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顔をうずめたその背中に熱いものが流れた。母親はその女性の手に農作業で黒く固くなった自分の手を重ね『トゥワードメーノ』とだけ返事を返し、また朝食の準備に戻った。そして、何もなかったかのように、これからも、またこの家族の日常が続いてゆくのだろう。高床式の玄関で深く頭を下げ女性はパラウンの里を後にした。ミャンマーでは珍しいスズメが1羽ママの家の軒先に泊ってから遠くを目指すように青い空に飛びたって行った。どこまでも続く青い空に…。
うろこ雲が入道雲を押しのけ秋を連れてくる10月の爽やかなある日、ミホは成田空港の国際便発着ターミナルにいた。その手にパスポートとヤンゴン行きのチケットを握りしめ搭乗案内を待っていた。全日空NH813便成田13時50発、2時間30分の時差を越え18時30分頃ミャンマーに到着する予定である。観光目的ではない。あれから、いろいろ考えた。自分に出来る事、したい事。父の反対や、小山先生の心配を押切ってやっとここまで貫いてきた私のわがままだが後悔はしたくない。待っていてください。
成瀬さん。はるさん。今度は私があなた達の意志を継ぎます。バックに入れた「NPO国際医療援助隊」と書かれた腕章に誓った『ピンポン〜ご案内します…只今より成田初ヤンゴン行き813便にご搭乗のお客様の受付を始めます。…』
飛立つ空にスズメの小さな群れがたわむれていた。まるで新しい、ミホの門出を祝福するかのように…。
終




