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受け継がれるバトン  作者: 伊達サキ
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「あぁ、また入院生活なのか…」と肩を落とすミホを見かねてか、川崎医師は『そんなに急ぐ事はないですよ。今すぐどうこうと言うことじゃないからとりあえず身内の人との適合性とあと、申請だけを出す位に考えてもらってね。それから激しい運動はダメだからね!』とそこだけは厳しくいわれた。美保は独りっ子なので先ず、父との適合率を調べたが望みも虚しく一致しなかった。川崎医師はドナー登録をしている中で適合者が現れるまで気長に待ちましょう、と決して落胆することは無く次のチャンスに期待していいんだよ、と言ってくれているようだった。それまでの治療は働きながら小山医院で続けたいと川崎医師に申し出た。長年の付き合いからいみじくもミホの性格をよく知っている事や、居場所が病院という事もあり渋々ながら許しがでた。小山医院での様子はちくいち報告することが条件だったが、体調が悪化したときは、勤務中でもすぐに対処してもらえるから一番安全な所だからと反対していた父をも説き伏せた。そして仕事は窓口業務だけとなり半ば小山医院に入院しながら勤務するという不自然な状態だったが今を精いっぱい生きる最善の方法だとミホは思っていた。大した変化もなく半年が過ぎようとしていたある日、Y総合病院の川崎医師からの朗報が届いた。移植適合者、ドナーがみつかったのだ。


前回の骨髄移植の時もそうだったがこんなに早くドナーか見つかるとはミホは神がかり的な幸運の持ち主である。自分はもとより周りも同じようにそう思っていた。そして、センダイイチグウのチャンス。移植には万全を期す為余裕を持って、それから一週間後に再入院することになっだ。小山医院のひな鳥も随分大きくなってもう一人立ちをしている頃だ。今度会うときは…。もうお父さんお母さん達とは見分けがつかない位になっているだろうなぁ。きっとまた、遊ぼうね。それまでちょっとの間だけ「サヨナラ」だよ。そしてミホは小山医院を一時退職した。院長も看護師の三木さんも『待ってるからね…。』と暖かくおくりだしてくれた。「はい。ありがとうございます。お世話になりました。必ず私、戻ってきます…。も、

戻って来て良いですか?…?」二人の姿が潤んだ向こうで四人に見えた。優しい笑顔がその答えだった。


川崎医師との約束の日、ミホは一人で病院を訪れた。もう未成年ではない。自分の事は自分で決められる大人になっていた。以前、初めてここを訪れた時は父も一緒だったのをふと、思い出した。総合受付で入院手続きをして待合い所にいるように言われ、他の患者さんにまみれて腰掛けていると川崎先生自身が迎えに来てくれた。少々びっくりしていると『こんにちは。元気そうで何よりです。』相変わらず優しく包み込んでくれるような声だった。ふっと、抱えていた荷物が少し軽くなったような気がした。『じゃあ、いきましょうか…』とミホを促した。以前に入院していた頃に比べると何となく病院特有の無機質感が少なくなったような気がする。壁の色や飾られた絵画、改装で新たに設けられた中庭のカフェスペース!談話室もゆったりと造り替えられ、居心地の良さそうなソファーと大画面の液晶テレビ、自販機や挽きたてのコーヒーが飲めるバリスタもあった。ここに居る人もお見舞いに来た人も、少しでも気持ちを明るい方に向けられればという造り手の気持ちがうかがえた。売店と名物おばちゃんはどうなったのかな?それだけは、残しておいてほしかったが…。しかし、これだけ明るい雰囲気になったなら、付き添いエコノミー症候群の人も少なくなるかもと思いながらキョロキョロと先生の後をついて歩いていると、急に足音が止まった。そして、ジャラジャラとカギらしい音。次の瞬間、先生の背中に顔面衝突。おデコをさすりながらバツが悪そうにゆっくり顔を上げた。っと!!「ここは…!!あわわわ、!!」両手で自分の口を塞いだ。あの日の悪夢が頭をよぎる「センコク室??」心臓がバグバグ音をたて冷や汗を量産している。どういう事なの?そんな不安をよそにその扉は再びミホ達を飲込んだ。真っ暗な部屋の中核が先生の手によってベールを脱いだ。全貌があらわになった風景は以前ミホが見たそれらと何ら変わった所はなかったように思われる。その後、先生はドアの隅にあるパネルらしきものに暗証番号だろうか、ピッピッピッピッと4回音を鳴らし振り返った。ミホの顔がよほど借りてきたネコみたいに見えたのか川崎医師は『ここは病院内でも特にセキュリティが厳しくてね…。』とさらっと言葉を流した。そうか、だからあの時は警報器が鳴ったんだ…。ドアを開けてほんの数十秒以内にロック解除しなければ、セキュリティが侵入者有り、と認識し、通報されるシステムになっていたんだ。短絡的だった自分を再び恥じた。しかし、ここは以前ミホが診察の時に先生にしつこく尋ねたはずの部屋だ。上手いことはぐらかされてそれでおしまいになっていたままだ。まさか、こんな形で知る事になろうとは夢にも思わなかった。


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