action18
ヤバい!!非常ベルだ!!やはり何のセキュリティも無いなんて…自分の考えのあまさを後悔したがもう遅かった。警備員が来る前に何とかして
ここから出なくては!!不法侵入で警察に突き出されることも十分ありえる。そう、病院の誰もが、その存在をひた隠しにしているこの部屋の秘密はまた、闇に包まれたまま遠くに消えていく。しかし今ミホが最優先にするのはこの状況から脱することだ。鳴り続けるベルはミホの逃走を大きく阻んでいた。いくら人通りの少ない奥まった部屋でも、外にいる人達の関心はこの一点に集中しているだろう。まさか、今さら素知らぬ顔で迷子になりましたと言ってノコノコ出ていける状態でもないし捕まる事は確実だ。だけど初めて入ったこの部屋の構造なとわかるはずはない。奥に行けば隣の部屋につながっているのか?外に出られる非常口があるのか?窓はあるのか?頭がフリーズしてミホ自身が今、非常口だ。心の中でベルの音が高まってくる。
遠くから警備員であろう人達の駆けてくるクツの音が段々近く大きくなるにつれ、じとっとしていた体の汗が玉のような油汗に変わり鎖のように重く体にまとわりついてくるのが自分にでも判る。入り乱れたクツの音がドアの前で止まった。放心状態で動くこともできず立ちつくすミホの腕をその時突然、誰かが強く引っ張った。『こっち!!』。次の瞬間ドアは大きな音をたてて口をひらいた。「誰かいるのか!!」と男の人が叫んでいたのを失う意識の向こうで聞いていた。そして、そこから先の記憶はとだえていた。次に目覚めたのは、病院のベッドらしき所で隣には、ミホの手を握りしめたまま優しく微笑んでいるハルの姿があった。「ここは…?!」と飛び起きそうになったミホを静止するように『大丈夫だよ。ここ
は安全だから』と告げた。さっきまでの緊張の糸が切れ体の中をアドレナリンが暴走しているようで思考回路がショートしていた。一体どうなっているのか全く理解できなかった。しかも、隣にいるのが…ハル?あの…ハル。自分自身をなんとか落ち着かせてから思いきって聞いてみた。
「あのーさっき助けてくれたのはハル…いえ、上田さんだったのですか?」少々驚いたように『はぁ~?助ける?私が?ミホちゃんを?』首をかしげながら何の事か本当に解らない様子だった。事情を詳しく聞きたかがるミホに『中庭で倒れてるのを病院のスタッフが見つけてぇ救急外来からこの急患処置室に運ばれて来たとの事でぇた、ま、た、ま、以前受け持ちだったわたしが駆り出されちゃったのよ。ほらミホちゃんまだ完全に治った訳じゃあないからぁ~川崎先生も心配なさって目が覚めるまででいいから付き添ってあげて欲しいって頼まれちゃったの。あとは血圧とか脈拍を測って異常がなかったら帰っていいって言ってたわ。あ~これって残業代つくのかなぁ〜。』何だか目覚めた時からの印象とはまるっきり違う。いつもの『ウザイハル』に戻っていた。『でもどうして中庭なんかに一人でいたの?散歩?それともデートの待ち合わせだとか…?まあどちらでもいいけどたまにはこっちにも顔見せてよ。差し入れとかもってさぁ…アハハ。』強制終了だ。これ以上ハルと話すことは無い。
あの絶対絶命のなかでミホの腕をひっばって助けてくれた恩人は今、目の前に居るハルではない事を確信した。じゃあ一体誰が私を助けてくれたのだろう?…女の人の声だったような…かろうじて覚えているのはそれだけだった。頼りない記憶をかき集めながら自分の心と体の歯車を合わせようと必死なミホをよそに『ハイ。OK〜。血圧も脈拍も異常なしっと、気分はどう?』と気遣いのないいつものハルがたたみかけてくる。嫌だ!!もう1分たりともここには居たくない。「お陰様でもう大丈夫です。ありがとうございました。一人で帰れます」とハルに告げた。自分でもここ数年でずいぶん大人になったと思う。良い意味でも悪い意味でも。こんなうわべだけのお礼が言えるようになったように…。いつの間にか太陽も傾きビルの森に沈みかけていた。帰り道を急ぎながら今日の出来事を何度も思い出そうとするがやはりあの非常ベルの音と自分の腕をひっばって助けてくれた『こっち!!』の声までで止まってしまう。「ふぅ〜っ」とため息をつきながら自己嫌悪と後悔を繰り返しながら少し重い体を引きずって歩いた。




