幸一 視点5(下校)
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下校時
鍵を役者の人に預け、僕たちは薄暗い帰り道をしゃべり名がら歩いて帰る。
彼女の歩幅は狭く、僕と比べるとゆっくりだ。だから気を付けないと彼女を置いて行ってしまいそうになる。
「瑠璃さんはさ、なんでこの部活に入ったの?。別に嫌味とかなしに純粋な興味なんだけど。」
いろいろと話をするうちに、この話題に行き着いた。
こう言っては彼女に悪いけど、彼女は役者を希望するようには見えない。
だから純粋な興味が湧いたんだ。
なんで彼女はこの部活を入部したのかを。
「......幸一くんはなんでこの部活に入ったの?」
質問したら逆に質問された。
なぜか彼女の言い方には焦りのようなものが感じる。彼女は何を心配しているんだろう。
別にやましいこともないので僕は自分のことを話して聞かせた。
役者希望で入ったこと。
自分の声の中途半端な高さが役に合わないとオーディションに落ちて小道具に配属されたことを話した。
「そうなんだ......」
「でもそのおかげで瑠璃さんと仲良くなれたのはよかったかな。」
「!!!!!......。う、うん。」
???なぜか彼女の顔が紅く見えるのは見間違いかな。
「......わ、私はね。裏方志望でここに入ったんだ、私、こんな性格だから、変わりたくて。でも私なんかが役者なんて務まらないよね......。変なこと言ってごめんなさい。」
彼女から伝わっていた焦りの正体。それは自分の性格を早く変えたいのに変わらない自分への焦り。
「そうなんだ。そんなに焦らなくてもいいと思うよ。人間すぐに変わろうとして変われるものでもないし、ゆっくりでいいから少しずつやっていけばいいと思うよ。それに瑠璃さんは容姿がきれいだから役者も似合うと思し。だから謝らないで。ね。」
何も悪くないのに謝る彼女はとても弱く見えた。
彼女はうつむいてしまいしばらくの間沈黙が流れた。
「..................てくれる......?」
「え?ごめん、もう一回言ってくれるかな?」
「ううん、大丈夫。何でもない。」
彼女は急に小さな声でボソッと何かを言った。
でも残念ながらちゃんと聞き取ることはできなかった。
だから聞き返したけど彼女は答えてくれない。
「ありがとう。私の家ここだから。送ってくれてありがとう。......」
そう言って彼女はマンションの前で立ち止まった。
立派な高層マンションだ。確かお金持ち御用達の高級マンションだったはず。
「うん。楽しかったよ。じゃあまた学校でね。」
「ありがとう。ま、また明日。」
僕は彼女がマンションの玄関を開け、エレベーターに乗ったのを見届けると来た道を戻った。
次回「瑠璃さん視点6(下校)」
更新日は4/4(月)となります。
先日Twitter、活動報告に記載しましたとおり、4月から更新日が一部曜日制に変更させていただきます。
詳しくは活動報告のほうをご覧ください。