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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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これが帰巣本能なのだとしたら何とも言えず複雑な気持ちになった。久しぶりの訪問に、一番にミホを迎えてくれたのは師長さんで正直ほっとした。ミホの回復を大変喜んてくれ、しばらく昔話に花を咲かせた。昔話って…花を咲かせるって…、自分はまだそんなにオバサンではないんだけど師長に話を合わせられる位、ミホもいい大人になったという事だろうか…。いつもなら今頃にはとっくにハルが話に割って入るはずなのだが、お休みなのだろうか?目的を悟られないように師長に、ハルの事を聞いてみた。『えっ?上田さんを尋ねて来たの?』と、不思議そうな反応をした。ハル目当てに訪れる人の珍しさが言葉から出ていた。やっぱ、そんな人居ないよね。ふつ〜に考えればね。しかし、ミホは違っていた。どうしても会わなければいけない人なのだ。『せっかく来てもらったのに…』と申し訳なさそうに師長は続けた。『彼女は、辞めてしまったのよ。』

「はあ〜〜??」と間抜けな声が思わず転がりでた。『とても、急な事だったので私達もびっくりしたんだけど昨年いっぱいでね、有休だってまだ沢山残っていたのに理由をきいても、一身上の都合で…としか言ってくれなかっわ。』ひとつため息をついて師長が続けた。

『ああ見えても…あら、失礼。コホン…彼女、仕事は真面目だしスキルだってナースの中で一、ニを争うくらいなの。こちらとしては、それ以上はプライバシーに係る事だから聞くことは出来なかったんだけど。全く何を考えているのか最後までわからない娘だったわ。』と首をかしげながら困惑している様子だった。「そうだったんですか…だからケータイもメールも繋がらなかったんですね…。」『上田さんが何かミホさんにご迷惑でもおかけしたのかしら?』やはり周りからの目もミホとそう変わりないようだった。心配気な師長にわざと明るく「そんな事ないですよ、何だか懐かしくてお礼のひとつでも言えたらなあって思いつきで来ちゃったんです。すみません。お忙しいところ…(うん、大人の対応だ。しかし、ハルのヤツ逃げたな…‼)」と病院を後にしつつ歩くたびに悔しさがこみ上げてくる。今ここで「バカヤロー」って叫びそうになるから、ミホ!!理性を勝たせろ‼全速力で走る事で沸騰直前の脳ミソのシステムをストップさせようとした。原始的な方法だか一番効果的だ。そうすると、思考回路がリセットされる気がする。


そう、こんなところで流す涙はあいにく持ち合わせてはいないよ。そして、「ハル‼まだNOと決まった訳じゃないんだ。宿題を提出しない限りあんたはずっと留年生のまんまだよ。私は決してあきらめない。」全力疾走から仁王立ちになった自分をこぶした。しかし、…これでハルとの連絡手段は全てなくなってしまった。あとは、ただひたすら「待つ」と言うハルまかせ、他力本願の道だけがたよりの綱だった。お正月に引いた「おみくじ」に書いてあった「待ち人、来るが遅し」本当だろうか?あてのない「待ち続ける」という行為がこれほと気が遠くなる作業になるとは想像もしていなかった。振り返ればハルに渡しっきりになっているナゾの再封印された紹介状の内容くらいは目を通しておけばよかったとの後悔と共にどこかに消えた宿題とハルの行方が、頭をチラチラさせる毎日を送っていた。そんなミホのもとにある日、意外な訪問者があった。ユキさんのご主人だ。彼女の時間が止まったあの事故からかれこれ1年半が過ぎようとしていた。小山医院でここの住所を教えてもらったとかでミホに小包を渡す為にきたと告げた。


個人の居宅を調べてまでミホに渡したい物とは一体どんな貴重品なのだろうか?小包を手に取ってまじまじと見た。それはまだ未開封で受取人の欄にはユキさんのご主人の名前そしてその後にカッコ( )書きで飯嶋美保様とあった。んっ??どうして自分の名前がそこにあるのかは送り主を見てようやく理解した。「上田 ハル」と記入された国際便だったのだ。ハルだと‼本当にあのハルからなのか‼防水シートに覆われて厳重に封がされているわりには荷物の内容の種類を書き込むところは空欄だった。よく、税関をパスしたものだ。今までさんざんハルには振り回されてきたが、今度は一体何なのだろう?急に居なくなったと思えば突然の国際便…。よく見るとミャンマーからだった。ミャンマー…?てっきりバカンス中のグアムかハワイからのお土産と思っていたミホはこの状況を理解できなくてしばし、それを見つめたままだった。小包を持ってきてくれたユキさんのご主人が思わず『あのぅ…』と声をかけるのと同時に「ハルと…あっ、いえもしや上田ハルさんとお知り合いなのですか?」と聞いた。『はい、知っています。』とすんなり、そしてミホには重大な返事が返ってきた。


なんと、何と言う所にチェックメイトの駒があったのだろう。戸惑いがちに「失礼ですがどういうご関係ですか?」と尋ねるミホに『この小包を開けてご覧になればおわかりいただけると思います。私の口からはこれ以上申し上げる事は差し控えたい心中、お察しください。ご期待に添えずすみません。これで私の役割も全て終わりました。』それだけ言うと、彼は少し肩を落とした様に帰ってしまった。そんな彼は、背負っていた荷物をやっと下ろすことが出来たからの安堵からかそれとも、何か別の事情が彼をそうさせたのか、その時のミホには察する事はできなかった。ただ、その後ろ姿がとても淋しそうにミホの目に写って消えなかった。突然のハルの訪問。ピーンと張り詰めた空気がその小包から放たれていた。ようやく、御出席のようね…ハル。私の採点は厳しいわよ。覚悟しなさい‼強がってはみたものの早る気持ちは押さえきれない。長く、果てしなく長い間求めていた物の全てがこの中に…。半信半疑ながら防水されているダンボールの包装をゆっくりと剝していった。玉手箱をそっと覗くとなかには先日ミホが宿題と称して手渡したコピー用紙の質問状とカルテ一式、DVDと一枚のメッセージ付の写真がきちんと揃えられて入っていた。


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