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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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そんな人達の命を繋いでいるのが、「海外医療援助隊」のベースキャンプである。中には何日もかかってここを目指す医療難民も少くはない。DVDはそんな物資も人手もままならなくて、使える水も乏しく電気受給も制限された過酷な状況下でもそれぞれが精一杯、医療に取り組む様子を映していた。ミホと先生はそんな実態を微動だにせず見入っていた。と、そこで場面が変わりハルがカメラの前に姿を現した。浅黒く日焼けし、何か吹っ切れたように自信に満ちていて、日本の病院で看護師をしていた時とはまるで別人のように思われた。そんな事を考えながら見ていると、カメラの向こうのハルが語りかけてきた。『美保ちゃ〜〜ん。お久しぶり〜。元気にしてますかぁ〜〜?』うっ‼口調は以前のままだ。手もひらひらさせている。まさしく本物のハルだ。せめて、キャラだけでも変わっている事を願いつつ画面をながめていた。しかし、そんなこちらの事情はどこ吹く風と向こう側のハルはしゃべり続けている。


『宿題はちゃんと届きましたかぁ?本当は直接会ってちゃんと説明すれば良かったんだけどぉ~アタシどうもこういうの苦手でさぁ、あの答えだけじゃわからないよねぇ〜美保ちゃん今頃、たぶん怒りながらこのDVDを見ているんじゃないかなぁ。なのでぇここでしゃべっちやっていいかな?かなり、一方的な感じもするけど許してね。私ぃこう見えてもY総合病院では移植チームのメンバーの一員でね、あの部屋も仕事でちょくちょく使ってたんだよ。あそこには、美保ちゃんを始め、お母さんの洋子さん、妹のユキのデータも全て保管されてあったのよ。そこで私はたまたま昔、ユキが起こした事故に巻き込まれて亡くなった洋子さんの事を知ったの。そして、美保ちゃんのお母さんが授けてくれた心臓で妹がつい最近まで生きながらえる事ができた経緯や、その妹の余命が後半年であると言う現実も…。』

「ちょっと待ってよ‼そんな重大な事を何の前ぶりもなく、なんのためらいもなく、さらっと流しているのさ‼」思わずモニターに向かって怒鳴ってしまった。隣で一緒に見ていた小山先生も口をあんぐり開けたまま微動だにしない。

もう一度、スロー再生かコマ送りで見返ししたい衝動にかられた。


そう、それはごくごく普通の普通の反応だ。ミホも自分の頭を整理出来ずにいる。思わず一時停止のスイッチを押し、「考える」時間が欲しかった。脇に置いていた宿題のレポート用紙にもう一度目を通し確認した。つじつまは合っているし、決してウソとも思えない。正式な手続きをとって検証するまでもないだろう。そんな事をしても、迷惑をかける人こそあれ、喜ぶひとなど誰もいない。未だ一時停止のままのお隣さんに声をかけた。「大丈夫ですか、院長‼」『ほおっ…。』とため息をついてやっと動き出した。『知らんかった…。』右に同じだ。先ほどからの頭の使い過ぎでかどっと疲れが押し寄せ微かにめまいを覚えた。Max!Max!…。握りしめた手の汗がそう言っていた。再び、真実を知るという覚悟を再び試されているような気がした。複雑に混ざっていたパズルのピースが次々と集められてゆく。さあ、進もう。先生に続けて良いかと目配せをして、一時停止の魔法をといた。再びハルが話始める。


『ユキの余命を知った私は、長い間彼女が背負い続けてきた「贖罪」と「願い」に協力する事にしました。そう、あの時、美保ちゃんのお母さんのお墓で見つかっちゃった時も、妹の代わりにお花をたむけに行ったの。すでに妹は外出できるような身体じゃなかったからまさか美保ちゃんが「二人のユキ」に鉢合わせするとは思いもよらなかったのよ。驚かせちゃってゴメンナサイ。それと、話は少しさかのぼるけど小山先生にも大変お世話になりました。お礼を言っていたとお伝え頂けたらありがたいです。この計画は小山先生の協力なしでは成しえなかったのは、もう気付いているでしょう?』お隣りさんは少々バツの悪そうな顔で宙をながめている。『ユキの時からの付き合いだからずいぶん長いわね。美保ちゃんが骨髄移植が必要な状態にまでなっている事を知った私はもしや、と思いあなたとの適合性、合致率を先生に調べてもらったの。妹のユキとあなたのお母さんが心臓移植ができる位マッチングしていたのだからもしかしてという淡い期待を抱いていた私達姉妹に朗報が届いたわ。それからは、私は自分一人だけの体ではなくなった。定期的に通院し、ひたすら「その時」を待った。そして、ユキもそれを望んでいた。』


『期が熟し、私の骨髄は無事レシピエントに受け継がれたといういきさつだったのよ。そしてそれをやり遂げた私はその後、小山先生と連絡をとる事は二度としなかった。これ以上先生を巻き込むのは医師として取り返しのつかない結果になりかねなかったからね。もう、十分、御好意には甘えさせてもらって申し訳無いと思いつつ赤の他人の関係にさせてもらったのよ。そのあともあなたの状態はあの部屋のカルテでいつでも確認する事ができたからユキにもその都度、知らせてあげていた。そういう意味では職権乱用、情報漏洩と言われても仕方ないけど陰ながらあなたを見守り続けてきた妹は大変喜んでいた。しかし、そうこうしているうちに、二度めの命の危機が起こってしまった。「肝機能障害」。放っておくと、肝硬変から肝臓がんに進行する可能性も十分ある事はわかっていた。主治医の川崎先生は優秀な方よ。美保ちゃんもよく知ってるとは思うけど先生はあらゆる治療の中から生体肝移植を最善の方法として選んだ。この件に関しては川崎医師にもお知恵を借りて倫理的にスレスレの危ない橋を一緒に渡って頂いた。だってドナーが特定のレシピエントを選ぶなど決して許される事ではなかったから当然、「知らなかった」を通し続けてくださるようお願いした。今までも、そしてこれからもずっと。


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