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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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でも、あのハルと病気とはどうも結びつかず自然と車椅子をそっちの方に向けて動かしていた。そして、診察室を横目にゆっくり素通りするとき、チラッと扉を見た。普通は、⚪


⚪科とか××室とかの表記してあるがその部屋には何のプレートも掲げていなかった。病院関係者専用なのかなぁと思いながら立ち去ろうとした時、中から聞き覚えのある声が扉ごしにかすかに聞こえてきた。川崎医師だ。ミホの担当医でかれこれもう三年程の付き合いになる。聞き間違えるなんて事はない。今は全幅の信頼をおいている。周りの目もあるのでわざとハンドタオルを落とした振りをして出来るだけドアに近づいて聞き耳をたてた。やはり扉が分厚いせいかほとんど聞こえなかったがそんな中で『…あと、半年くらいかな…。』とだけがかすかに聞こえた気がした。


そもそも無機質な病院のでのもっと無機質な部屋から漏れでた川崎医師の言葉にミホはとても人間臭さを感じた。聞こえた言葉をぶつぶつとマスクの中でひとり言を繰り返す。「あと半年くらいかな…。」車椅子をゆっくりと進めながらその言葉の意味する主人公が自分ではないのか、と心がザワめいた。『まさか』と『やはり』が消えては変わり、変わっては消えての堂々巡りのままそのまま病室にもどった。


「ああっ…またアイツのお出迎えかぁ…。」


担当看護師のハルが遅刻生徒を睨み付けている体育教師のように目を吊り上げながらうろうろしていた。ミホを見つけると今度は仁王立ちに変わり、車椅子の前に立ち塞がった。そんな彼女をよそに知らな~い振りをして自分のベッドに潜りこんだ。さあ、くるよ!またいつものありがたいお説教の始まりだ。さあどうぞ…とうの昔に暗記したよ。と思いつつさっき見たハルの事を問いただしてみようかとも思ったがはぐらかされるのが落ちだろうと、とりあえず今日はやめておいた。『だから、ねっ‼ミホちゃんこれからも十分気をつけてね‼』とカン高い声でのいつもの説教タイムは終わった。5分29秒か…今日は特別長かったなぁ。同室の人達も苦笑いを浮かべていた。「あ~あ、すずめくん早く来ないかなぁ。聞いてもらいたい事沢山有るのに。」外出して疲れたのかしばしの眠りについた。そして夢の中の世界では、ミホはあのすずめくんと話が出来るようになっていた。パラレルワールドだ。

相も変わらずせっせと巣作りに精を出す彼に気になっている事を聞いてみた。「こんにちは。ミホだよ。え~っとわかるかなぁ、私の言葉?いつもキレイなお花や木の実をありがとうね。」やっぱり気のせいではなかった。少しすっとんきょうな声が夢の中のすずめくんから帰ってきたが何故かべらんめえ口調だった。『あぁ、ミホちゃん!やっとお話しが出来るようになったんだね、体調はどうだい?俺っちのプレゼント気にいってくれているようで良かったよ。また、ちょいちょい届けるからさア病気になんか負けんなよ〰』わぁ~!本当にすずめくんと話せてる!この際だから前から気になっていたもつひとつの巣について聞いてみた。「ねぇすずめくんってお嫁さんがもう一人増えたの?新居造りに忙しそうだけど…?」二、三度首をかしげてから答えが帰ってきた。『いんや〰俺っちのお嫁さんはぁ~ひとりだけだよ。生涯かけて彼女だけを愛すのさ!ってカッコいいだろ?だけどどうしても、もうひとつ巣が必要になっちまって今は大忙しなんだ。誰のかって?野暮な事聞くもんじゃないよ~それは秘密さぁ。その人との固い約束だからねぇ~。そしてね、…』軽く揺り起こされミホは現実へと連れ戻された。せっかくいいとこだったのに…


目の前に居るのが信頼している川崎医師でなかったら文句のひとつも言ってたいたところだ。


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