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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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改めて室内を見渡すとパスワードを受け入れたのを確認したかのように小さな機械音と共に窓のシャッターと何かのファイル保管用に見える

スチール棚がその姿を見せた。まるでヒーロー物の指令室のようだった。尋常ではないこの部屋で、これから一体何が行なわれるのだろうか?今日、ミホが来院した事と関係しているであろうと薄々は感じてはいるがこちらから聞く勇気はなかった。川崎先生に全てを託すしかないとマインドコントロールした。。先生はひととおり落ち着いた部屋を確かめると事務机のイスに座りミホにも真向かいに座るように言った。そして、自分はファイルBOXに近づき、人差し指をかざしてから何やら操作しながら一冊のファイルとカルテを取り出していた。指紋認証システムか…。全く何段階のセキュリティをかけているのかもはやわからなかった。何百人もいるこの病院関係者の中で一体どれだけの人がここまで辿り着けるのだろうか…?まさにトップシークレットという言葉が当てはまる。再びデスクに戻って来た先生はさっそく本題に入り始めた。『さて、これは、ミホちゃん、いやもう「ちゃん」と言う年齢じゃなかったね…。コホン。ミホさんのカルテです』と不安をやわらげようとしているのがミホには良くわかった。それくらい長い付き合いなのだから…。


『運よくドナーが見つかって本当に良かったですね。異例の速さです。6か月だなんて。それに、今回は生体肝移植なんですよ。登録してくださっている方の中に偶然ミホさんに適合する人が現れたんです。前回の事と言い、二度までもドナーに恵まれるなんてなんだか意図的な物さえ感じます。まあ、それは決してあり得ない事なんですがね…。医療や科学の最先端に携わる立場上このような発言は適切ではないかも知れませんが、私は世の中にはそういう非現実的、非論理的な事もあると思っています。』ほんの少し遠い目をして川崎医師は何かを思い出している様につぶやいた。『すみません。横道にそれてしまいました。まず、この部屋は様々な移植を希望している方の情報やそれを手助けして頂ける善意のドナーの方々のデータを保管しています。それゆえ一般の人はもちろん病院職員の中でもごく限られた立場の人間しか入る事を許されてはいません。これは、ミホさんも肝に命じておいてください。何故なら極秘裏のうちにミッションを完結させなければならないと言う事ともうひとつ、なによりも我々は個人のプライバシーに最大の配慮を心がけなければならないと言う「譲れない掟」を抱えているからです。今回の生体肝移植も例外ではなくミホさんがどこの誰から肝臓の一部をもらえるかは今後もどの様な形でさえ知り得る事は出来ません。しそてそれはドナーに対しても同じであります。善意の第三者は自分の臓器がどこの誰に移植されたか等の情報は一切教えられる事も無いのです。それが今の日本移植学会が持つ根底の「倫理」なのです。これらの事をミホさんにもしっかり理解し順守していただきたいのです。よく考えて納得された上でこの誓約書にサインしてください。全てはここから始まるのです。』


「イしょく」「ドなー」「ヤクそく」…「いしょく」「ドナー」「約束」…責任の重大さを突き付けられた気持ちがした。しかし、ここで足踏みしている場合ではない。ベタな言葉だが、心を落ち着かせ、ペンを取った。不思議とそのペンはミホの手に吸い寄せられる様にフワッと馴染んだ。こんな形で「センコク室」のナゾは明らかになったが、じゃあ、あのハルの場合はどうだったのか…?あの時の取り乱し様、あの涙の訳は…。その答は、秘密厳守と言う永遠に閉ざされた扉の向こうに消えてしまった。その後、川崎医師は手術までの準備や流れを解りやすく説明してくれ最後に何か聞きたい事はないですか?とミホに言った。あまり専門的や難しい内容は解らなかったが今、自分が言える最高の気持をチカラ強く言った。「お願いします。私、ドナーの方に恥じないように頑張って生きたいです。」それを受け止めたように川崎医師は静かにうなずいた。そしてミホの手術は2週間後に決まり再入院をした。

そう言えば、この前のお礼も十分言えていない事を思い出して土産代わりに売店のシュークリームを買い占め、東館の5階のナースステーションを訪れた。いつもなら、いの一番にミホの姿を見つけては弾丸トークで攻めてくるハルが居るはずなのだが…。キョロキョロ???今日は静かだ…。しかし、それはそれでまた不気味だ。安物のお化け屋敷に入ったように、もう一度キョロキョロ…。ウロウロしていると看護師長さんと数人のナースがミホに気づき優しく迎えてくれた。正直ここでの良い思い出はこれっぽっちもなかった。むしろ記憶から消してしまいたい事の方が多い。


師長さんにハルの事を尋ねると今日、お休みとの事だった。何だかホッとした。自分でも気付かないうちに身構えてしまってたようで、宜しくお伝えくださいとの伝言を残しその場を後にした。次に、長い間会っていないお友達の様子を見に行った。他の患者さんに見つからないように窓際までたどり着くといつもの合図を送る。『トン.ト.トン』流石にひな鳥達は巣立ち2つ並んだ空の巣は次の春を待ち遠しそうにひっそりとしていた。以前からある巣を見るとこれこそが『立つ鳥跡を濁さず』の諺通りきちんと片付けられていた。さすが!!頑張ったね、すずめくん。ふと隣に目を移すと新しく誰かの為に作ったと言っていた新居には何やら奇妙な物が少しずつ集められていた。まるでおもちゃ箱みたい。きっと楽しいお友達なのね。いつ

かまた紹介してね♡と小さな声でつぶやいた。10分ほど待ってみたが結局すずめくんには会えず部屋を出た。入院している北棟に戻るまでにお手洗いでまた、パジャマに着替えた。その後、いろいろな検査に追われ2週間という日々はあっと言う間に過ぎていった。


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