必ず私と一緒に帰ってくれる。1年のころから彼は私を送って行ってくれている。

 最初は自分の家の方向が同じだと言っていたが彼の家に行ったとき私の家から学校を挟んでま反対のところにあることを知ったときは驚いた。

 私の家から彼の家までかなりの距離があったからだ。

 それでも彼は遅くなったときは嫌な顔一つせず雨の日も、風が強い時も一緒に帰ってくれた。


「一葉、会議一日目お疲れ様。大変だったな。」


 ニヤニヤしながら見つめる私に恥ずかしくなったのか、彼はさっきの会議を話題にしてきた。


「......うん、ありがとう。」


「どうした。悩みや愚痴があるならいつもみたいに話していいぞ?」


 少し歩くスピードを落としながら彼は私の話に耳を傾けてくれた。 

 いつも彼は長い長い私の愚痴に合わせて歩くスピードを落としてくれる。

 だから彼の前なら私は自分の弱いところを、醜いところをさらけ出せるんだ。


「......長くなるかもしれないけどいい?」


「あぁ。」


「うっとおしいかもしれないけどいい?」


「あぁ。」


「......もしかしたら言いたくないこと聞くかもしれないけどいい?」


「......あぁ。」


 少し間を置いた彼の返答を聞いた私は一呼吸おいて話始めた。さっきの会議で最初に意見を言ってきたいけ好かないあいつのこと。それに便乗して舞台の流れを自分好みに変えようとするやつらのこと。細かいことをグチグチ文句を言うヒステリックなやつのこと。

 だんだん熱が入ってきて自分では止められなくなっていった。

 顔を真っ赤にして罵詈雑言を早口でしゃべる私に彼は頷きながらちゃんと聞いてくれた。

 それに甘えて私はさらにヒートアップする。


「......だからなんでそれをあの場でわざわざ聞く必要があんのよ!!後で個別にLINE寝聞いて来ればいいじゃん!!!!それなのにあいッ......ゴホッゲホゴホ!!!!」


「あーあ、むせるほど急がなくてもいいのに。この公園で少し休むか。」


 むせかえった私に彼は呆れながらも街灯に照らされた公園のベンチに私を座らせてくれた。

 まだむせている私の背を優しくさすってくれた。

 時々「大丈夫か?」と心配してくれた。

 嬉しくもあり、恥ずかしくもある時間を堪能していると、ようやく落ち着いてきた。

 咳が収まったのを見計らい彼の手が背中から離れ彼は立ち上がる。

 そしてすぐそばの自販機で冷たいカフェオレとアイスコーヒーを買って戻ってきた。

 そして私にカフェオレを差し出し、


「ほら、これでも飲んで少し落ち着け。」


「あ、ありがとう。珍しいね。キクちゃんが下校中に物を買うなんて。」


 照れているのか彼は顔を少し赤らめながら私の横に腰掛ける。


「まぁな。たまにはいいだろ。こんなことも。......俺もあの会議で疲れているんだ。少し休憩したい。」


「あははは、やっぱり疲れてたんだ。やっぱそうだよねぇ。」


 適当な会話を挟みながら二人で一息ついた。

 カフェオレの甘さが私の疲れを和ませてくれる。


「......」 「......」


「......真っ暗だね。」 「......あぁ。」


「......私たちしかいないね。」 「......そうだな。」


「......キクちゃん。」 「......なんだ」




「......なんで嘘つくの?」 「......」


次回「もう一つの歪んだ愛2」

更新日4/13(火)深夜を予定しています。

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